「遠くにいても恋である」

「遠くにいても恋である」

ジョン・ユンチョン(1960~)

 たった今眼前に見えなくたって恋である。ある路をずっと、独りで唄いながらやってきたある唄がそのまま一人の耳元に届いてばかり欲しかったら、とても寂しかったかもしれない涼しい熱望の胸こそ恋である。

 振り向いて目線が止まったその一点が恋である。人気のない汀を通り過ぎるところで、突然と浪が立ったら恋である。高きうねりの中心へ自分の目線の焦点が定まったら、そこにこの世を一斉に駆け込んできたすべての時間の結晶とも似たはずの、そんな一瞬とのめぐり逢いであれば、おやおや、それなら動かしようもなく恋である。

 大昔からはじまったであろう開始の到着こそが恋である。風に髪の毛が乱れて指を櫛のようにして撫で上げたところ、首を曲げて停止した遼なる眺めが恋である。

 恋にはひたすら濃い匂いがついており、雲にでも乗ってくるかすかな香りだけでもいくらでも恋である。行けなくても恋である。魂でもそちらに頭を向けようとするあの傷みが恋である。

 遠くにいても恋である。


(前のブログの2020年12月22日の投稿から転載)

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