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女子校のバレンタインデー

女子校時代のバレンタインデーの思い出を書こうと思う。

私が中学・高校6年間を過ごした場所というのが 東京都内の私立女子校だった。

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女子校にいると、当たり前のことだが、
同じ教室に男子生徒が一人もいない。

なので、小学校の時のように

「同じクラスのあの子が気になってるんだけど...」

などということもなく、
そうしたことを聞くこともない。

その代わりに聞くのが、
「あの先生が好き(気になる)」
という言葉だ。

その先生というのは。
至って普通だったり、そこまでかっこよくもない 普通以下である容姿の男性教師が気になるの、という相談だった。
(何故だか本当に どこにでもいるような、普通の顔立ちなのだが...)

そして、これまたよくあるのが
「家庭教師(塾)の先生が気になる」
という相談だ。

どうしても身近な存在として、
学内にいる男性教師、
そして通っている塾や家庭教師の先生が気になってしまう、というのは仕方ないのだろうか

私は相談を受けながら、そんな風に当時も思っていた。

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そんな中で、女子校であるがゆえに起こること。
そしてはたから見たらちょっとおかしく見えるであろうことがある。

それは、

部活や学内の先輩に憧れる

ということだ。

中には本当に、真剣な【恋愛対象】として好きになっていた生徒もいたかもしれない。

ただ、多くの場合は まるで宝塚歌劇団のスターたちに憧れるような感覚で、
先輩たちに憧れの眼差しを向けるのだ。

かくいう私も、在学中に憧れた先輩はいた。

同じ演劇部で、美形で姿勢がとても綺麗。
2年上の素敵な先輩 ユウコさん(仮名)。

憧れているだけの先輩なのに、
そう思いつつも、いつも話すときにも緊張していた。

ユウコさんの誕生日、そして、バレンタインには お菓子とプレゼントと手紙を渡していた。

「ほしまる、ありがとうね」

いつもお返しのプレゼントと手紙をもらうたびに、感激で涙を浮かべていた私。

そんな私を、部活引退後も卒業後も、ユウコさんは応援してくれた。

ユウコさんと約束したように、
最後の文化祭でもキャストとして
舞台には立てなかったけれど。

それでも文化祭も卒業公演の時も大きな大きな花束をくれた。

同じ演劇部には、私と同じように
年上の先輩に憧れる部員が多かった。

中には同じ先輩に対して何人もの生徒がが憧れていて。
その生徒たちはお互い、ちょっと牽制しあっていたのも懐かしい。

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私たち同期が高校2年となり、最高学年となった。

その年に入ってきた新人部員の中学1年も
私たちの入部の時と同様に とても多かった。

夏休みまでは、ダンス・柔軟体操・筋トレ、発声・演技...等々 あらゆる指導を 高校2年が持ち回りで各学年を担当する。

私を含めて3人で中学1年を担当していた時のことだった。

シロヤマさん(仮名) という部員の一人が
いつも私がアドバイスや注意をするたびに泣きそうな顔で私を見る。

あまりにも気になって、ある時、同期の
二人に訊ねた。

「ねぇねぇ。
あたし、そんなに怖い...?」
「いやいや、ほしまるはむしろ一番優しい方よ」
「そんな泣きそうな顔してた?」

私の思い過ごしなのか...

私なりに シロヤマさんへの言葉遣いを変えたり、
いろいろ工夫してもいた。

けれど、なぜかシロヤマさんの態度は変わらない。

ようやく私たちが 中学1年から離れて別の学年を担当する時が来た。

私は少しほっとしていた。

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その年の夏休みの部活が始まった。

これまでは学年毎の指導だったが
合宿に備えて、振り分けた 縦割りの班ごとの指導に変わった。

私たちが シロヤマさんのいる 班を担当する時になった。

相変わらず、シロヤマさんは私を泣きそうな顔で見つめる。

「よっぽど嫌いな顔つきなんだろうか、私の顔って...」

そんなことを思いながら、休憩時間に学食に向かい、飲み物を買いにいく。

「ほっ、ほ、ほしまるさんっ!」

背後から声がする。

シロヤマさんが立っていた。

「えっ、なに? 質問とか聞きたいことあるの?」

なにか指導中に 質問しそびれたのか?と思いながらそう訊ねる私。

すると、シロヤマさんは顔を真っ赤にしながら、小さな紙袋を渡す。

「こっ、この前の林間学校で...おみやげで...」

「え、おみやげ。
うちの学年に?」

シロヤマさんは、また泣きそうになりながら首をふる。

「ほしまるさんに、です」

それだけ言うと、シロヤマさんは走っていってしまった。

残されて紙袋を抱えながら、立ちつくしていると、同じく飲み物を買いに来た同期が こう言った。

「やっぱり。
シロヤマさん 、ほしまるのことが好きなんだね」

えっ、シロヤマさんが?

私を睨んでいたように見えたのって
極度の緊張のせいだったのか...?

そう考えると少しずつ シロヤマさんの不思議な行動も理解できた。

なぜなら、私たちが中学1年の時も高校2年の先輩は、
単に四才年上というだけでなく、とても大きな存在に思えて時にはとても怖かったからだ。

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そのあとも、シロヤマさんは私の誕生日やクリスマス、年末の公演が終わる時にも 顔を真っ赤にしながら
いつもプレゼントと手紙をくれた。

私もその度にささやかなお返しと手紙を渡していた。

シロヤマさんに限らず、下級生から
誕生日や公演の度にプレゼントをもらった時には返事の手紙と
ささやかなお返しを渡していたからだ。

いつもシロヤマさんは、中等部に渡しにいくと感激で泣き崩れていた。

よくよく思い起こせば、私も同じようなものだったな。
そんなことを思い出したりもした。

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さらに数ヶ月後。
高校2年のバレンタインの時のことだった。

私は、というと前日から手作りチョコを作っていた。

当時、通学電車の時間を相談して合わせたり、
学校帰りに一緒に帰っていた、
同い年の他校の男子校生の彼に渡すためだ。

ラッピングも、紙袋も選んで買ったもの。
プレゼントには、部活で使えるようにスポーツタオルを一緒に入れて登校した。

その日の頭のなかは、ほとんど学校帰りに彼に渡すことだけだったかもしれない。

教室に着くと、同じクラスの 親友 カコちゃん(仮名)が私を呼ぶ。

「ほしまるちゃん、廊下で会わなかった?
シロヤマさん、ずっとほしまるちゃんのこと待ってたの」

廊下なんてほとんど見向きもしないで
ささっと教室に入ったから気づかなかったのだが、
教室から 廊下を見ると確かにシロヤマさんが友達に付き添われて立っていた。

泣きそうな顔をしながら。

ふと気づいた。

多分私が教室に入る姿をシロヤマさんは見ていたはずだ。

そのときに、明らかに私が
【誰かに渡すためのような】紙袋を持って登校したのは
シロヤマさんとしては、ショックだったのかもしれない。

だとしたら、仕方ないとはいえ
悪いことをしてしまったな、と思った。

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すたすた...と私はシロヤマさんの待つ廊下へ向かう。

「おはようございます!」

元気に挨拶する、シロヤマさんの友達。
シロヤマさんは 心なしかうつむいたまだ。

「ごめん、待っててくれたんだってね」

そう言うと、シロヤマさんは、ぼろぼろと涙を流した。

「バレンタインの...ちょ、チョコを...」

明らかにしどろもどろだ。

「シロヤマさん、作ってくれたの?
ありがとう。嬉しいよ」

「ほんとですか?」

シロヤマさんの顔が明るくなる。

「うん。シロヤマさん、ありがとう」

するとシロヤマさんは深くお辞儀して友達と走って中等部の教室へ向かった。

正直に言えば、その年も登校中に他の下級生たちからも幾つかもらっていた。

そして、私自身も、本命チョコは学校帰りに渡す予定だった。

でも、なぜかこの年のバレンタインは
自分が本命チョコを彼氏に渡したことよりも、
他の下級生から幾つかもらったチョコよりも。

シロヤマさんがくれたチョコとプレゼント、というのがなぜか一番記憶に残っている。

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シロヤマさんからは、引退するまでも
そして卒業の時も花束やプレゼントと手紙をもらった。

私がかつて、憧れていた先輩 ユウコさんのように
私自身、温かくシロヤマさんを見守れたかはわからない。

けれど、私が卒業してから数年後の大きな公演で、
シロヤマさんは、初めてキャストとして舞台に立った。

「シロヤマさん、よく頑張ったね。
おめでとう。とてもよかったよ」

OGとして観劇したあと、シロヤマさんに、大きな花束を渡せた。

シロヤマさんは、目に涙を浮かべながら
明るい笑顔になっていた。

本当に嬉しい瞬間だった。

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#わたしのバレンタイン

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