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他者とのつながりの大切さ(映画「劇場版 きのう何食べた?」を観て)

「ほっこり」コメディかと思いきや、他者とのつながりの大切さを伝える良作でした。

「劇場版 きのう何食べた?」
(監督: 中江和仁 、2021年)

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確か新入社員の頃だったと思う。

漫画好きの先輩から、よしながふみさんの漫画『きのう何食べた?』を借りた。2000年代後半、まだ一般的にジェンダーや多様性の課題は顕在化していなかったと思う。僕はご多分に漏れず、「ゲイカップルの共同生活を描いた漫画って、何が面白いんだろう?」と多少の偏見を含みながら漫画を読み始めたと記憶している。

でも、とても面白かった。

美味しそうなレシピとともに、男性同士の交流のあり方がナチュラルに描かれていて、すぐにシロさんとケンジのことが大好きになった。

だからこそ漫画のドラマ化には関心を持った。しかも日本を代表する俳優の西島秀俊さんと内野聖陽さんがふたりを演じるのだという。面白くないわけがない……と思っていたのだが、日々の喧騒に追われ、気付けば今日に至るまでドラマをスルーしていた。

ということで劇場版から鑑賞したのだが、さすが実力派のふたり、テレ東ドラマのゆるっとした雰囲気にもバシッとハマっていた。シロの作る料理は美味しそうだし、それをケンジがとても幸せそうに食している。そんなシーンが観れただけでも、原作ファンにとっては最高だろう。

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だが、映画はほっこり要素だけではない。

何せ冒頭で、シロさんがケンジに「正月にお前を連れて実家に帰った。あの後で母さんが倒れてしまった。だから年末はお前を連れて実家に帰れない」と告げるのだ。その場ではケンジも理解を示すが、内心は悲しくて仕方がなかった。人によってゲイカップルを受け入れられない人もいることは理解していたが、それが正月におもてなしを受けた、最愛の人の両親だったわけだから。(シロさんの両親もその場では何の問題もなく受け入れたが、意識の外で拒否反応が出てしまったのかも……と申し訳なさそうに語っていた)

理解を示したケンジの内心を、シロさんはその場で全て推し図ることができなかった。やり取りを重ねる中で、シロさんはケンジに対して「本当にひどいことをしてしまった」と謝る。そして両親とも対話し、「今年の正月は実家に帰らない」ことを告げた。

ゲイカップルだから仕方ないか……と一瞬でも考えた自分を恥じた。

シロさんのように、自分のことに置き換えると、両親はとても失礼なことをしている。倫理にもとる行為だ。だが、だからといって身体の変調を我慢するわけにはいかない。ではどうすれば……というのが2時間かけて語られていく。

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前述のように、自分の状況と社会の風潮を安易に同調させる傾向は、世の中に蔓延っている。

弁護士のシロさんが引き受けた、殺人容疑のホームレス。「殺すつもりはなかった」ということで無罪を主張するも、懲役9年の実刑がくだされる。「控訴はしたくない。みんな自分のことを敵だと思っているから」とこぼす男に、シロさんは掛ける言葉がない。それをWエンジンのチャンカワイさん演じる同僚に嗜められるシーンは、僕もハッとした。これもまた同調の圧力に屈しているだけなのだ。

考えれば、「劇場版 きのう何食べた?」はマイノリティの主人公たちの物語だ。彼らが多かれ少なかれ抑圧されながら暮らす日々を、慎ましくも爽やかに生きるふたりの姿は清々しく感じられる。でも、それは漫画上の作為なだけで、彼らのような境遇で悩みを抱えている人たちは大勢いる。

だからこそ(という接続詞は適切でないかもしれないけれど)、とりわけ彼らには他者とつながることが非常に重要だ。

自分たちの存在を認めてくれること。理解してくれること。ふつうに接してくれること。

映画を鑑賞するのは、彼らとは異なる境遇の人たちかもしれない。僕もまたそのひとりだ。だが、彼らの日々を覗き見ることで、他者とつながることの大切さを再認識した。

人はひとりでは生きていけない。関わってくれる人たちを大事にしよう。

願わくば、美味しいものが添えられたら尚良い。

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主題歌はスピッツの「大好物」。

2週間前に目黒シネマで鑑賞した「劇場版 優しいスピッツ」のことも思い出した。「君が大好きな物なら 僕も多分明日には好き」の歌詞が沁みます。

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