【医師論文解説】聞こえない子供に希望を: 蝸牛神経欠損児への人工内耳手術の衝撃的結果【Abst.】
背景:
先天性感音性難聴は、子どもたちの教育、就職、そして心理社会的状態に深刻な影響を与えます。
現在、これらの患者に対する治療法として、世界中で人工内耳手術が承認されています。蝸牛神経欠損は、小児感音性難聴症例の1〜15.4%を占める重要な原因です。しかし、これらの子どもたちへの人工内耳手術は困難を伴い、術後の結果も個人差が大きいのが現状です。
本研究は、蝸牛神経欠損児における画像診断所見、聴覚特性、そして人工内耳手術の結果を詳細に分析することを目的としています。
方法:
本研究は、2016年から2023年にかけてホーチミン市耳鼻咽喉科病院で蝸牛神経欠損と診断され、人工内耳手術を受けた25名の言語習得前難聴児を対象とした後ろ向き研究です。
蝸牛神経の評価には、高解像度3D T2強調高速スピンエコーMRIを使用し、傍矢状面と軸位断で撮影しました。蝸牛神経の直径が内耳道中央部で同側の顔面神経より小さい場合を「低形成」、蝸牛神経が確認できない場合を「無形成」と定義しました。
聴覚能力の評価には、Categories of Auditory Performance (CAP)スコアを使用しました。
結果:
患者特性:
男性10名、女性15名(男女比 1:1.5)
年齢範囲: 1〜15歳(平均年齢 5.04 ± 4.26歳)
全患者が重度から高度の感音性難聴
MRI所見:
蝸牛神経低形成: 76%(19例)
蝸牛神経無形成: 24%(6例)
手術時平均年齢:
低形成群: 5.4 ± 4.6歳
無形成群: 4.0 ± 3.2歳
内耳奇形: 52%(13例)に認められた
聴覚能力の改善:
術後1年の平均CAPスコア: 4.8
術後6ヶ月および1年時点で、無形成群の平均CAPスコアは低形成群と比較して有意に低かった(p < 0.05)
議論:
蝸牛神経欠損患者、特に蝸牛神経無形成例への人工内耳手術の有効性については依然として議論が続いています。これらの患者に対しては、聴性脳幹インプラント(ABI)も代替治療オプションとして考えられますが、一般的にABIの成績は人工内耳よりも劣ります。
本研究結果は、蝸牛神経欠損児においても人工内耳手術により聴覚能力の改善が得られることを示しています。特に、蝸牛神経低形成群では無形成群と比較してより良好な結果が得られました。これは、残存する神経線維が聴覚情報の伝達に寄与している可能性を示唆しています。
しかし、個々の症例における最適な治療法の選択は依然として困難です。術前の詳細な画像評価と、患者家族への十分な説明と同意が重要となります。
結論:
蝸牛神経欠損児に対する人工内耳手術は、聴力回復と言語発達において一定の有益性を示しました。特に蝸牛神経低形成患者では、無形成患者と比較してより良好な予後が期待できます。
文献:Huy, Pham Thanh, and Le Tran Quang Minh. “Efficacy of cochlear implantation in cochlear nerve deficiency children - A single center study.” American journal of otolaryngology, vol. 45,6 104428. 20 Jul. 2024, doi:10.1016/j.amjoto.2024.104428
この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。
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所感:
本研究は、これまで治療が困難とされてきた蝸牛神経欠損児に対する人工内耳手術の可能性を示す重要な知見を提供しています。特に、蝸牛神経低形成群と無形成群での結果の違いは、術前評価の重要性と、個々の患者に応じた治療戦略の必要性を強調しています。
今後は、より長期的な経過観察や、言語発達や社会適応などの広範な評価を含めた研究が望まれます。また、人工内耳と聴性脳幹インプラントの比較研究や、神経可塑性を促進する rehabilitationプログラムの開発なども重要な研究課題となるでしょう。
この分野の進歩は、難聴児とその家族に新たな希望をもたらすと同時に、聴覚生理学や神経科学の発展にも貢献すると期待されます。今後も症例の蓄積と綿密な分析を続け、エビデンスに基づいた治療指針の確立を目指すべきでしょう。
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