ほりありのぶ

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朝日新聞が「言葉を消費されて 「正義」に依存し個を捨てるリベラル」というインタビュー記事を注釈なく掲載することについての違和感

今年の8月2日、朝日新聞が作家の星野智幸氏のインタビュー記事を掲載し、SNSなどでは反響が大きかった。 言葉を消費されて 「正義」に依存し個を捨てるリベラル 星野智幸:朝日新聞デジタル (asahi.com) 私は最初それを、非常に共感しつつ読んだ。しかし次第に違和感の方が大きくなっていった。今ではむしろ、大きくなったその違和感の方について書き記しておくことが、現代の日本の思想や社会現象を理解するために有用であろうと考え、この小文を準備した。 この記事は最初の2200字程度

    • 『民主主義の内なる敵』読書ノート2

      前回は第1-3章をまとめた。 民主主義という理念それ自体に本質的に属する危険は、その構成要素の一つを切り離して考え、もっぱらそれのみを優遇することからやって来る。(略)人民、自由、進歩は、民主主義の構成要素である。しかしそれらのうちの一つが、それ以外のものとの関係から解放されるならば、このようにしていっさいの限定の試みから逃れ、唯一の原理に格上げされるならば、それれは危険へと変化する。ポピュリズム、ウルトラ自由主義、メシア信仰、つまり民主主義の内なる敵である。」 第3章が

      • 『民主主義の内なる敵』読書ノート1

        「進歩、理念、自由、人民」というリベラルな理念が内なる敵を生み出す。新たな多元主義と民主主義再生へ向けた、渾身の政治文化論。  上記のような帯の言葉に惹かれ、この本を丁寧に読んでみたいと思った。2012年に出版された本で、早くも2016年に翻訳されている。著者のツヴェタン・トドロフは1939年にブルガリアに生まれ、34歳でフランス国籍を取得。ロラン・バルトの指導を受けた研究所の教授であるとのこと。 第1章 民主主義の不具合  この本の書き出しは、「自由の問題はきわめて早

        • 2024年の東京都知事選の結果を受けての考察

          東京都知事選が終了し、現職だった小池百合子氏が勝利し、三選を果たした。2位には前広島県安芸高田市長である石丸伸二氏が入り、立憲民主党の参議院議員だった蓮舫氏は第3位だった。現職の実績が評価された形であったが、明治神宮外苑などの批判については、議論を避ける形で行われた選挙活動だった。その意味で、選挙が持つ「権力者の監視」という機能を今回の選挙が果たしたか否かという点については、不十分だったと評価するべきだろう。 なぜ、選挙の持つ権力の監視作用が機能不全に陥っているのか。これに

        朝日新聞が「言葉を消費されて 「正義」に依存し個を捨てるリベラル」というインタビュー記事を注釈なく掲載することについての違和感

          映画「オッペンハイマー」を見て考えたこと

           「オッペンハイマー」を見てきた。良作だった。  この作品は2023年にアメリカで公開され、第二次世界大戦を扱った伝記映画として歴代最高の興行収入を記録するなど、世界中で話題となっている。しかし、この映画の注目すべき点はその興行成績だけではない。この映画がどのように原子爆弾の開発と使用に伴う罪悪感を扱っているのか、その点について本ブログでは考察する。映画の詳細に触れるところがあり、ネタバレが含まれるので注意していただきたい。  この作品は、原爆投下が必要だったという見解への

          映画「オッペンハイマー」を見て考えたこと

          水原通訳の問題と岸田首相のアメリカでの演説から考えたこと

           大谷翔平選手が賭博に関与していた疑いについて、本人の関与が最小限であったことが明確にされ、出場停止などの大きな責任を問われることがなくなったことを嬉しく思う。大谷選手自身の責任が問われるとすれば、それは、あまりにも金銭に無頓着であり、通訳だった水原氏を信用し過ぎたということになるだろう。このように大変な精神的試練の中でも冷静に試合への出場を続け、相応の結果を示し続けていることには驚嘆するばかりで、これからもさらに活躍してほしいと切に願う。  私の心理学的な関心に引きつけて考

          水原通訳の問題と岸田首相のアメリカでの演説から考えたこと

          自民党の政治資金疑惑と、大谷翔平と水原通訳のニュースを比べて考えたこと

          野球のスーパースターの大谷翔平が、通訳の違法賭博をめぐる疑惑を告発され、大問題となっている。この数年、大谷選手の大活躍に勇気づけられてきた私たちは、何とか大谷選手のかかわりが最小限だったことが証明され、強い処罰を受けることがないように祈るばかりである。一方で、アメリカのジャーナリズムや国民が示した姿勢と、日本のそれとの違いを意識してしまう。日本では、大谷選手について飼い犬や奥さんのことばかりをマスコミが追いかけていた。少し前にはジャニーズ事務所で行われていた性的虐待が問題視さ

          自民党の政治資金疑惑と、大谷翔平と水原通訳のニュースを比べて考えたこと

          なぜ今の時代に『ブルーロック』が生まれたのか

          流行する漫画や小説、音楽などの作品は、その時代の深層心理を理解し、そのニーズを満たしている。  『ブルーロック』は、2018年から「週刊少年マガジン」に連載されているマンガである。単行本の売り上げは2023年11月時点で3000万部を超え、アニメや映画、舞台にも展開されている(Wikipediaによる)。高校生のプレーヤーたちを中心としたサッカーマンガであるが、スポーツものにありがちなチームワークの大切さが主題になることは少ない。ブルーロックは一つのプロジェクトで、日本がワ

          なぜ今の時代に『ブルーロック』が生まれたのか

          なぜ私たちは「原作者」を軽んじてしまうのか

          マンガ『セクシー田中さん」がテレビドラマ化され、原作者がその内容に納得できないものを感じて抗議した。その後、脚本家・テレビ局・出版社が関わるやり取りが発生し、原作者が命を絶つという最悪の事態を迎えることになってしまった。 豊かな才能をその作品に注ぎ込むことで私たちを楽しませてくれたのにもかかわらず、それにふさわしい報いを得ることのできなかった原作者の思いをしのび、心からの感謝の気持ちを表明するのと同じに、その魂が慰められて安らかであることを祈りたい。 この記事では出来事の詳

          なぜ私たちは「原作者」を軽んじてしまうのか

          日本人の「礼儀正しさ」と「イジワルさ」についての、ナルシシズムの観点からの解釈

          2023年中に講談社現代ビジネスで好評だった記事として「日本人は世界一礼儀正しい」が「世界一イジワル」だった…「自分の利益より他人の不幸を優先する度合い」を測る実験で「日本人ダントツ」の衝撃結果」が紹介されていた。 https://gendai.media/articles/-/119449?imp=0 大阪大学社会経済研究所で行われた実験で、次のことが示された。投資に関するあるゲームを行った場合に、一対一で競合する場合に、日本人の被験者は、アメリカ人の被験者と比べて、自分

          日本人の「礼儀正しさ」と「イジワルさ」についての、ナルシシズムの観点からの解釈

          イスラエルとパレスチナの問題の考えにくさについての心理学的考察

           イスラエルとパレスチナの間で凄惨な抗争が発生している。世界中に大きな影響を与える大きな出来事であるが、この問題は日本人にとって考えにくい。考えにくいことの第一の要因は、私たちの経験不足・知識不足によるものだろう。これについては、地道に勉強を続けて少しずつ分かるように心がけるしかない。  一方で、パレスチナ問題についての考えにくさは、知識の不足だけに尽きず、日本人にとって二つの水準で深層心理的な抵抗が働くことにも由来している。一つは文化・宗教的なもので、中東情勢の抗争の中心に

          イスラエルとパレスチナの問題の考えにくさについての心理学的考察

          ジャニーズの問題から考えたこと

          〇ジャニーズ問題から考える日本社会の問題点  ジャニーズ事務所で恒常的に行われてきた性加害がようやく大きな問題となり、さまざまな意見が提出されている。その中には「事務所の行ったことと、個々のタレントの行ったことは異なる」という形で、ジャニーズ事務所の関係者を擁護する意見もあるようだ。  しかし私は、ジャニーズ事務所の解散も視野に含めたような、厳しい対応が妥当だと考えている。もちろん、それぞれの俳優については個人ごとの評価とそれにふさわしい対応がなされる必要があるが、全体として

          ジャニーズの問題から考えたこと

          反復される「押し付けやすい所に押し付けて問題を解決した気になり、永続性のある構造改革を指向できない」傾向について

          〇精神分析的な解釈について 書き言葉と話し言葉 現在、精神分析的な思考法は、そこに妥当性が認められる場合でも、その内容に厳密さが乏しいとして評価されないことが多い。一見無関係な出来事の中に、隠された構造が反復されているのを見出そうとするのが精神分析的な解釈であるが、それが強引なこじつけであるという印象を与える場合もある。「背後にある構造」について定量的に評価することは容易でないことがほとんどで、それについての説明を聞いても、その真偽を統計的に判定できないことが多い。 しかし

          反復される「押し付けやすい所に押し付けて問題を解決した気になり、永続性のある構造改革を指向できない」傾向について

          福島第一原発からの処理水の排出について

          私は自分がリベラル寄りの人間だと思っている。東日本大震災・原発事故の後、2012年4月から福島県南相馬市に移住して働くことを選択した。今でも時々、日本の政府や文化について、それが画一的なありようを国民に強制しているように感じられる面については、批判的な文章を書いて発表することを続けている。 しかし困ったことに、「リベラル」的な言動を行うとされている人たちと、考え方が異なる、と気づくことが増えてきた。現在、東京電力福島第一原子力発電所から処理水を排出することが話題になっている。

          福島第一原発からの処理水の排出について

          日本論は意味がないという主張に対する再反論

           「日本人は本当は集団主義ではない。だから日本人は集団主義だと決めつけてそれを批判する日本論には意味がない」という主張を見かけることがある。  私は、「日本論」として展開されてきた議論には重要な価値があると考え、それらに依拠して主張を展開している人間である。したがって、今回の小文は、そのような批判に対して再反論を行うことを目的としている。  そもそも既存の日本論が「日本人は集団主義だからよくない」と議論してきたと考えるのは、不正確な読解である。例えば、講談社現代新書のなかに

          日本論は意味がないという主張に対する再反論

          G7広島サミットが開催されたことを受けて

          G7広島サミットが開催された。さまざまな意見があるだろうが、世界と日本に取って得たところの大きい、成功と呼べる会議だったと思う。G7の首脳が揃って原爆死没者慰霊碑に献花を捧げるシーンには、胸が熱くなるものを感じた。 ウクライナのゼレンスキー大統領をはじめ、インド、インドネシア、ベトナム、韓国、ブラジル、オーストラリア、クック諸島、コモロの招待国の首脳を迎えた上で、核兵器廃絶の理念を掲げてのロシアによるウクライナ侵攻についての強い非難を行ったこと、それを議長国の日本が取りまとめ

          G7広島サミットが開催されたことを受けて