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ホスピタリストって知ってます?

皆さま、初めまして。私たちは日本病院総合診療医学会の質の高い病棟診療ワーキンググループのメンバーです。ホスピタリスト(病院総合診療医)である私たちは、よりよい病棟診療のあり方を考え、そして広めて行く活動を行っています。特に研究(リサーチ)を通じて、皆様に新しい価値をお届けできたらと思っています。

この公式noteでは「ホスピタリストの紹介」「病棟診療のエビデンス」「日々の活動」「雑談(や裏話)」に関する記事を隔週でアップしていきます。のんびりした更新頻度ですが、何卒お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

さて、記念すべき第1回目は「ホスピタリストって知ってます?」です。タイトルそのままですが、馴染みがない方も多いと思いますので、まずはそこからです。

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1. ホスピタリストの誕生

ホスピタリストは医師の新しい働き方で、1990年代半ばにアメリカで誕生しました。ホスピタリストは「入院した患者を担当する専門の医師」です。こういうと「え?今までは誰が担当してたんですか?」とか「なぜこんな普通な医者が今更誕生するの?」って思う方もいると思います。それを理解するには、現代の医療を取り巻く課題について説明する必要があります。

その課題は主に3つに分けられます。

1つは医療全体の課題です。病気を治して予防することは医療の本分であり、それは医師の得意分野です。ただ、それだけでなく、医療の新たな課題として、医療費、患者の安全、満足度の向上など複数の課題が注目が集まってきました。私たち、医師はそれを解決することを求められています。特に医療費の問題は皆さんもニュースで多く耳にしているので理解されていると思います。

2つ目は、患者側の課題です。私たちが担当する入院患者はだんだん複雑になってきています。高齢化の影響は大きく、高齢化した患者さんは複数の問題を抱えていることが多いです(心臓も悪いし、肺も悪い、足も腰も悪い)。また、技術の進歩により、抗がん剤や免疫を抑える薬など人体にリスクがある薬を使用しながら、生活している方も増えています。

3つ目は、医師側の課題です。医師は患者を治すためにさまざまな技術を発展させていきました。しかし、その結果として医療は高度に専門分化することになりました。技術を発達させた分、一人の医師が習得できる技術に限りが出たのです。

そして、これら3つの課題は密接に関係しています。

まず、高齢の入院患者の診療が複雑になった結果として、専門分野しか見れなくなった医師は複数の医師で1人の患者を担当しなければならなくなりました。そうなると一人ずつの医師に支払いが必要になり、医療費はより多くかかります。また、ある医師が始めたい薬は、ある医師にとって始めて欲しくない薬かもしれません。その連携には時間もコストもかかります。このような環境は安全な医療の提供やタイムリーでストレスのない診療とはやや遠いものでした。

そこで、誕生したのがホスピタリストです。入院診療を専門とした医師が包括して診療を患者に提供することで、医療費を低下させ、患者の安全や満足度を高めようと試みました。

そして、この試みはアメリカでは多くの成功を収めました。ホスピタリストを導入した病院では、医療費が減少し、より安全になり、患者の満足度も高めました(多くの論文で示されています)。患者に提供される治療の質も低下していません。

その結果、アメリカではこのホスピタリストは誕生から20年で爆発的に増加し、現在ではその数は50, 000人を超えています(医師の専門では3番目に多い)。また、アメリカの75%以上の病院にホスピタリストは在籍するようになりました。

そう、ホスピタリストはアメリカの医療における「サクセスストーリー」の1つなのです。

2. ホスピタリストってどんな人?

ホスピタリストは病棟で入院患者に包括的な医療を提供しており、幅広い疾患や複雑な状況に対処する能力が高いです。診療だけでなく、教育や研究、病棟診療におけるリーダーとしての仕事も行っています。

ホスピタリストの多くは、内科、小児科あるいは家庭医療の専門的なトレーニングを受けています。どの科も総合的な診療が得意ですが、ホスピタリストはその中で病棟診療に特化して診療をしています。

ホスピタリストは日々の診療、入院患者の安全管理、適切なコミュニケーション、退院支援、医療資源の最適化などを通じて、効果的なケアを提供し、患者のアウトカムを改善しています。このあたりの研究は、今後のnoteで少しずつ紹介していきたいと思ってます。

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ところで、日本でホスピタリストを聞いたことがないという方も多いと思います。そうです、まだ少数派の医師の働き方なのです。しかし、私たちは日本でもこのような医師が必要だと信じています。アメリカの医療の課題について書いた文章を改めてここに貼ってみます。

まず、高齢の入院患者の診療が複雑になった結果として、専門分野しか見れなくなった医師は複数の医師で1人の患者を担当しなければならなくなりました。そうなると一人ずつの医師に支払いが必要になり、医療費はより多くかかります。また、ある医師が始めたい薬は、ある医師にとっては始めて欲しくない薬かもしれません。その連携には時間もコストもかかります。このような環境は安全な医療の提供やタイムリーでストレスのない診療とはやや遠いものでした。

この状況はアメリカだけのものでしょうか。いえ、違います。これはまさに現在の日本が抱える医療の問題そのものです。アメリカだけでなく、多くの先進国では同様の悩みを抱えています。ここで、日本のホスピタリストに目を向けてみましょう。

2. 日本のホスピタリスト

まず、上でも書いたことですが、日本の病院で働く医師は高度に専門に分かれています。また、高齢者が入院の多くを占めており、病院から家に退院するだけでなく、介護施設などへの退院調整も必要であり、入院期間は長期化します(そして、入院医療には多くの医療費がかかります)。よって、日本政府は病院の入院期間を短縮し、改善した患者を速やかに自宅ないし介護施設へと診療の場を移行(退院)させることを望んでいます。

これらの課題に対応するため、複数の合併症を持つ患者の初期診療や管理を行う総合診療科を設置する病院が増えてきました。私たちの所属する日本病院総合診療医学会も2010年から病院で働く総合診療医の専門学会として活動しています。2018年には、総合診療科が日本専門医機構から正式な専門医の認定を受けました。病院で働く総合診療科、つまりホスピタリストの専門医制度も近年設立されました(日本では病院総合診療専門医といいますが、専門医制度に関することはまたnoteで取り扱います)。

しかし、まだ日本でホスピタリストはそれほど増えていません。国内の研究では、ホスピタリストによる誤嚥性肺炎(高齢者の肺炎の1つ)の治療は、専門医による治療と比べ、入院期間を短縮し、入院費を削減することを示しています。なので、日本でもホスピタリスト導入によるメリットは十分あると考えられます。

また、日本ではアメリカと違い、ホスピタリストの多くは外来診療も担当していることが多いです。大学における病院総合診療科の多くは外来診療のみを担当していません(全国69の診療科のうち、20の診療科のみが入院診療もしている)。

つまり、日本ではホスピタリストの有用性は認識され始めてきているが、導入はまだあまり多くない、というのが現状と思います。

私たちは高齢化した患者が多く入院する日本の病棟診療において、ホスピタリストの役割は大きいと考えています。その有用性を広め、価値を高め、仲間を増やすことができれば、日本の医療をよりよいものにできると信じています。

3. 参考文献

Wachter RM, Goldman L. Zero to 50,000 — The 20th Anniversary of the Hospitalist. New Engl J Medicine 2016;375(11):1009–11.

Yan Y, Naito T, Hsu N-C, et al. Adoption of Hospitalist Care in Asia: Experiences From Singapore, Taiwan, Korea, and Japan. J Hosp Med 2021;16(2021-June ONLINE 1st):443–5.

https://www.hospitalmedicine.org/about/what-is-a-hospitalist/

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いかがでしたでしょうか。もしホスピタリストに少しでも興味を持った方がいれば、今後のnoteも読んでくださると嬉しいです。次回は7月中旬ごろの予定です。また皆様とお会いできることを楽しみにしています。

文責:長崎一哉 水戸協同病院
※当記事の内容は、個人の意見であり、所属する学会や組織を代表するものではありません。


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