自分探しに行き詰まったなら、外に出よう。知らない人に会ってみよう。
「あの。ちょっとだけ、いいですか?」
声を掛けてきたのは同い年か、もう少し上くらいの女性だった。素朴な雰囲気が可愛らしい。小振りなカーキ色のリュックサックを背負って、彼女は照れ臭そうに笑いながらも言葉を続けた。
地元の本屋で立ち読みをしていた時だった。
「あ、はい。なんでしょうか」
「私、旅先で知らない人と話するの好きなんです。今、なんの本読んでるんですか?」
突然知らない人に話しかけられることがある。
たまに宗教勧誘の方だったりして慌てるのだが、それ以外の殆どが道に迷った人だ。イヤホンをつけていても関係なしに道を尋ねられるので驚いてしまう。あの、隣にイヤホンも何も付けてないお姉さん、いますけど。
その度に私は懸命に答えた。わからなくても一緒にネットで調べたりしてきた。ひとりでの旅先で外国人に道を聞かれた時なんかは、マップを見せながらジェスチャーで必死に伝えた。
そうすると朗らかな笑顔で「ありがとう」と言ってもらえるから嬉しくなる。こういう知らない人との突然のやり取りって、毎回驚きはするけど嫌いではない。
でも、周りに人がいる中で、なんで私が選ばれるのだろうか。
本屋で話しかけてきた女性は、金融関係の仕事で福岡から東京に転勤してきたらしい。同僚とは上手く馴染めないので、一人でよくこの辺りをブラブラと歩いているそうなのだ。地元のお店の名前をいくつか挙げると、会話がすっかり弾んでしまった。
「声掛けて良かったです。なんか、前からの友達みたいに話しやすかった」
女性が嬉しそうに言った。
「あの、どうして私に声を掛けてくださったんですか?」
私はつい、聞いてしまった。女性は少しキョトンとしてから、「なんでだろうなあ」と首を傾げた。それから、
「話しかけやすい雰囲気があったので。親やすそうなオーラ、みたいな感じ」
と答えた。
結局その方とは今度カフェ巡りでもしようと約束して、連絡先まで交換して別れた。漢字でフルネームのアカウント。彼女らしい綺麗な名前だった。
知らない人との突然の会話は、なんだか楽しい。
と同時に、今日は新たな発見があった。
本屋でひとり立ち読みしている時の私なんて、100%素の私である。そんな完全自然体の私を、周りから見て「話しかけやすそう」と思う人がいるらしい。
これって私の、ひとつのスキルなのかもしれない。
気がつかなかった。外見に関しては「可愛くないなぁ」とか「痩せないとなぁ」ぐらいにしか思ったことがなかった。
知らない人だからこそ、余計な情報を取り払った素の印象を持ってくれる。純粋且つ確実な第一印象だ。
「自分探し」や「自己理解」など、自分が何者なのか、自分の強みとは何かと探し続ける人達へ。
自分史とかチャートなんかをノートに黙々と書いていくのもいい。
でももし行き詰まっているのなら、一度外に出てほしい。
苦手でも果敢に、新しい人と会話をしてみよう。
勿論一回でコレという正解が見つかる可能性は低い。でも、恐れずに何人もの人と話そう。
新しい視点から、知らなかった自分に出会えるから。
……でも、勧誘には気をつけて。
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