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【読書レビュー】創価学会・公明党の研究ー自公連立政権の内在論理

前回の記事で公明党について客観的に詳述されている本の紹介をした。
今回は創価学会と公明党の関係について詳述されている、中野潤『創価学会・公明党の研究』を紹介する。


本書の構成

本書は非自民連立政権から創価学会と公明党の関係を事実ベースで記されている。しかし注意が必要な点は、薬師寺克之『公明党 創価学会と50年の軌跡』とは異なり、公の資料や学術的な論考を基にしているわけではないことだ。
あとがきにて著者は以下のように述べている。

私は、岩波書店の編集者から本書を書くよう勧められた時、かなり躊躇があった。本書で描いた創価学会と公明党の内情は、こうした形で明らかにする前提で聞きだしたものではないからだ。ご教示いただいた学会本部および地方組織の幹部や元幹部、それに公明党の国会議員や地方議員の方々からすれば、不本意であろう。その点は、率直にお詫びしなければならない。

本書で記載されている「事実」とは、あくまでインタビューによって知りえた事実である。この点に留意しながら本書を読み進めなければ、大きな誤解が生じることを私は懸念している。


学会は「ポスト池田」を求めているのか

本書で強調されている話題のひとつに「ポスト池田」を巡る戦いというものがある。それは、池田が理事長の正木と事務総長の谷川を競わせている――そういう話だ。出世レースを競わせること自体はどの組織においても珍しくはないし、そうして人材育成を図ることも別におかしくはない。

私が引っかかった箇所は、その出世レースを「ポスト池田」と表現している点だ。

創価学会の憲法とも言うべき創価学会会憲の前文には以下の記載がある。

 創価学会は、「三代会長」を広宣流布の永遠の師匠と仰ぎ、異体同心の信心をもって、池田先生が示された未来と世界にわたる大構想に基づき、世界広宣流布の大願を成就しゆくものである。

つまり、創価学会は牧口・戸田・池田の三代会長の指導を根本に活動していくと宣言しているのだ。少なくとも一般会員はその認識だ。

しかし「ポスト池田」の意味するところは何であろうか。ストレートに読み解けば、三代会長と並ぶ存在を意味するだろう。だが、学会員の肌感覚として、何の功績もなしに三代会長と双璧をなす存在が現れることは理解しがたい。
例えばキリスト教のパウロ的な立ち位置ならまだ納得できる。しかしそれは「ポスト池田」と呼べるものなのだろうか。また、学会本部や地方幹部がそのように発言したのだろうか。実際本書ではインタビューの中に「ポスト池田」という単語は出てこない。著者が便宜上作り出した言葉であろう。

実際に幹部へインタビューを行い、それに基づき書かれた著書であることは間違いない。しかし「ポスト池田」の文脈に代表されるように、限りなくゴシップに近いような記載も少なくない。その点で、薬師寺克之『公明党』と比較すると、信ぴょう性はどうしても低くなってしまう。


一般会員と最高幹部との感覚の乖離

ただ前段で指摘したことは、一般会員の私だから思うことであって、真剣に池田逝去後の学会を考えている地方幹部や本部がどう思っているか、私には全くわからない。「ポスト池田」を本気で考えているのかもしれない。

私の祖父は草創の一粒種で、一人で今の地区を作り、第一次宗門事件では支部を守り抜いた人物だ(注1)。その祖父に第一次宗門事件のことや「現炉問題」のことを聞こうとしてもはぐらかされるなど、中々答えてくれない。

そういう意味では、本書で出てくる生々しいやり取りは事実であろう。

小選挙区比例代表並立制の導入の中での公明党と創価学会との駆け引き、集団的自衛権の行使と軽減税率導入時の攻防はヒリヒリするものがある。
軽減税率導入に際し、公明党が一時は自民党案の還付制度を飲もうとしていたことは驚いた。しかし創価学会からの「高齢者の痛税感をわかっていない」「前回選挙で公約として掲げて戦ったのに、これでは今回選挙は戦えない」との声に押され、軽減税率導入で押し切ったことは知らなかった。
軽減税率導入反対派で、段階的な給付付き税額控除導入には賛成派の私にとっては、「創価学会幹部糞やな」と思わせるに十分な記載だった。

今後市議との懇談が控えているが、どう話を持って行こうか困ったものである。

話が脱線したが、一般的に創価学会と公明党の関係は薄れてきているとの認識を、実はそうではなく公明党が創価学会に従っているという図式を示したのが本書の大きなポイントである。

本書で知った最高幹部の動きに対し、率直に言って失望した(まあ最高幹部にはいつも失望していますけど)。ただ、これだけ大きな組織になると、一般会員と最高幹部が同じ目線であることはよろしくない。そのあたりが難しい。薬師寺克之は「公明党にはビジョンがない」と指摘したが、創価学会はそのようなビジョンをもっているのだろうか。少なくとも、私たち一般会員と最高幹部とでは描いているビジョンに大きな乖離がある。


Twitterで目にした「反原田創価学会」

冒頭にて「ポスト池田」レースに正木派と谷川派がいると紹介したが、正木派理事長の職を解任され、現状次期会長は谷川が就くと目されている。

こうした事情を踏まえると、Twitter上でよく見かける「反原田」アカウントの正体が理解できる。著者は元幹部にも取材をしているが、元幹部というのは正職員から外された幹部のことであろう。副役職や主任部長という肩書が一般的だろう。そうした幹部は発言権が弱くなる。それは地元組織でも見られる。

著者はそれを「正木派の更迭」と捉えている。実際、Twitter上に「反原田」を掲げるアカウントが一定数のフォロワーを抱えていることを見ると、この仮説はあながち間違いではなさそうだ。
実際、池田が会長就任した際も離反した幹部はいたし、宗門事件の度に幹部や会員たちは離れていっている。

私は本書を「限りなくゴシップに近いが事実ベースで描かれている、今までの創価学会研究よりはマシな本」と評価している。
それは、離反しようとしている幹部や会員の発言も、対等に扱っているからだと判断しているからだ。多くの創価学会員にとって、今後誰が会長になろうとも、どんな方向性を向こうとしても、三代会長のインパクトは大きい。そのため本部は現場を無視できない構図が出来上がっている。
池田は2010年6月の本部幹部会から公の会合には出席していない。著者はこれを「判断力をほぼ失ったため」と評しているが、池田は戸田がそうしたようにどこかで後世に譲る準備はしていたであろう。その布石は早い段階から打たれているもので、一般会員にはその刷り込みはしっかりとされている。

現に、本部から打ち出されてくる内容に地元幹部は平気でNOを突きつけ折り合いをつけている。本部VS地元幹部の戦いはしばらく続くのではないか。

そう推測しているため、いくら幹部にインタビューしていようと、非公式的なもののため信ぴょう性は低いと判断せざるを得ない。その反面、上層幹部が表面上とは裏腹に抱えているビジョンを炙り出さなければ、私たちの信仰生活が脅かされるであろうという危機感は抱いた。


公明党と創価学会の今後

だいぶ話が逸れた。
一般的には、現在の公明党と創価学会の距離は遠くなっているとみられているが、実は真逆で、創価学会の下に公明党があるという図式はそれほど違和感がない。そうでなければあれほど軽減税率導入や定額給付金、未来応援特別給付のクーポンなどのごり押しはできないだろう。なぜなら、自民党も公明党の支援がなければ大きく票が減るからだ。

しかしこの関係は選挙制度によって大きく変化する。
小選挙区比例代表並立制から例えば中選挙区制に戻すとなれば、自公連立する意味は薄れる。以前のようにキャスティングボードを握り、日本の政治を左右することだって可能だ。

だが、本書を読み、創価学会幹部の政治観には疑念を抱かざるを得ない箇所がたくさんある。政治に関して素人の創価学会幹部がそれほどまでに口出しするのはいかがなものかという場面が幾つもあった。当然支援団体なので言う権利はあるのだが。

今回の衆院選を通し様々な本を読み気付いたことは、公明党の政策に疑念を抱く場合は、まず創価学会の動向を確認しなければ建設的な話し合いができないということだ。

創価学会の支援活動において絶大な力を持つのは旧婦人部だ。市議とのオンライン懇談会に参加した際、昔から活躍している高齢の婦人部の方が市議に様々質問していたが、的外れなものが多かった。例えば、ワクチン接種は無料でPCR検査には補助が出るのに抗原検査にはなぜ補助がでないのか、などだ。正直失笑ものだ。しかし、そうした人が票を集めるのだから聞かざるを得ない。こうしたやり取りを見ると、軽減税率をごり押ししたのは婦人部なんだろうなあと容易に想像がつく。非常に頭が痛い。

結局のところ青年部が力を見せないと学会は変わらない。

学会は支援活動の正当化を「支援活動は折伏の延長線上。有効拡大のため」としている。壮年部や旧婦人部はそれは建前だと思っているだろう。しかし青年部はそれを建前でなく本音にしたいという人が活動家の中でも少なくない。というか、そうじゃなければ支援活動なんてやってられない。

本書では支援活動が「勤務評定」と記されており、壮年部旧婦人部、それに青年部幹部もそうであることは間違いではない。ただ、強制されて無理やり頑張るやり方がいつまで続くだろうか。

「公明党は野心のない素朴な人が周りに押されて選挙で当選している。与党として大事なことは、大衆の声をつかみ、信頼を得て他党の議員や官僚と議論し、成果を国民に還元していくことだ。私たちは自民党政治に対する耐性を作る必要はあるかもしれないが、そもそも自民党のようなやり方をこれからも続けることができるのか」

昨日の記事で引用した公明党の山口那津男代表の言葉を、そのまま上層部に返したい。

ともかく、本書はようやく創価学会と公明党に関してまともに書かれた著書であることは間違いない。しかし欠点も多くある。この点に関してはレビィさんの本が早期に出版されることを望むばかりである。


注1 祖父は多くを語らないが、このことは総合長が教えてくれた。第一次宗門事件時、祖父は副支部長だったが、当時の支部長が日蓮正宗側に着き、苛烈な攻撃を受けていたらしい。それを前面に立って受け止め守り抜いたのが祖父だそうだ。93年の池田名誉会長のタイ国王との対談時には随行しており、実家には池田名誉会長とタイ国王の対談時の写真が額縁に飾られている。