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『モモ』は傾聴とリーダーシップの書だった | きのう、なに読んだ?

『モモ』を久し振りに再読した。

『モモ』を初めて読んだのは小6の時。中学入試の面接の待ち時間に読む本を買おうと、書店で偶然手に取ったものだ。以来約40年、大切にしてきた。今も本棚のトップポジションに置いてある。

この物語の世界では、人々はゆったりと生活を楽しんでいた。世間話をし、自然に親しみ、子どもたちは空想にふけっていた。しかし、時間泥棒がいつのまにか人々の間に忍び込み、「時間を節約して貯蓄しましょう」大キャンペーンを成功させる。お店は回転率を高め、働く人は分刻みのスケジュールをこなし、子どもたちは「無駄なことをしない」よう躾けられるようになった。人々はお互いにちゃんと話す時間を取らなくなり、不機嫌でギスギスした世の中になっていく。皆が節約していると思っている時間は、実は時間泥棒に奪われていただけだった。主人公のモモは、このカラクリを理解し、人々から奪われた時間を取り戻す。

この本では、「一人ひとりに与えられた時間」は、この世では見たこともないほど美しい花と音楽として描かれる。わたしは、この描写が大好きだ。

このように「モモ」は時間の物語だと認識してきた。忙しくなりすぎると、モモと時間泥棒と時間の花のことを思い出してきた。

今回、『モモ』を再読したきっかけは、あるワークショップの課題図書として指定されたからだ。その趣旨は「これは『傾聴』の良い参考になる」というもの。今まで、『モモ』を傾聴と題材と考えたことはなかったので、新鮮な気持ちで再読した。

「傾聴」とは何か。「日本の人事部」の説明が分かりやすいので、引用する。

日常のコミュニケーションにおいて、「きく」という行為は三種類あると言われます。それぞれの意味をふまえて、三つの「きく」を漢字で表すと、一つは「訊く」。訊く側が訊きたい答えを訊き出す。ひたすら質問して相手を追い込むような態度です。換言すれば「尋問」か「詰問」、英語ならaskに近いニュアンスでしょう。
二つ目の「きく」は、「聞く」です。英語ならhear。相手の声や言葉がただ聞こえているというだけで、単なる音として耳に入ってくる状態を指します。話に興味を感じなければ、内容を深く理解しようとしたり、その奥にある相手の考えや心情にまで触れたりはしません。
「訊く」や「聞く」と違って、相手の言葉にじっくり耳を傾けようとする姿勢が三つ目の「きく」、すなわち「聴く」です。傾聴とは、この「聴き方」のこと。英語のlistenに相当します。「聴」の字源には「耳」「目」「心」が含まれていますが、まさにその字のごとく、「耳と目と心できく」のが傾聴の基本だといわれます。

たしかに、主人公のモモは、傾聴力によって周りの信頼を得ていっている。『モモ』本文から引用しよう。

モモがものすごく頭がよくて、なにを相談されても、いい考えをおしえてあげられたからでしょうか?(略)ちがうのです。こういうことについては、モモはほかの子と同じ程度のことしかできません。(略)
小さなモモにできたこと、それはほかでもありません、あいての話を聞くことでした。(略)
モモに話を聞いてもらっていると、ばかな人にもきゅうにまともな考えがうかんできます。モモがそういう考えを引き出すようなことを言ったり質問したりした、というわけではないのです。彼女はただじっとすわって、注意ぶかく聞いているだけです。その大きな黒い目は、あいてをじっと見つめています。するとあいてには、じぶんのどこにそんなものがひそんでいたかとおどろくような考えが、すうっとうかびあがってくるのです。
モモに話をきいてもらっていると、どうしてよいかわからずに思いまよっていた人は、きゅうにじぶんの意志がはっきりしてきます。

とくに本の前半では、モモはひたすら、このような態度で周りのひとの話を聴いている。モモのセリフは少なく、周りの人たちの語る話がほとんどだ。ところが、中盤からモモはよく言葉を発するようになる。けっこうアグレッシブな印象さえ受ける。でも少し注意深く見ると、それでも傾聴し続けているようなのだ。

モモに見られるのは、たとえば、次ような行動だ。
◉仲間から必要な情報を得られるまで、相手のペースを尊重しつつ粘り強く質問を重ねる。(それでも尋問調にはならない)
◉敵との対峙を恐れず、敵に対しても時間をかけて傾聴する。(敵がぽろぽろ秘密を漏らしてくれる)
◉重要な情報を伝えたい仲間に対して、相手がこちらの話を聞く用意があるかどうか、傾聴して見極める。聞ける状況にないと判断したら、無理に聞かせない、知らせない。

一方、敵である時間泥棒のコミュニケーションは、こんなスタイルだ。
◉顧客に対して、こちらの論理で一方的に迫り、相手が「そうかも…」と折れるまで詰める。
◉上位者が一方的に話す。「お前は自分が何をしたか分かっているのか?」「はい…」というように、下位の者の話はほんとうには聞かれていない。

時間泥棒のコミュニケーションスタイル、割と親近感を覚えませんか?(笑)

モモはもしかしたら「傾聴を通して変革を起こす」お手本ではないだろうか。モモは、傾聴し続け、周りの人たちに対する理解と共感を深めた結果、それが使命感のもととなり、わたしがちょっとアグレッシブと感じたほどの勇気と行動力をもたらしたように読める。物語の中では、仲間はみんな敵である時間泥棒の支配から逃れられず、モモは一人で戦うことになる。でも現実では、モモのように傾聴を重ねたら仲間が集まってくると思うのですよね。

傾聴って受け身なイメージがあったけれど、決してそうではないのかも。『モモ』を再読して、新たな発見がありました。

ちなみに、傾聴については『こころの対話 25のルール』という本がお勧めです。こちらのnoteで紹介していますので、良かったらあわせてどうぞ。

今日は、以上です。ごきげんよう。

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