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Episode 656 前準備が必要です。

私は旅行以外で海外に出たことがないので、日本での生活が私の価値観の殆どを作り上げているのだと理解しています。
もちろん、伝え聞く海外の情報も私に影響を与えているのでしょうが、それは自ら訪れて肌で感じた感覚ではないワケです。

日本的な価値観と言えば、先ず思いつくのは「察する文化で和を重んじる」なのでしょう。
この価値観を支えるものとして「年功序列」と言う制度が機能していたように思います。

昭和の高度経済成長期、日本の企業は勤勉で安価な労働力をベースに工業を発展させて行ったのです。
増産に次ぐ増産で労働者は足りず、労働力の確保に悩む経営側の知恵として年功序列が編み出された(諸説あります)ワケです。
つまり、終身雇用と勤続年数に応じた収入を約束することで、労働者の流出を防ごうとしたのです。

労働者側が権利を求めて経営者側と対立することより、両者が手を取り合って粛々と生産することの方が安全確実な収益収入の確保に繋がったのです。
そしてこれは「和を重んじる」日本的な文化を一層強めることになった…と、私は思っています。
だってそうでしょう?
「我慢して言わない」ことが一番確実に収入増に繋がるワケですから。

終身雇用・年功序列の体制なら、余程の存在感がない限り「飛び級」はないワケで、年長者(≒社歴が長い)ほど肩書きが上位になり収入が増えることになります。
この辺りに日本で必要以上に年長者が幅を利かすことの背景があるように私は感じます。

20世紀の後半、科学技術は目覚ましい進歩を遂げ、世の中はより便利になって行ったのだと思います。

私はその典型的なものの例として「女性の社会進出」を取り上げたことがあります。
技術革新による合理化・省力化は、家に縛り付けられるほど重労働だった家事から女性を解放し、同様に人手に頼っていた会社組織の生産現場も事務作業も機械化・省力化が進み、体力的にも能力的にも「男女が活躍できる分野を棲み分けなければならない理由」がどんどん小さくなって行くワケです。

終身雇用・年功序列制度の衰退は、経済成長の鈍化と停滞によって導き出されるのが一般的です。
つまり、企業が終身で雇用を維持し、社員の勤務年数に合わせて給与を上昇させていく体力がなくなった…ということです。
それと合わせて女性が社会に進出することで、「サラリーマンとその妻」という社会秩序に綻びが生じることになったことが大きく影響している…と、私は思っています。

引用したnote記事「蟹工船の上なのです。」には、次のような一節があります。

ここで私が思うのは、今の仕組みに不具合を感じて「新しい価値観」に移行するには、革新派が理想を掲げて社会を引っ張るのではなく、保守派が重い腰を上げることが必要なのだ…ということ。

note記事「蟹工船の上なのです。」より

経営側(保守層)と労働側(リベラル層)が手を取り合って発展してきた日本の場合、経営側と労働側は意見をぶつけ合う対抗する勢力ではなかったワケで、結果として意見が対立することに「アレルギー反応」が出やすいのだろうと思うのです。

ジェイムズ・アベグレンは非欧米諸国としていち早く工業化を達成した日本において企業運営がどのようになされているか分析することで、非欧米諸国での工業化についての課題を研究。
ジェイムズ・アベグレンは、年功序列制度を、企業が従業員の雇用を一生保障する代わりに、労働組合は経営側に対して調和的スタンスで協力し、会社を一つの家族のように長期的視点で発展させていくという村共同体的な組織文化であると分析した。

Wikipedia「年功序列」より

これが「欧米型の二大政党」で意見をぶつけ合うスタイルに慣れているのなら状況は違うのでしょうが…。
私は「和を重んじる」日本的な文化では、「意見の主張」が相手のガードを強める結果を生む可能性を感じているのです。
バブル崩壊から以降30年におよぶ経済低迷で、年功序列や終身雇用の問題点が露呈する中でもなかなか制度が改まらない、女性の社会進出がこれほどにも進む中でも男性と対等の能力が認められない、その理由は何だろう…。
そこには社会の主導権を握っている層が、意見を主張している層の言葉を聞かずに封じ込める姿勢が見え隠れします。

今でこそ弊害でしかない日本的な「意見が通りにくい文化」の成立には、「意見を主張しないことによる利益」という理由が存在していたのだと私は思っています。

とても残念な話をすれば、モノゴトの本題に入る「前準備」が終わっていないのだ…というのが私の意見です。
社会に対話を求めるのなら、対話ができる環境が必要なのです。
対話に参加することで社会の主導権を握っている層にも「プラスの効果」がもたらされるような方法を模索しないと、必要な権利の主張が「から騒ぎ」という冷やかな視線を浴びて孤立しかねない…と私は思っているのです。

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