あらゆることを否定するか、面白おかしく肯定するか(映画「ブルーアワーにぶっ飛ばす」を観て)

年始の「Red」に続き、夏帆さん主演の「ブルーアワーにぶっ飛ばす」を観た。すっかり、夏帆さんの虜になっている。

本作は監督を務めた箱田優子さんにとっての映画監督デビュー作品。2016年にTSUTAYA CREATORS’ PROGRAMにて審査員特別賞を受賞した作品を改題し、完成さいたのが本作だ。

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最高の相棒との、30代青春群像劇

相棒は映画「新聞記者」の吉岡エリコ役で、第43回日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を獲得したシム・ウンギョンさん。本作でも、彼女が演じる清浦がちょっとした「違和感」になっていて、主人公・砂田とのズレた掛け合を魅力的なものにしている。

砂田があらゆることに否定しがちなキャラクターである一方、清浦は面白おかしく肯定する。人生に程よい「折り合い」をつけていく上で、砂田と清浦の化学反応は観ていて気持ち良かった。

テーマは「自分探し」……だけど

テーマは「自分探し」。

10代や20代だけでなく「30代だって人生に迷うことあるよね」というのは共感できる入りになっている。

だけど、コロナ禍の今(いや、その少し前から)地域移住って良いかもね、という感覚が広がっている昨今。2010年くらいまで定説だった「田舎なんて大嫌い」という価値観が、今なお時代を超える普遍として成立するかは疑問だ。※茨城県出身の箱田監督の固有の原体験なのかもしれないが

本筋ではないものの、この辺りの配慮にもうちょっと「ひねり」がほしかった。(2022年4月にNetflixで「ヒヤマケンタロウの妊娠」という社会派な作品が公開されるそうで、その辺りを突く映像作品を作るのであれば時代の変化には敏感であってほしい)

南果歩さんの、枯れた演技

前項でややネガティブなことを書いてしまったけれど、細部の描写に関して、演出が抜群に上手いなと感じた(役者の演技も大きいと思うけど)。

特に砂田の母を演じる、南果歩さんの枯れ果て、萎れてしまった女性の一挙手一投足には背筋が凍った。表情もそうだけど、後ろ姿だけで娘が絶望するほどの「枯れた」演技をするのは圧巻だった。

「ヤバい」で肯定する

ヤバい、という言葉には賛否両論ある。

僕はあまり使わないようにしているが、清浦は終始「ヤバい」を言い続けている。時に緻密な演出がある中で、それらを破壊するほどのざっくりさにヒヤヒヤしたけれど、「ヤバい」で肯定できる力強さというのは、現代社会を生きる人たちにとって希望なのかもしれない。

これくらい、力強くありたい。

なかなか余裕を持てない世界で、清浦の「ヤバい」は、あらゆる価値観を包括してくれる気がするのだ。砂田の涙も、そうやって救われたのだから。

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(Amazon Prime Videoで観ることができます)

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