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ホスピタリストにエビデンスはありますか?

前回、1回目となるNote(https://note.com/hospitalistwg/n/n341ec0382e74)ではホスピタリストに関して、長崎先生よりご紹介いただきました。今回はホスピタリストに関連したエビデンス(論文)を一部紹介させていただきたいと思います。今回紹介する論文の多くはシステマティックレビュー(SR)やメタアナリシス(MA)になります。

1. 入院期間は?診療の質は?

A systematic review of outcomes and quality measures in adult patients cared for by hospitalists vs nonhospitalists
Mayo Clin Proc. 2009 Mar;84(3):248-54

Hospitalistと非Hospitalistでは成人の入院にかかる費用や診療の質に違いがあるのか?というリサーチクエッションからのSRです。2009年に発表されています。結果としては...

  • 33の研究でホスピタリストによるケアが入院期間の短縮と入院あたりの費用の削減につながるという点で概ね一致している

  • 3つの報告では、ホスピタリストによるコンサルテーションまたは共同管理を受けた整形外科患者の転帰の改善が示されている

  • 3つの報告では肺炎患者のケアの質の指標の改善が示されている

  • 2つの報告では心不全管理の側面での改善が示されている

という報告でした。入院期間の短縮、入院費の削減、そして特定の管理(整形、肺炎、心不全)の質の改善が示されています。


Do hospitalist physicians improve the quality of inpatient care delivery? A systematic review of process, efficiency and outcome measures
BMC Med. 2011;9:58

こちらは2011年に発表された、65件の研究が対象となったSRです。以下の報告がなされています。

  • 69%の研究が、患者の平均在院日数の短縮を示していた

  • 70%の研究が、医療費の削減を示していた

  • ホスピタリストの診療は効率がよい入院患者のケアを提供していた

  • しかし、非ホスピタリストとの診療の質の差はあまりなかった

  • 研究デザインに懸念がある研究も多かった

入院期間の短縮や医療費の削減など医療の効率を改善しますが、診療の質そのものは本研究ではその改善は示せていませんでした。研究の手法にも問題があるものも含まれているようです。


The impact of hospitalists on length of stay and costs: systematic review and meta-analysis
Am J Manag Care. 2012 Jan 1;18(1):e23-30.

今度はHospitalistの「入院期間」に関しての17件のSR&MAになります。2012年に発表されています。結果としては、、、

  • 入院期間はホスピタリスト群が非ホスピタリスト群に比べて有意に短い(-0.44日,  95%CI -0.20~-0.68)

  • 研修医がいない病院では、この差はより大きかった(-0.69日, 95%CI -.046~0.93)

  • 医療費は有意差なし

本研究では明確に入院期間の短縮の効果が示されています。研修医がいない病院ではより短縮されていますが、主治医の意図がより患者のケアに反映されやすいのかもしれませんね。


Impact of hospitalists on the efficiency of inpatient care and patient satisfaction: a systematic review and meta-analysis
J Community Hosp Intern Med Perspect. 2019 Apr 12;9(2):121-134.

さて、これは2019年に行われたかなり新しいSR&MAになります。61件の研究をもとに、Hospitalistの入院期間、医療費、院内死亡、30日以内の再入院、患者満足度に与える影響を調査した研究になります。

  • 入院期間はホスピタリスト群のほうが0.67日 (95%CI -0.56~-0.78)短かった

  • 医療費は有意差がない

  • 30日後の再入院と院内死亡は有意差がなかった (OR 0.95, 95%CI 0.89-1.00)

  • 患者満足度は全体では有意差がなかったが、患者の質問や心配に対する医師の配慮(P=0.01)や総合得点(P<0.001)はHospitalistのほうが良い傾向にあった

これらの結果を見ると、入院期間の削減に関してはやはり確固たるエビデンスがあるように見えます。医療費やその他のアウトカムでは初期の研究とは異なり、はっきりした差は出ていません。ホスピタリストや非ホスピタリストに限らず、医療のケアそのものが向上、または変化している可能性はありえそうです。


Interventions to Reduce Hospital Length of Stay in High-risk Populations: A Systematic Review
JAMA Netw Open. 2021 Sep 1;4(9):e2125846.

この研究は2021年に発表されたSRであり、高リスク患者の入院滞在期間を減らすための戦略を調査しています。

その中で、8つの戦略のうちの1つが「ホスピタリストの導入」でした!

その根拠となる論文は本日紹介した、平均在院日数の短縮や費用の削減を報告したWhiteらの文献(BMC Med. 2011 May 18;9:58.)です。

ちなみに、他の7つの戦略については、退院計画、老年学的評価、投薬管理、学際的/集学的ケア、症例の管理、遠隔医療が挙げられていました。この文献はホスピタリスト必読ですね。

2. 他にはどんなメリットがありますか?

入院期間や医療費、診療の質に関するエビデンスを取り扱ってきました。ここでは、それ以外のアウトカムを扱った論文を数点紹介します。

  • 肺炎を対象とした研究でホスピタリストはガイドラインの遵守率が高い (Am J Manag Care. 2007;13(3):129)

  • ホスピタリストは救急医とよく協働でき、腎臓内科や感染症など他の専門家のコンサルトを最小限に抑えられ、プライマリケア医との連携がよい (J Community Hosp Intern Med Perspect. 2019 Apr 12;9(2):121-134.)

  • Hospitalistがいるほうが患者満足度が高く、教育施設や大規模施設でメリットが受けやすい (Am J Med Qual. Mar-Apr 2011;26(2):95-102.)

ガイドラインの遵守率、コンサルテーションの最適化、患者満足度などの点もホスピタリストの診療のメリットとして挙げられます。

3. 日本のエビデンスはありますか?

今までの論文はすべて国外のものになります。日本国内ではどうでしょうか?多くはありませんが、いくつか紹介していきます。

Impact of the Hospitalist System in Japan on the Quality of Care and Healthcare Economics
Intern Med. 2019;58(23):3385-3391.

2019年に発表された日本初のホスピタリストの研究になります。入院になった65歳以上の誤嚥性肺炎274名を単施設で後ろ向きに調査しています。ホスピタリスト管理群とそれ以外を傾向スコアマッチを用いて解析したところ、以下の結果が得られました。

  • 入院期間が有意に短かった(12.0日 vs 16.5日)

  • 静注抗菌薬から経口抗菌薬への切り替え率(26.2% vs 2.4%)

  • 抗菌薬の投与期間(6.0日 vs 8.0日)

  • 入院中の胸部レントゲン検査や採血検査の回数が少なかった

  • 入院費が少なかった(55万円 vs 77万円)

  • 死亡率や再入院は有意差はなかった

入院期間、医療費、診療の質をすべてを改善させる目覚ましい効果を示しています。入院期間が4.5日短縮しているのは特に素晴らしいと思います。


Impact of the hospitalist system on inpatient mortality and length of hospital stay in a teaching hospital in Japan: a retrospective observational study
BMJ Open. 2022;12(4):e054246.

こちらは2022年に発表されたばかりの新しい日本からの報告です。単施設でホスピタリストシステムを導入し、その入院期間や院内死亡率への影響を検証した論文になります。

結果としては、病院総合内科の導入後に入院期間が-0.66日 (95%CI 0.14~-1.12)短縮した一方で、院内死亡率には変化はありませんでした。

院内死亡率に関しては「変化がないのでメリットがない」ということでは必ずしもなく、「入院期間を短縮させたにも関わらず院内死亡率は上昇させていない」とも言えます。これは今日紹介した他の論文でも同等の見方ができます。


4. 日本からの提言

The new era of academic hospitalist in Japan
J Gen Fam Med. 2020;21(2):29-30.

本ワーキンググループのアドバイザーである、和足先生が書かれた日本における提言です。日本におけるホスピタリスト導入のメリットとして以下を挙げられています。

  • ホスピタリストは研修医や医学生に対する教育効果が高い

  • ホスピタリストは病院経営にとってメリットが大きい

  • ホスピタリスト病棟管理に対して俯瞰的な視点を有しており、質の向上、医療安全、卒後教育、経営、感染管理など様々な分野で効果的に働く

そして、それに加えて米国のホスピタリストがZero to 50,000(N Engl J Med. 2016;375(11):1009–11)を成し遂げた背景に「Academic Hospitalist」の役割があったことに注目されています。

Academic Hospitalistたちは医学教育、医療の質と改善、医療サービスに関する研究、臨床研究を主に研究対象として研究分野でも躍進を遂げています。

なので、私たち日本のホスピタリストはジェネラリストとして質の高いアウトプットを行い、他の領域の専門家と"同じ言語"で話せるようになることが必要である。そして日本でも研究領域で貢献できるAcademic Hospitalistの育成が不可欠であると述べられています。


Five Tips for Becoming an Ideal General Hospitalist
Int J Gen Med. 2021;14:10417-10421

大学の総合診療の若手リーダーで構成されたJUGLERグループ(https://jugler-gm.com/?fbclid=IwAR0750lX92jEaNeg1ce3yxGFwSjDqTN8GFZ65KprQQ9-4owgXNKVTAhOiiQ)から、以下のような5つの提言が出されています。

  1. General mind

  2. リーダーシップとマネジメント

  3. 地域包括ケアや多職種との連携

  4. 適切な問診、身体診察、臨床推論

  5. 積極的な教育と学術活動

論文ではこれらの詳細が解説されておりますので、ぜひお読みくだい。私たちもこうありたいと日々思っています。

5. まとめ

  • ホスピタリストは病棟診療の質向上に寄与する(入院期間の短縮、患者満足度、ケアの質...)

  • ホスピタリストは複雑な症例に対して有用

  • ホスピタリストは経営面でも病院に貢献する

  • ホスピタリストは院内外で他医療職との協働が得意

  • 日本初のエビデンスも出始めている

  • これからは「Academic hospitalist」の育成および情報発信が大事

いかがでしたでしょうか。

もしホスピタリストに少しでも興味を持った方がいれば、今後のnoteも読んでくださると嬉しいです。また皆様とお会いできることを楽しみにしています。

学会にある我々WGのページはこちらになります。http://hgm-japan.com/hospitalmedicine/

そのほか日本ではホスピタリスト関連では以下のようなサイトもあります。興味ある方はぜひ御参照いただければ幸いです。

JPCA若手医師部門 病院総合医チームのNote
https://note.com/jpcahospitalmed/

J Hospitalist Network
http://hospitalist.jp/

JUGLER
https://jugler-gm.com/ 
https://www.facebook.com/JUGLER.GM

文責:原田 拓 

練馬光が丘病院 救急総合診療科 総合診療部門
獨協医科大学病院 総合診療科 非常勤スタッフ医師

※当記事の内容は、個人の意見であり、所属する学会や組織を代表するものではありません。

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