僕のスーパーヒーロー (Inspired by "Superheroes")

朝の光が部屋を優しく照らす。
父は息子の部屋のドアを開け、まだ夢の中の息子を優しく起こす。
「ほら、起きなさい。朝だよ。」
息子は嬉しそうに父に抱きつく。
「よく眠れたかい?」
「うん。今日の夢の話、聞いてくれる?」
「もちろん。その前に顔を洗って歯磨きしてきなさい。」
大きく頷き、息子は部屋を飛び出す。

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間も無くテーブルに向かって座り、朝食を取る父子。
息子にとっても、そして、父にとっても、こうした二人の時間は大切な宝物だ。
食後の片付けを済ませて、二人で家を出る。
今日は天気が良い。
こんな日には、できることなら
お父さんとおもいっきり外で遊びたい。
でも、お父さんは今日も仕事だ。
僕のために一生懸命、毎日働いてくれている。
僕はお父さんが元気で笑ってくれていたら、それでとても幸せなんだ。
息子はそんなことを考えながら、父の手をしっかりと握った。
しっかりと握られた手の温かさを父も嬉しく思っていた。
嬉しいと同時に、息子に寂しい思いをさせていることも、
父はやるせなかった。
キャッチボールも、サッカーも、おもいっきり付き合ってあげられない。
それどころか、どこかに連れていってあげることもできない。
でも、毎日 父が作る料理を美味しそうに食べる息子の笑顔に
父は救われていた。
息子の笑顔が生きる源だった。
息子のためなら、なんだってできる。
父は心からそう思っていた。
「じゃあ、お父さん。行ってきます。お仕事頑張ってね!」
「お前も学校、気をつけて行ってくるんだよ。怪我しないように気をつけて。」
二人はお互い大きく手を振った。
父は、息子の姿が見えなくなるまで手を振って息子を見つめていた。

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「さて、と。」
父は少し急ぎ足で公園のトイレに駆け込んだ。
折れ目がつかないようにスーツを脱ぎ、汚れた作業着に身を包み、作業靴を履く。
スーツを袋にまとめると、作業員をピックアップする車の乗り場まで歩いた。
「よぉ、おはよう。」
「今日もよろしくな。」
すでに荷台に乗っている作業員と挨拶を交わす。
車の荷台に揺られ、現場に着く。
彼の仕事は大量に山積みにされたごみなどを仕分ける仕事だ。
天を仰ぐと、カラスが何羽もごみの山をめがけて飛んで来る。
この仕事はひたすらごみの山の中で汗をかくことだ。
この事を息子は知らなかった。
一方、息子は学校ではおとなしくしていた。
誰と親しくするでもなく、
校庭のすみっこでボールで一人で遊んでいた。
この前テレビで見た、ヨーロッパのサッカー選手の素晴らしいプレーを真似したいと、一人黙々と練習していた。
同級生たちがニヤニヤしながらやってくる。
「邪魔だよ。どけ。」
「邪魔って...すみっこでならいいでしょ?」
「お前が目障りなんだよ!」
気づくと、同級生たちは文句を言いながら手や足を出してきた。
まただ。
傷をぬぐいながらすごすごと教室へ戻る。
負けたくない、負けたくない。
涙を溢しながら、息子は耐えていた。
お父さんみたいに強くなるんだ。
僕をいつも笑顔で包んでくれるお父さんみたいに。
優しいヒーローになりたい。
痛みを強さに変えてみせる。
息子はずっといじめられていることを父に話したことはなかった。
負けたくない。
奇しくも父も仕事をしながら同じことをいつも思っていた。
人に誇れるような仕事をしていなくても。
心だけは強くありたい。
そう思わせてくれたのは、たった一人の大切な息子だ。
名声や地位なんていらない。
いつも自分を明るく照らしてくれる息子のような
優しいヒーローになりたい。
「あっお父さん!、お父さん!」
息子は嬉しそうに駆け寄った。
「おかえり。」
「おかえり。」
息子は今日学校で楽しかったことを報告した。
父も、職場の人たちのおもしろい話をした。
父は、息子の手を取って、久しぶりに肩車をした。
「わぁ!嬉しいけどスーツ崩れちゃわない?」
「気にしなくて大丈夫だよ。大きくなったな。」
「そうかな。」
「そのうちすぐお父さんに追い付くな。」
「空まで飛べる?」
父は笑ってこう言った。
「うーん。もしかすると飛べるかもな。」
その夜、息子は空を飛ぶ夢を見た。

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あとがき

まずお読みいただいた方。
驚かせてしまってすみません!
ショートストーリー/掌編小説 風味(あくまでも風味。)の記事、初めて書いてみました。

この作品はある曲にインスパイアされてできたものです。
アイルランド出身の3ピースバンド、
The Script(ザ・スクリプト)の "Superheroes"(スーパーヒーローズ)。
私自身、彼らのデビュー時から大ファンでこれまで
何度もライブでも見てきました。

いつかThe Scriptのこと、曲のことを書きたいな
と思っていましたが。

私が書く拙い上に ただ暑苦しい、ファン愛いっぱいの記事って
果たして読んで楽しいか?という疑問があり。
というのも、フォロワーさんの記事とか見ていても
邦楽好きな方々多くて、洋楽好きとしては
わりとアウェイだな、とは思っていたのです。

これまでもThe Scriptに限らず、下書きに入れたままのバンド、グループ、アーティストは沢山います。

けれど、たまたま 先日この Superheroesの動画を観ていて
このミュージックビデオに出てくる父子のことを
物語にしたら、少しは読み手の方も興味を持つかな?と思い、オマージュとして書くに至りました。
というのも、初めて観たときからこの父と子の様子がとても印象に残っていました。

スーツ姿で家を出たはずの父が、
実は...というのは、もしかすると、そう珍しいことではないのかもしれません。
そう考えると、このミュージックビデオの父と息子は、映像の世界だけの親子とは思えませんでした。
こうして私が今、文字を打っている間にも
スーツを着て家を出ていったどこかのお父さんが、想像もつかないような過酷な環境で働いている、のかもしれませんね。

一部だけこの The Script の Superheroesの意訳をします。
(かっちりした和訳ではないのでご了承ください)

When you've been fighting for it all your life
You've been struggling to make things right
That's how a superhero learns to fly
Every day, every hour, turn the pain into power
When you've fighting for it all your life
You've been working every day and night
That's how a superhero learns to fly
Every day, every hour, turn the pain into power
人生を通してずっと何かを目指して頑張って
正しくしようとずっと頑張ってきたのなら
君はスーパー・ヒーローだ
ヒーローはそうやって飛び方を身につける
だからどんな時だってその辛さをバネにして
力に変えてみせるんだ
人生を通してずっと何かを目指して頑張って
昼も夜も休まずにずっと頑張ってきたのなら
君ははスーパー・ヒーローだ
ヒーローはそうやって飛び方を身につける
だからどんな時だってその辛さをバネにして
力に変えてみせるんだ


サビで繰り返される一部を訳してみました。

ミュージックビデオ含めて込められたメッセージにぐっときます。

気になった方は、ぜひYouTube、Spotifyなどで聴いてみてください。

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明日6/20(日)は父の日。
直にギフトなどを渡せる方も、離れていて直接渡せない方も。
元気な表情、声を交わすことができますように。
世の中の全てのお父さん、いつも本当にお疲れ様です。

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#家族の物語

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