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考えれば考えるほど難しい…。地方ができるI・Jターン就職を促進させる、たった一つの効果がありそうなアプローチ

地方にとって、人口をいかにして維持・増加させていくかは、最重要ミッションといってもいいように思います。人口を増やすには、仕事ができる場を増やす、子育て支援を充実させるなど、いくつかのアプローチがありますが、学生に就職してもらう、というのもそんなアプローチの一つではないでしょうか。今回、見つけた聖心女子大学と北海道との協定締結は、まさにこれを狙ったもののようです。とはいえ、この取り組みだけではないのですが、地方への就職促進というのは、あらためて考えてみると、すっごく難しい取り組みなんじゃないかと感じました。

考えれば考えるほど難しい、I・Jターン就職

今回、考えるきっかけになったのは、聖心女子大と北海道の「学生UIJターン就職促進に関する協定書」の締結を伝えるプレスリリースです。ここには連携事項として以下が書かれていました。

■連携事項
・学生、保護者及び卒業生への道内の企業情報、生活情報等の周知に関すること
・学生のUIJターン就職に係る情報交換及び実績把握に関すること
・大学で行う合同企業説明会など、企業情報等を提供するイベントの開催に関すること
・保護者向けのUIJターン就職セミナーの開催に関すること
・道内企業等への学生のインターンシップ受入支援に関すること
・その他学生の北海道内への人財還流の促進に関すること

聖心女子大学プレスリリースより

読んでみて、まあこんな感じになるよね、という印象を受けつつも、はたしてこれでUターン就職はともかく、I・Jターン就職が増えるのだろうかと疑問が湧きました。ちなみに、Iターン就職は出身地以外の地域への就職、Jターン就職は出身地へのアクセスがよい地域への就職を指します。

聖心女子大学は渋谷区にある大学で、渋谷のハチ公前までに行くのに30分かからない好ロケーションにあります。いわば都会オブ都会です。こんな刺激的なところで4年間学んで、しかも大学周辺には多種多様な企業がたくさんある、つまり働き先がいっぱいあるわけです。こういった環境にいて、あえて縁もゆかりもなく、東京に比べると働き先の選択肢も少ない北海道で就職しようという判断は、何か特別な思い入れでもなければ出てこないように思います。

加えて、たとえ学生本人に意志があったとしても、親御さんが反対する可能性があります。地元企業であったり、4年間慣れ住んだ東京(及びその周辺)の企業であれば、ここに就職する!と言われたとき、親もすんなり理解できます。でも、いきなり北海道の企業に就職するなんて言い出したら、ビックリするし、心配しますよね。男子学生なら、そうはいってもまあ好きにしなはれと思う親も多そうです。でも、聖心女子大は由緒正しいお嬢様大学です。反対する親がけっこういそうだな……と、あくまで印象ですが、そう思ってしまいます。

I・Jターン就職促進の鍵は教育にあり

ざっと考えただけでも、都心から地方へのI・Jターン就職を促進するのはかなりの難易度です。とくに女子大の場合、ハードルがさらに上がりそうです。ではどうしたらいいのか?画期的な答えはないものの、解決の糸口になりそうなのは、就職促進“だけ”で考えることをやめることのように思います。地域が長期的に学生と関係性を築いていければ、またその様子を親にも見てもらえるのなら、状況も多少は変わるかもしれません。

といっても、学生との関係性を築くってどうしたらいいの?と、ここでまた頭をかしげてしまいます。そこで利用できそうなのが、大学のPBL(Project Based Learning)です。PBLは、近年多くの大学が重視している課題解決型の教育で、学生が自ら課題を見つけ、それを関係者らとともに解決に向けて活動することから学びを得る教育手法です。このPBLのフィールドとして、地方は非常によく使われています。地方が真剣にI・Jターン就職を増やしたいなら、PBLと就職促進の二つを組み合わせて取り組んでいくのが、現状考えられるなかではベストなように思います。

しかし、ここでまた一つ問題があります。PBLは教育活動の一環のため、学部が主導し、担当するのは教員です。一方、就職促進は学生支援の一環になり、担当するのはキャリアサポート関連部署の職員になります。大学のなかの取り組みとはいえ、点と点の位置が遠く、なかなか線としては捉えられていません。これを線として理解してもらい、動かしていかないと効果は高まらないように思います。

さらにいうと、これを大学が積極的にやるのかというと、うーん、どうなんでしょう……。大学は、学生に質の高い教育を提供したいし、満足ゆく進路決定をしてもらいたいと考えてはいるけれど、I・Jターン就職を増やしたいとは考えていないと思うんですね。I・Jターン就職が、結果的に学生の満足ゆく進路決定になるのであればサポートするでしょう。でもそれはあくまで手段であって、目的ではないはずです。

地方から働きかけることで、点と点が線へと変わる

I・Jターン就職を増やしたいというのは、地方側の思惑でしかありません。そうなると地方側が頑張って、PBLと就職促進を連結させることが学生のメリットにどのようにつながるかを提案し、大学に認めさせないと、この企ては前に進まない可能性が大です。その場合、重視すべきは間違いなく就職促進ではなくPBLです。どれだけの学生がその地域に就職したかは”通信簿”でしかなく、それまでの活動(=関係性構築)がしっかりしていないといい成績は出ません。大学側に伝えるロジックとしても、うちのエリアに就職したい学生がたくさんいるから、就職促進にも力を入れたいです、というのが自然でしょう。大学側もこのスタンスであれば協力しやすいのではないでしょうか。

大学にとってはPBLの質向上、地方にとってはU・I・Jターン就職の促進。欲していることは違っていても、2つの取り組みを点ではなく線として捉えることができれば、互いのメリットが包摂されたプロジェクトになるはずです。とくに地方創生をテーマにした学部を擁する大学であれば、学生のニーズとも親和性がいいように思います。

私の頭で思いつく範囲だと、I・Jターン就職を増やすアプローチは、これぐらいしかないのですが、地方活性化は各地方にとってだけでなく、日本全体にとっても非常に重要な課題です。お困りの地方は、ぜひ都心の大学に相談を持ちかけることをおすすめしたいです。こういうプロジェクトが活性化すると、結果的に大学や学生のメリットにもつながるように思います。

……いつもは大学主語でnoteを書いているのですが、今回はめずらしく外部の人が大学をどう利用するかという視点で書いてみました。いつもより書きにくかったものの、視点を変えると気づかなかった大学の価値を見つけられそうで、これはこれで面白いように感じました。今後もたまにこういうのを書いていきたいと思います。

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