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【医師論文解説】1日1杯なら安全!?最新研究が明かす、酒と血圧の関係

背景: アルコール摂取と血圧の関連性は多くの研究で示されてきましたが、異なる種類のアルコール飲料が血圧に与える影響の違いについては十分に研究されていません。本研究では、赤ワイン、白ワイン、ビール、蒸留酒が血圧に与える影響が同様であるという仮説を立て、デンマークの一般人口を対象に大規模な調査を行いました。

方法: デンマークの一般人口から20-100歳の男女104,467人を対象としました。アルコール摂取量と種類は質問票で評価し、血圧は自動デジタル血圧計で測定しました。多変量線形回帰モデルを用いて、週当たりの飲酒量と血圧の関連を分析し、性別で層別化し、関連する交絡因子を調整しました。各アルコールの種類(赤ワイン、白ワイン、ビール、蒸留酒とデザートワイン)について、他のアルコール種類を調整した同様のモデルで分析を行いました。

結果:

  1. 対象者の大多数(73.7%)が複数種類のアルコールを摂取していましたが、12.6%が赤ワインのみ、4.5%がビールのみ、1.9%が白ワインのみ、1.0%が蒸留酒とデザートワインのみを摂取していました。

  2. 総飲酒量と収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)との間に用量依存性の関連が見られました(P < .001)。高摂取群(週35杯超)と低摂取群(週1-2杯)の間で、粗差でSBPが11mmHg、DBPが7mmHg高値でした。

  3. 全体として、週1杯あたりSBPが0.15-0.17mmHg、DBPが0.08-0.15mmHg上昇しました。

  4. 年齢と性別で層別化すると、60歳未満の個人と女性で影響がやや大きくなりました。

  5. 赤ワイン、白ワイン、ビールの血圧上昇効果はほぼ同等でした。蒸留酒については、DBPに明確な上昇または低下傾向が見られませんでした。

  6. 感度分析(がん、心筋梗塞、脳卒中の既往歴のある対象者を除外したもの、降圧薬服用者を除外したもの、デザートワインを除外したもの)でも、主解析とほぼ同様の結果が得られました。

論点:

  1. アルコール摂取と血圧上昇の関連性が強く、用量依存的であることが確認されました。

  2. 赤ワイン、白ワイン、ビールの血圧上昇効果に有意な差は見られず、特定の種類のアルコールが血圧に有益な影響を与えるという証拠は得られませんでした。

  3. アルコールによる血圧上昇のメカニズムとして、炎症や酸化ストレスによる血管内皮機能障害が考えられます。

  4. 本研究結果は、アルコール摂取量の削減が血圧管理に重要であることを示唆しています。

結論: アルコール摂取は収縮期血圧と拡張期血圧の有意な上昇と関連しており、この効果は赤ワイン、白ワイン、ビール、蒸留酒で同様でした。1日1杯以下のアルコール摂取は血圧に中立的な効果を示しました。

文献: Jensen, Gorm Boje et al. “Type of Alcohol and Blood Pressure: The Copenhagen General Population Study.” The American journal of medicine, S0002-9343(24)00280-8. 14 May. 2024, doi:10.1016/j.amjmed.2024.05.001

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所感:

本研究は、一般人口を対象とした大規模なコホート研究であり、アルコール摂取と血圧の関連性について重要な知見を提供しています。特に、異なる種類のアルコール飲料が血圧に与える影響を比較した点が新規性高く、臨床的に重要です。結果は、アルコールの種類に関わらず摂取量が重要であることを示唆しており、これは患者指導や公衆衛生政策に直接的に応用可能です。

ただし、横断研究であるため因果関係の推論には限界があります。また、自己報告によるアルコール摂取量の評価は過小報告のリスクがあり、結果の解釈には注意が必要です。さらに、対象がデンマーク人に限定されているため、他の人種や文化圏への一般化には慎重であるべきです。

今後は、前向き研究や介入研究によって因果関係をより明確にすること、また遺伝子多型を考慮したメンデルランダム化研究などで、本研究結果の裏付けを行うことが期待されます。さらに、アルコールが血圧に影響を与えるメカニズムの詳細な解明も、予防や治療戦略の開発に重要となるでしょう。

総じて、本研究は血圧管理におけるアルコール摂取の重要性を再確認し、臨床現場での患者指導や公衆衛生政策の立案に有用な科学的根拠を提供しています。

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