「先生、また一緒に平等院鳳凰堂の扉を開けてくれますか?」
中学生の頃、理科の先生が私たちに教えてくれた。あの見慣れた10円玉にそんな秘密があるなんて。思春期真っ盛りとはいえど、純朴さを捨てきれない13歳には、昭和40年に鋳造された10円玉が今年造幣局から出てきた新貨くらいに輝いてみえるほどだった。
廊下側の教室の隅から誰か声が聞こえる。私ももちろん10円玉を下からのぞき込む。たしかにくすんだ銅色の一部が、どこか輝いているようにみえてきた。
いつの日か歌手になりたいと言っていた友人が席から立ち上がった。皆が彼を見た。彼は嬉しそうに