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『雪と椿 7』

※BL小説です。性的描写があります。興味のない方、18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。


「あ、雪村さま――ア! あぁ……!」
 開かれることに慣らされた体は、軋みもせずに伊織のものを飲み込んでいく。
「痛みはしないか」
 温かな声が、艶を帯びている。痛むどころか、挿入されただけで悦くてたまらなくて、繋がった場所から全身が溶けてしまいそうだった。
「きもち、い……から」
 頭の中に霞がかかっていて、体感と伊織の肌の温かさ、声だけが霞を越えてくっきりと迫ってくる。
「……きむらさ……、して、もっと、おねが……っ」
「すまぬ。もう堪えられない」
 伊織は、椿の顔の両側に手を付き、やや性急な仕草で椿を穿ち始めた。
 時折、粘りのある音が結合部から上がるのが、酷く生々しい。強く腰を送り込まれるたびに、喜悦で気が狂いそうになる。激しく攻め立てられていると、求められていることを実感できて嬉しい。
 貫かれ、揺さぶられているうちに、全身が浮かび上がるような感覚が来た。椿は見知らぬ体感に怯えて、わななく手で逞しい背にすがりついた。
 やがて、視界いっぱいに故郷の雪景色のような、空も地面も何もかも白一色に境界がない光景が広がった。
 ――堕ちる。
 長い落下の感覚の間、椿は自分がどのような声で叫んだのか知らない。
 ただ、深い雪の穴に落ち込みどこまでも落下していく。
 ――助けて。落ちてしまう。助けて、雪村さま……!

 意識を取り戻した時には、椿は伊織によって強く抱きしめられていた。はだけた下肢や胸元が伊織の肌と合わさっているのを感じると、酷く安心だった。
「許せ。我を忘れてしまった。見たところ怪我はないようだが……」
 意識を飛ばしている間に秘所を確かめられたようだ。たまらない羞恥がこみ上げてきて、椿は袂で顔を覆い、袖越しに問いかけた。
「……椿油、どうしてお持ちだったんです……?」
「稚児趣味のある友人に聞いていたのだ」
 少し決まり悪そうにしている伊織が何だか可愛らしく思えて、椿は微笑んだ。
「いつから袂に入れていらしたんですか」
「初めて椿に会ったときからだ」
 その気があったのに、抱かなかったのだ。不器用で生真面目なこの侍のことを、狂おしいほど愛おしいと思った。抱かれる前よりずっと、伊織の優しさを知ることができた。椿は、こうなる前よりずっと、伊織を愛するようになっていた。
「くにのことを、久し振りに思い出しました。雪村さまとこうしていると、辛いことばかりではなかったんだと思えて」
「くにに帰りたいか」
 椿は小さく頭を振った。伊織に抱かれて安らいでいる時に思うから、綺麗な思い出だけに浸っていることができるのだと分かっていた。
「帰りたいとは思いませんが、まだ綺麗な体だった八つの時分にお会いできていたらよかった」
 そうしたら、もっと伊織に好いてもらえただろうか。いや、汚い着物を着ている貧しく痩せた幼い自分になど、見向きもしなかったことだろう。
「八つの椿はさぞ可愛かっただろうが、流石に共寝しようとは思えなかったろう。私は今の椿に会えて良かった」
 幼い子供にするように頭を撫でられ、
「それではこれは、八つの椿にやろう」
 伊織は袂から懐紙の包みを取りだした。紙を開くと、中には小豆粉の打ち菓子が入っていた。
「これはどうなさいました?」
「椿にやろうと思って持って来たのだが、子供じゃあるまいしと怒らせるかと出せないでいたのだ。だが、八つの子供にならばいいだろう?」
 汗ばんだ胸の中に抱かれて、小さな甘い菓子を口に入れたら、何だかまた涙が溢れてきた。
「もう、おみえにならないかと」
 ささやかな恨み言を言うことぐらいしか、椿は好いた男に甘える術を知らなかった。
「私なりのけじめを付けるのにこれだけの時間がかかってしまった」
「けじめ?」
「椿。あとしばらく辛抱してくれれば、必ずこの苦界からお前を救い出してやる」
 決意を込めた男の言葉の響きを、椿はむしろ不安を持って聞いた。このお人は、何を考えているのだろう。
「意味が分からぬか。身請けをすると言っているのだ」

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