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記事一覧
【短編】朝、一緒にヨーグルトを
お互いの家具を持ち寄って二人で暮らしはじめた僕らは、あの頃とても若かった。僕は社会人になりたてだったし、彼女はまだ大学生だった。彼女の実家が渋い顔をするのに、頭を下げながらの同棲だった。
引っ越した日の夕方、二人で近所のスーパーへ買い出しに行った。食パン、ベーコン、卵、野菜に、特売の肉、と買い進んだところで、メモを見ながら買い物カートを押していた彼女がつぶやいた。
「あと、ヨーグルト」
「ヨー
【短編】ミニチュアの女の子
中学校一年生の春。入学したばかりの中学校で、私は吹奏楽部の体験入部に参加していた。もともと運動は苦手だし、入るなら文化系の部活と決めていた。幸い、小さい頃からピアノを母に習わされていたから楽譜は読めたし、そう苦労することはないだろう、と思っていた。
文化系の部活の中でも、ゆるい茶道部や手芸部、ボランティア部などにしなかったわけは、私自身が、自分のことを小学校の六年間で「それほど人間関係が上手くな
【短編】心の内を知りたいの
職場の女子トイレの中で、私はスマートフォンを取り出し画面をスクロールする。一日前に渋井くんに送った「今度いつ会える?」というLINEに既読マークがまだつかないことを確認すると、絶望的な気分で大きくため息をついた。
トイレの外の洗面所から、同僚の若手社員二人の声が、耳をすまさずとも聞こえてくる。
「あー、今月お金なーい。なんでこんなお給料少ないんだろうっていつも思わない?」
「思う、思う。ほ
【短編】夢を見たあとに
線を2Bの鉛筆でぐっと引く。目の前の花瓶に生けてある花の形を、葉の形を、線を使ってかたちどっていく。でも、まだ少ししか描いていないのに気に入らない。思い通りに、絵が描けない。
私は深く長いため息をついた。大きく期待されるのが、期待されないよりもずっと怖いだなんて、知らなかった。
結婚したとき、夫は言った。
「ずっと絵本を描きたかったんでしょう。今は転勤してこの町に引っ越してきたばかりだし、し
【プロット】受け継がれたレシピ帖
※覆面編集者大賞に応募用のプロット原稿(本文996文字)です。私のTwitterにシェアしていますので(トップに固定表示しています)このnoteを読んで「いいじゃん、この作品読みたい!」と思ってくださったら、ぜひtwitterのほうで、リツイートをお願いします。
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覆面編集者大賞詳細
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【短編】大人になれば
大人の習い事というやつをしてみたい。そう思って、ペン習字の教室に通いはじめることにした。家から近いほうがいいな、と思ってインターネットで検索し、今住んでいるマンションから歩いて十五分くらいの場所に、小さな看板をかかげている先生を見つけた。
電話で体験申し込みをして、初めて教室に出向いたのは、あいにく大雨の日だった。車を持っていない私は、徒歩で教室に向かうしかなかった。雨がやんでからにしたいなどと
【短編】アジ釣りの日
中学校を休んで、もう10日になる。もとはと言えば、僕の内履きズックの中に、ゴミが詰め込まれていたことが始まりだった。女子のいじめも陰湿だというけど、男子の中で覇気のない僕はまわりからこぞって見下され、からかわれ、悪意を持っていじりまくられた。その攻撃に僕はほとほと疲れてしまった。
今日は日曜日。明日になったら、また学校に行くか行かないかを決めなきゃならない。僕はこのまま、駄目な奴として、落ちこぼ
【掌編】ほろ苦アイスコーヒー
気のない相手を、深追いするほど馬鹿なことはない。真山忠典はさっきから、友人である原田章介の愚痴と弱音を聞きながら、腹の底で意地悪く思った。原田は、この間から、同じバイト先の女の子に熱心にアプローチをかけているらしいが、ことごとくかわされ続けているらしい。
氷のとけてうすくなったアイスコーヒーを、あまりもう美味しくない、と思いつつすすりながら、真山は原田に訊く。
「なんで、相手が迷惑そうに思って
【掌編】私たちにふさわしい夕食
ばたばたと玄関で黒いパンプスを脱いだ。そのとき、足先が何かにひっかかったような気がして、よくよく見ると、黒いストッキングのつま先部分が破れていた。斎場では気付かなかった。きっと今破ったのだ、と思いながら、私は先に居間のほうへと入っていった夫の啓を追いかけた。啓は黒のネクタイをゆるめながら、居間へと入ってきた私を見ると、少し疲れの残る口調で言った。
「奈々恵、ありがとな。奈々恵にも参列してもらって