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こんなやつもいるから大丈夫です、知らんけど

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日常の疑問や問題意識、抽象的な問いをあーでもない、こーでもないといいながら、簡潔で読みやすいエッセイにまとめます。 どうぞ、肩の力を抜いてお読みください。 きっと何か発見があり…
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2022年1月の記事一覧

「先生、また一緒に平等院鳳凰堂の扉を開けてくれますか?」

中学生の頃、理科の先生が私たちに教えてくれた。あの見慣れた10円玉にそんな秘密があるなんて。思春期真っ盛りとはいえど、純朴さを捨てきれない13歳には、昭和40年に鋳造された10円玉が今年造幣局から出てきた新貨くらいに輝いてみえるほどだった。 廊下側の教室の隅から誰か声が聞こえる。私ももちろん10円玉を下からのぞき込む。たしかにくすんだ銅色の一部が、どこか輝いているようにみえてきた。 いつの日か歌手になりたいと言っていた友人が席から立ち上がった。皆が彼を見た。彼は嬉しそうに

うら若いのうらってなんだ?

花も恥じらう乙女がいたり、水も滴るいい男がいるこの世の中。 慣用句にまつわる例えというのは、いつも「なるほど」と思うものです。 所変わって、畑でネギ切り。 あら綺麗。切り口から水分が出てくると、こりゃ旨そうだなと思うわけであります。「うら若いね、お前」と心の中で口にして、畑を去ると脳裏に浮かんできたこの疑問。 うら若いのうらってなんだ? いつの日か、きっとどこかで覚えたこの表現。うら若いという言葉に対して、何の疑問も持っていなかったのですが、とても若いでもめちゃ若いで

私がお客様と友達にならない理由~「程よい他者」でありたい~

生きていると、親や友達には相談できない問題に出くわすこともある 私はあまり怒らない私はあまり怒らないらしい。正確に言えば、感情的にならないといった方が良い。また私自身がマイペースでワガママなので、誰かのそれにもなるべく合わせられたらと思っている。 ウチの宿に来てくれている同い年のヘルパーさんが尋ねてきた。彼女は比較的、感情が表に出るタイプだという。ここ数日、前日は彼女が寝坊して、次の日は私が寝坊してとのらりくらりやっている。もちろん怒ることはなかった。ヘルパーさんとの生活

スパゲッティサラダってサラダじゃないよね

「お前のためを思って言っているんだぞ」 喫茶店で居合わせた隣の客が、部下と思しき若手社員に説教をしていた。 かれこれ同じような話を30分は続けている。 雑誌越しに盗み見た若手社員の顔はひどくくたびれているように見えた。 「お前のため」を隠れ蓑に、上司がストレスを発散しているように思えてならない。そのようなことを考えながら、アイスコーヒーと同じくらいに冷えたホットコーヒーをぐいと飲み干して店を出た。1月にして小春日和然とした陽気のわりに、思った以上の寒気を覚えた。 この季節

非日常化した日常を取り戻すために「何もしない旅」に出よう

旅は非日常だとよく言うが、実際は、「我が子と夕方に遊ぶ」なんていう日常さえもが非日常化している。 ーーー 旅する。つまり、旅はするものらしい。 何かを見たり、どこかへ行ったり。旅ではまさしく to doが自分の中に形成される。旅はきっとこれからも「する」ものに変わりないのだろう。 と、宿に来たあるお客様が仰られた。その女性は、旦那様の来宿の意向に「まぁ、いっか」とついてきたとのこと。確かにウチの宿は文化遺産を利用した施設でもないし、宿が建つ島自体に名所があるというわけで

私が完璧じゃなくてもいい理由

GooleやAppleでさえ、アップデートするんだから。 ーーー 最近、スマホがOSをアップデートしますか?と毎日聞いてくる。 ただ来月にようやく光ネット回線が導入される我が家において、スマホの回線でそれをアップデートするというのは至難の業だ。そのため、光ネット回線が導入されるまでは、この問いかけを毎日無視しようと思っている。ごめんね、Android。 最近、パソコンもアップデートできますと申し出てきた。 私には何がどう変わるか分からないし、なんとなく時間がかかりそうなの

賽銭額に比例して願いが叶うとしたら

なぜだか分からないが父の賽銭は10円玉であることが多い。 どうやらご縁がありますようにと5円玉を賽銭箱に入れる人も多いらしいが、父は毎度「10円あったわ」だの「10円ないから5円にしとこ」と口にしているように思う。 なぜ父が10円にこだわっているのかはわからない。もしかすると彼の中で「5円の奴よりかは、優先的に神仏に救ってもらえる」という自己暗示があるだろうか。ただ、世の中には千円札や一万円札を投げ入れる人もいるのだから、彼の念願は果たされるとはにわかには信じがたい。 さ

鏡がなけりゃ、高橋一生になれたのに

イケメンと自認するために、鏡を手放してみては? 世界で一番美しいのはだーれ? と、とある女が鏡に話しかけた。すると、世界で一番美しいのは白雪姫であると鏡は言う。 少なくとも、世界で一番美しい人間は筆者ではないらしい。もしかして、私もあの魔女に倣って、白雪姫に毒リンゴを食わせるしかないのだろうか。 鏡の中の自分に出会うさて、もちろんこれはおとぎ話。そのため、白雪姫を毒殺しようなんて思いもしない。 一方で、鏡の中の自分と出会い、肩を落としたことは何度もある。 イケメンに生まれ

誰がために花は咲く

春になるべく多くの花をもたらすためには、すでに咲いてしぼんだ花をがくごと処分したほうがいいと耳にしました。 咲いてしぼむというと、なんだか響きが悪いですが、これは実や種をつける準備なわけで。逆に言えば、花の処分は結実に体力を使わせないということでもあります。 他方で、唐辛子農家の私は、そんな実や種を普段商品としているのです。そのため、摘まれたビオラをみて、 「種を残そうとするビオラに、花以外はお役御免。逆に唐辛子には実を残せと伝える自分のエゴは膨張しきっているな」 な