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国内初「恐竜学部」開設から考える。新しい学問と新しい学部の関係性

8月末は、新設学部の認可が下りるかどうかの通知が文科省から大学に届く時期。外部から見ているだけでは(仮称)とか(認可申請中)の文字が取れたなぁぐらいの印象ですが、申請を出している大学にとっては正念場です。大学の公式Xを見ていると、設置認可を受けたという報告がチラホラ出ており、関係ないのに私もちょっとホッとしたりしています(笑)。

今回はこういった報告をしている大学の一つ、おそらく来年度に新設される学部のなかで、とりわけユニークなものとなる、福井県立大学の恐竜学部について。そして、こういったユニークな学部ができることの意義について考えてみたいと思います。

日本初の恐竜学部が福井県立大学に爆誕!

福井県立大学恐竜学部。日本初の恐竜系(?)学部ということもあり、構想が立ち上がった当初かなり話題になったので知っておられる方も多いかもしれません。本学部の拠点キャンパスは、1年次こそ永平寺キャンパス(福井県永平寺町)ですが、2年次以降は日本屈指の恐竜発掘地である福井県勝山市にある勝山キャンパスになります。さらに福井県立恐竜博物館との連携や発掘地へのフィールドワークなどにも注力するようで、日本の恐竜のメッカで本格的に恐竜について学べるという、尖りに尖った学部になっています。

ちなみに福井県立大学以外にも、岡山理科大学が2025年度より地球生命学部の恐竜・古生物学コースを恐竜学科に格上げするようです。おそらく日本で恐竜の名前を関した学部学科はこの2つぐらいじゃないかなと思います。

新たな学問を根付かせる要としての新学部開設

急激に少子化が進んでいる状況もあって、大学が新学部をつくると聞くと学生確保のためだろうと当然のように受け取ってしまいがちです。もちろん、多くはそうだと思うのですが、一部に限ってはそれだけではないように思うんですね。少なくとも今回の恐竜学部は、まったく前例のない学部なわけで、募集状況をシミュレーションするというのも限界がありそうです。

では、そういった状況にもかかわらず、なぜこのような学部が生まれたのか。それは、恐竜学という学問分野を根付かせ発展させるため、というのが大きなモチベーションとしてあるように思いました。実際、恐竜学部の公式HPにも下記のような文言があります。

福井県立大学恐竜学部特設ページより

新たな学問を根付かせるうえで、学部開設というのはものすごく重要なファクターです。恐竜を研究するとても優秀な研究者や研究グループがあっても、それだけでは恐竜学を築き上げることはできません。この分野を学び、この分野の研究をしたいという人材をコンスタントに育成・輩出する仕組みがあってこそ、研究テーマと研究テーマがつながり、体系的な学問分野が整えられていきます。また、研究成果のバトンを受け継げる人がいないことには、学問は徐々に衰退し死んでしまいます。

この“育成・輩出する仕組み”という意味では、大学院や研究室も該当しますが、学部の方が受け入れられる人数が多く、学問をはじめる初期段階からどっぷりその分野に浸るプロパー的な研究者をつくれるという意味もあり、より要になります。一方、新学部の開設はハードルが高く、しっかりとした実績が不可欠です。恐竜学部の場合は、恐竜学研究所が以前からあり、ここでの研究成果やネットワークが実績として評価された面もあるようです。

学問という観点で、新学部開設を伝える意義

新たな学問分野を根付かせるための新学部開設というと、すごくイレギュラーな感じがしますが、実はそうでもないように思っています。身近なものだと近年データサイエンス系学部が雨後の筍のように生まれているのも、マクロ的に見るとこの動きでしょう。他にも来年、再来年に開設に向けて動いている学部学科を見るだけでも、チラホラと新たな学問をつくろうという気概が感じられるものがあります。

新しく学問分野を打ち立てて発展させていくには、一定数の学生や研究者がコンスタントにその分野に関わることが必須です。必ずしも国内のみでやり切る必要はないのですが、それでも日本の少子化が進むにつれて、新たな学問を創出するためのパワーは間違いなく減ってきています。それどころか、現在維持している学問分野も縮小していく可能性が非常に高いわけです。

では、今後を見据えて計画的にリソースを配分するべきかというと、アカデミックな領域でそれをやるのはどうなんだろうという気もします(がっつりやっていますが…)。未来は誰も予測できないわけで、予測したうえでリソース配分するというのはそもそも無理があるし、長期的に見るとリスクの方が高そう。それに学術的な探究心というのはプリミティブなもので、外部の力で方向づけられたり、型にはめられると、推力がすごく落ちてしまうのではないか、そんな危惧を感じてしまうのです。

急に答えの出ない話に迷い込んでしまいましたが、今回、伝えたかったのは新学部の開設について。大学の新学部開設は、受験生獲得や社会からのニーズ(ビジネス領域の人材育成)という観点で語られがちです。でも、本来の大学の役割を考えると、学問との関わりからも、もっと取り上げていくべきです。露出の機会が多い新学部が、このような取り上げ方で語られるようになると、高校生の進路選びの観点も増え、また大学の役割も再認識されて、とてもいいように思うのですがいかがでしょうか。

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