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「ケーキを3等分にしてください」から分かる認知機能の弱さ / 本質的な課題とは

医療少年院で粗暴な言動が目立つ少年少女(以下「少年」とします *1)に対して「ケーキを3等分にしてください」と指示を出すと、上記OGP画像のような切り方をされるそうです。

宮口幸治さんのベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』には、認知機能の弱さが引き起こす様々な不適切な行動が指摘されています。不適切な行動が凶悪化すると、最悪なケースとして、強盗、強姦、殺人事件などに繋がります。

中学生・高校生の年齢の非行少年たちが取り巻く環境を、著者は以下のように指摘します。

彼らに、非行の反省や被害者の気持ちを考えさせるような従来の矯正教育を行っても、殆ど右から左へと抜けていくのも用意に想像できます。犯罪への反省以前の問題なのです。またこういったケーキの切り方しか出来ない少年たちが、これまでどれだけ多くの挫折を経験してきたことか、そしてこの社会でどれだけ生きにくかったことかも分かるのです。
しかし、さらに問題と私が感じたのは、そういった彼らに対して”学校ではその生きにくさが気づかれず特別な配慮がなされてこなかったこと”、そして不適応を起こし非行化し、最後に行きついた少年院においても理解されず、”非行に対してひたすら「反省」を強いられていたこと”でした。
(宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』P34〜35より引用。太字は私)

本書では「特別な支援が必要ながら、気づかれていない子どもたち」がおよそ14%いると主張されています。1クラス35名だったとしたら5人は境界知能も含めた「知的障害」の対象であるとのことでした。

そう考えると、一気にこの問題が身近に感じられます。

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知的障害対象者が全体の14%ということは、裏を返せば障害に苦しんでいない人が86%いるということです。言わずもがな14%はマイノリティですので、彼らを中心に捉えた制度設計はなされないことになります。彼らの特性が「気付かれていない」「理解されていない」まま進んでいるのが現状だとしたら、とてつもない誤解(善意の誤解、悪意の誤解それぞれにおいて)にも晒されていることでしょう。

本当は支援が必要であるはずの知的障害対象者が「生きづらい」と悩みを抱えている。僕が決定的に見落としていた点です。

罪を犯した人が「反省していない」ことに対して憤る被害者や遺族に関する記事を見たことがあります(というか時々、その対立構図はセンセーショナルなものとしてニュースで取り上げられます)。そのたびに僕も被害者側に共感してしまい、悲しみや怒りの感情が増幅されます。

しかし彼らの側に立つと「反省していない」状態そのものは致し方ないことかもない。本書にはこう書かれています。

これまで多くの非行少年たちと面接してきました。凶悪犯罪を行った少年に、何故そんなことを行ったのかと尋ねても、難し過ぎてその理由を答えられないという子がかなりいたのです。更生のためには、自分のやった非行としっかりと向き合うこと、被害者のことも考えて内省すること、自己洞察などが必要ですが、そもそもその力がないのです。つまり、「反省以前の問題」なのです。これでは被害者も浮かばれません。
(宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』P22より引用。太字は私)

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もちろんだからと言って、加害者が起こした罪を肯定することはできません。被害を受けた方々の気持ちを想像すると、心が痛みます。

だけど僕は思うのです。
僕はただ幸運だっただけではないのか、と。

思春期には僕もそれなりに「生きづらい」という悩みを抱えましたが、それなりに処世術を学びながらやり過ごしてきました。恋愛でも数々の失敗を繰り返し(やるせない思いや孤独も感じながら)、現在はパートナーと家族を共にしています。幼少期の家庭環境も含めて、出会ってきた人たちが親身で優しかったことが僕の人生にプラスに働きました。

であればこそ、ただLuck(運)により人生が左右されてしまうのは公平なことではありません。対人スキルや感情コントロールなど社会面の支援を必要としている人たちを正しく見極め、場合によっては適切に保護する必要があります。

被害者が新たな被害者を生んでいる。目を覆いたくなるような悪循環があることを知り、解決し難い矛盾に心を痛めるのはとても辛いものです。だけどその痛みを正しく分かち合うことが、課題解決のための第一歩ではないでしょうか。まずは一人でも多くの方に本書を読んでほしいと思います。

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*1:『ケーキの切れない非行少年たち』でも「はじめに」でことわりがありました。「敢えて男女を区別して論じることはし」ておらず、かつ「矯正施設では女子でも少年と呼ぶことから、すべて少年と統一しています」とのことです。

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ほりそう / 堀 聡太
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