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”ジョブ型雇用に対応する”新コース開設告知から考える。広く曖昧なテーマを強く打ち出すことの危うさと難しさ。

研究者育成に特化した一部の大学をのぞけば、ほとんどの大学は社会や就職を意識して学生の教育にあたっているように思います。今回、見つけた多摩大学経営情報学部に新設される2コースも、この視点が色濃く出たコースです。ただ、これら新コースの売り文句にある「『ジョブ型雇用』に対応する2コース」というのが、めずらしい視点であるとともに、なんとも考えさせられるフレーズだと思い、今回はこれを取り上げることにしました。

「ジョブ型雇用」に対応する学びとは何か

今回、新設される2コースは「実践的ビジネスエンジニアリングコース」と「先端的マーケティング心理コース」。どちらもデータサイエンスはじめ、近年、必要とされる知識・スキルを複合的に学べるコースになっています。大変そうではあるのですが、リリースにうたわれている能力がちゃんと身につくのであれば、有能な人材が育つように思います。

ただそれで「ジョブ型雇用」に対応できるのかというと、なんとも言えません。ジョブ型雇用はその職務を担える人材を採用するという人事制度なので、職務によって求められる能力は異なりますし、新卒に限定しているわけでもありません。そういった人事制度にマッチした人材を育成するコースをうたうなら、職務ごとに細かく教育内容を変えるべきだし、18歳にこだわる必要もなく、むしろ一定のキャリアを積んだ人を対象に、次にめざしたい職務に就くために何が必要かを割り出して学べるようなコースだと思います。実際、こういった視点での社会人向けコースができるとすごく面白そうなのですが、今回の多摩大学の取り組みは、そうではないように思いました。

また新卒に限っていうと、ジョブ型雇用への備えは、自身の経験や能力を客観的かつ体験的にとらえる視野と、これらを目的に向けてカスタマイズや積み重ねていく意識だと思います。具体的なスキルというよりマインドに近く、学部学科を横断したキャリア教育で扱うのに適したテーマのように感じています。

新しいことを、広く漠然と伝えることの危うさ

では、多摩大学の新コースは何をもって「ジョブ型雇用」に対応にできているとうたっているのか。それは、リリースに「近年は新卒時から高い専門性を身に付けた即戦力になる人材を雇用する『ジョブ型雇用』が増えつつある」と書いていることから、「高い専門性を身に付けた即戦力になる人材」を育成するコースというニュアンスなのだと思います。でも、こういう汎用性の高いメッセージは、けっこう危険なように思うのです。

というのも、これができるコースができた、というのは、意地悪な見方をするなら、これまでその大学ではこれができなかった、というニュアンスを生みます。また、以前からもできていた場合、既存のものが“かませ犬”になってしまう可能性があります。ユーザーが受け取る価値はどうしても相対的になりがちです。ゼロからであれば問題ないのですが、そうでない場合は”あれ”よりもすごい、”これ”よりも本格的、といったニュアンスで理解されがちです。

近年であれば、AI人材やデータサイエンティストの育成をうたうコースがいろいろな大学で生まれています。これらの場合、AIやデータサイエンスなんてこれまでなかったものなので、既存の価値とは競合せず、魅力をうたいやすいのではないでしょうか。

「ジョブ型雇用」も、AIやデータサイエンティストに負けないぐらい新しい言葉ではあります。でも、今回そこに込められた意味合いは、高い専門性をもつ即戦力となりえる人材です。であれば、これまで即戦力になる人材を育成しようとしてなかったの?という素朴な疑問につながりかねないし、即戦力の育成は特定分野の知識・能力の育成ではなく、大学のスタンスに関わるものなので、そのツッコミはいろんな分野に飛び火しかねません。

もちろん、こういった私の考えはだいぶ意地悪だし、ひねくれたものです。でも、新しく何かを学べるようになったと、これまで学べなかったは、コインの裏表です。新しく、を曖昧に伝えてしまったり、範囲を広げすぎたりしてしまうことで、これまでを損ねてしまう可能性があるというのは、頭の片隅に入れておくべきことのように思います。ちなみに今回、多摩大学の新コースについてアレコレ書いたものの、コース内容について否定しているわけではなく、あくまで「『ジョブ型雇用』に対応」という風呂敷の大きさに危うさを感じた、というだけの話です。その点どうかあしからずご理解ください…。

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