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共感から全てが始まる(三輪開人『100%共感プレゼン』を読んで)

世の中には2種類の人間がいる。

プレゼンテーションが得意な人間と、そうでない人間だ。

って、どんなことにも言えるかもしれないけれど、この二つは宿命的に行き来しない分類だと僕は確信している。プレゼンが得意な人間は進んで場数をこなしてますます得意になっていくし、プレゼンが不得意な人間は苦手意識を感じてスキルが停滞する。

20代の頃は「ちょっとした差」だったのが、気が付いたときには埋め難くなっているから注意が必要だ。

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今回紹介する『100%共感プレゼン』を記した三輪開人さんは、特例認定NPO法人e-Educationの代表理事を務めている。

e-Educationは、「最高の教育を世界の果てまで」をミッションに掲げ、映像教材やオンライン教育を活用しながら、途上国の教育格差の課題解決に挑戦する組織だ。

著者の三輪さんは、内外で認められるプレゼンの名手。特に「ICC FUKUOKA 2017 カタパルト・グランプリ」は約100万回再生されるほど注目を集めている。

細部まで計算され尽くされているのがよく分かり、まさにプレゼンの「お手本」として参考になるだろう。ぜひ実際に再生ボタンを押してほしい。

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そんな三輪さんは、もともとプレゼンテーションが得意ではなかったと告白する。生徒会長に選任され、全校集会でスピーチをしなければならなかったとき、あまりの緊張で1分間何も喋れなかった「悪夢」を経験したそうだ。

それから幾度となく赤っ恥を繰り返しながらも場数を踏んできた三輪さん。今でも「本番と練習の場数、そして赤っ恥の経験がすべて」と言い切っている。

また国際協力という文脈で事業をしている三輪さんだが、この分野にありがちな課題として「関心のない人は、一切関心を持たない」ことが挙げられる。

もちろん人間は「正しいこと」「良いこと」に対して評価はするが、「これは自分がやらなくても大丈夫」「自分とは関係のないことだ」と見なす傾向がある。

e-Educationは途上国の教育支援に取り組むにあたり、広く寄付や協力者を集めなければならない。(同じようなことをしている団体は他にもあり、非営利組織であっても「競争」の環境に晒されているのだ)

その中で、共感してもらい、実際に何らかの行動をしてもらうことは組織にとっての最重要課題である。本書は多くの組織で「知ってもらえない」「共感してもらえない」という悩みに応える本でもある。

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本書では、「プレゼンはシナリオ、スライド、トーク、トレーニング」の4つの要素から成り立つと書かれている。

僕が最も重要だと感じたのはシナリオの項だ。

スライドが下手でトークが途切れ途切れでも、物語の骨格となるシナリオさえしっかりしていれば、そのプレゼンは聞き手の記憶に残り、共感を生みだす可能性は十分にあります。
(三輪開人『100%共感プレゼン』P58より引用)
(シナリオで真っ先に取り掛かるのは)実は「企画書」です。映画の目標収益はいくらなのか、ターゲットは誰なのか、その映画にどんな思いを込めるのか。こういった前提抜きに脚本を書き始めてもいい映画は作れません。
プレゼンにおけるシナリオ作りでも「目標」と「聞き手」、そしてプレゼンで何を達成したいのかという話し手の「意思」という3つを考えずにシナリオを作っても、共感は生まれません。
(三輪開人『100%共感プレゼン』P58より引用)
プレゼンでも目標設定、つまりゴールを決めていない人をよく見かけます。美しいスライドも流暢なトークもあくまで手段でしかありません。ゴールは聞き手に共感してもらい、行動してもらうこと。この目標がないなら、プレゼンをする意味はありません。
「商品の良さを知ってほしい」「私たちの団体を好きになってほしい」といった抽象的な目標もダメです。そうではなく「商品を買ってもらう」「1000円の寄付をしてもらう」といったように、できるだけ具体的な目標を設定しましょう。
(三輪開人『100%共感プレゼン』P59〜60より引用)

何事も言語化というのは大切で、プレゼンに限らず、目標設定を疎かにしてしまうことが少なくない。

僕の場合も採用面接を行なう機会が多いが、常に目標設定しているかと言われればしていない。(もちろん「採用」というゴールを見据えた上で面接に臨んでいるわけだが)

・候補者のポテンシャルを見極めたい
・候補者の本音を引き出したい
・なるべく本音で喋ってもらえるような環境を作りたい
・会社で働くイメージを持ってもらいたい
・(良い側面、悪い側面どちらの)会社のリアルを感じてほしい
・(たとえ不採用という結果だったとしても)候補者にとって「良い面接だった」と思ってもらえるような場作りを心掛けたい

など、書き出してみると、いくつも目標が出てくる。

(三輪さんに言わせれば「まだまだ抽象的」な目標だろう。もっと具体的で、採用担当者内で共有・共感できるものになっていないといけない)

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僕はよく「プレゼン=プレゼント」とたとえます。好きな異性や大切な家族にプレゼントを渡すシーンを想像してみてください。受け取った相手が喜び、気に入ってくれたらうれしいですよね。
プレゼンも同じです。相手が喜んで、自分が渡したものを気に入ってくれる。そんなプレゼンをするには、何に気をつけるのか。僕はシナリオを考える時、届ける相手の顔を思い浮かべるようにします。
(三輪開人『100%共感プレゼン』P60より引用)

共感という言葉がキーワードになっているが、三輪さんのように意図的に関係性を作っていくのは難しいように感じる。

だが「プレゼン=プレゼント」という感覚は、誰にでも取り入れることができるものではないだろうか。

プレゼントを渡して、相手から予期せぬ反応を返されることもある。それは三輪さんの言う「赤っ恥」のようなものだ。だけど日々、プレゼントを贈るように大切に相手に接していけば、少しずつ喜んでもらえる割合も大きくなっていくはずだ。

テクニックだけでなく、マインドが大事。

『共感プレゼン』には、そのどちらの要素も丁寧に描かれている。「プレゼンがあまり得意ではない」という方に、ぜひ手に取ってほしい一冊だ。

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*おまけ*

三輪開人『100%共感プレゼン〜興味ゼロの聞き手の心を動かし味方にする話し方の極意〜』の感想を、読書ラジオ「本屋になれなかった僕が」で配信しています。

お時間あれば聴いてみてください。

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