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全学とキャンパス、複数ブランド化で相乗効果をねらう。立命館の新拠点誕生に見る重層的なアプローチ

大学のブランディング活動を、ものすごく平たく言ってしまうと、その大学がこれまで積み重ねてきたことと、これからやろうとすることを、ターゲットに最も伝わる表現で伝え、浸透させていく営みのように思います。今回、見つけた立命館大学の取り組みは、まさにこれに当たるのですが、他とはちょっと違うんですね。こういった重層的な手法をとれると、より深く、説得力のあるかたちで、社会に大学の価値を伝えられるのかもしれません。

シンボリックに大学の在り方を示す新拠点が誕生

今回は同日に配信された2つのプレスリリースを取り上げているのですが、どういった内容かというと、立命館大学の大阪いばらきキャンパス(OIC)に新拠点「TRY FIELD」が誕生したというのと、それを伝える新聞広告についてです。「TRY FIELD」は、大学と社会をつなぐ共創プラットフォームとして今後運用されていくとのこと。新聞広告では、学内外を隔てる塀がなく、開かれたキャンパスとして有名なOICが、この「TRY FIELD」によってさらにグレードアップされたことを、コンセプチュアルに表現されています。

新拠点「TRY FIELD」の誕生を伝える新聞広告

ちなみに「TRY FIELD」のコンセプトや内容を説明していくと、それだけでかなりの文字量になってしまうので、詳しくは立命館の特設サイトをご覧ください。

キャンパスの新たな価値が、大学ブランドを後押しする

OIC、そして「TRY FIELD」がめざす大学の在り方はとても参考になるので、いつかどこかで取り上げたい気がしますが、今回はブランディング視点での話にのみ焦点を定めておきます。

この取り組み、まず面白いのが、非常にシンボリックでブランディング的な側面が強いのですが、全学的な取り組みではなく、あくまで1キャンパスに限定された取り組みなんですね。しかも、新キャンパスができたわけではなく、ハード面でいうと「TRY FIELD」という新棟が建っただけです。もちろん新棟が建つというのは、すごいことなのですが、他大学に新棟が建ったとしても、ここまで徹底的な広告展開はしないでしょう。

■広告展開先について
2024年4月1日(月)朝刊
日本経済新聞全国版15段、朝日新聞大阪本社版15段、読売新聞大阪本社版15段、毎日新聞大阪本社版15段、産経新聞大阪本社版15段、京都新聞15段、神戸新聞15段

「TRY FIELD」誕生を伝える新聞広告の掲出先(立命館大学プレスリリースより)

立命館大学が、これだけ力を入れて広告するのは、OICの活動と、全学のめざす姿が有機的に噛み合っているからだと思います。これは同大学のタグライン「Futurize. きみの意志が、未来。」が示す、自らの意志で社会への問いを立て、未来のあるべき姿を創造する人材を育てる、という教育機関としての在り方。「次世代研究大学」として新たな価値を創造する、という研究機関としての在り方。どちらの在り方をめざすうえでも、TRY FIELDが実践しようとしている“挑戦と失敗ができる場”が不可欠だということからもわかります。

キャンパスが複数あるからこそできる重層的なプローチ

この取り組みを広報手法として見るなら、キャンパス単位でブランドを立て、それを押す出すことによって、全学としてのブランドにさらなる説得力を持たせる、ということになります。単に全学としてブランドを押し出すよりも規模感が感じられるし、相互にブランドイメージを補完し合うのでユーザーの理解度も深まるように思います。

こういった表現ができるのは、複数キャンパスのもつ総合大学の特権です。さらにいうと、規模が大きくてキャンパス数が多ければ多いほど、より説得力のある重層的な表現ができる可能性が増える、ともいえます。

もっとも、ちゃんと計画できていないと、相互に打ち消し合ってマイナスになることも十分ありえるので注意が必要です。それに、キャンパス単位で打ち出すブランドメッセージは、全学のものよりさらに具体化されていることが望ましい。全学とキャンパス、両方とも同じくらいの抽象度で発信すると、つながりや関係性がわかりずらく、かえって全体像がぼやけかねません。とはいえ、全学のブランドメッセージと各キャンパスの強み・取り組みを整理して、何かしらの絵が描けそうかいうのは、複数キャンパスのある大学は一度考えてみていいでのではないでしょうか。大学広報というより大学経営の範疇になりそうですが、うまく整理ができるなら、広報をするうえでも大きな強みになるはずです。

最後に余談といいますか、これまでキャンパス単位でのブランディングと全学のブランディングを掛け合わせるという視点を、私はあまり持っていませんでした。慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)なんかは、キャンパス単位でブランド化していると思うのですが、この場合、あまりにも独立してしまっていて、それが全学のブランドとつながる印象を持てなかった。あと、日大芸術学部なんかも見ようによっては、キャンパス単位でのブランド化ですが、こっちはもうキャンパス=大学で、SFCよりもさらに独立しています。全学とキャンパス、それぞれを立たして、それぞれに活かす。複数ブランド化して相乗効果を狙うというのは、やっぱり大学業界にとってはめずらしいように思います。他にない手法に挑戦したという意味で、今回の立命館の広報活動もまた「TRY FIELD」的な取り組みなのかもしれません。

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