人生の苦みはきっと、ビールほど苦くない…! 石井ツヨシさんのビール『それが人生』乾杯レポート
**この記事は、2019年7月に実施したイベントレポートの、note転載記事となります**
2018年10月に始まった『HOPPIN’ GARAGE』。
「こんなビール、あったらいいな」という熱い想いを持った人が、つくりたいビールをサイト上で応募して、HOPPIN’ GARAGE事務局の審査の上で選ばれた人がサッポロビールのブリュワー(醸造責任者)と一緒にオリジナルビールを製造するという、ビール好きにはたまらないプロジェクトです。
HOPPIN’ GARAGE 第10弾のビールを手がけたのは、コピーライターの石井ツヨシさん。フツウニフルウツ・なんとかプレッソ・しロといロいロ等のネーミングや、「女は大学に行くな、(という時代があった)」など、“おやっ?!”と目をひき、一度見たら“うーん”と考えさせられる言葉を生み出しています。
物事の本質を考え続けてきたコピーライターがHOPPIN’ GARAGEでつくったのは、『それが人生』という名前の、人生の本質をついたビール! 苦味のなかにほんの少しの甘さを感じるオリジナルビールと、人生の歩みを表現した料理たちが彩ったPop-Upは、ビールが持つ様々な魅力を体感する時間になりました。人生の苦さも甘さも、まるっと飲み込んだ真夏の夜をレポートします。
『男は黙ってサッポロビール・令和バージョン』をつくりたい
「気がつけば、世の中に“かわいい”とか“おもしろい”ばかりが溢れている気がして、あれ?大人の“カッコいい”はどこへいったんだろう、と。ビールだけではなくて、飲みやすいもの、分かりやすいものばかりが溢れているような。でも、そうではないものを求めている自分がいて、きっと僕みたいなことを感じている人もいるんじゃないかと思ったんです。そんなときに出会ったのが、小ロットで自由な発想でビールをつくれるHOPPIN’ GARAGEでした」(石井さん)
そうしたイメージをプロジェクト内で共有するときに思い浮かんだのが、1970年にスタートしたサッポロビールの名作CM『男は黙ってサッポロビール』だったそう。多くの黒澤明映画に出演した“世界のミフネ”三船敏郎さんが渋くセリフをはくCMは、世代を超えて多くの人に知られています。
「このイメージをどう伝えようかと悩んでいるときに浮かんできたのが、三船敏郎さんの顔でした。“男は黙ってサッポロビール・令和バーション”って言えば、わかりやすいかなあって。それと同時に、“渋い・濃い・暑苦しい”というテーマも決まりました。かといってノスタルジーとかクラシックとかにはしたくなくて、この時代にやるからこその意味、あえて今までのビールっぽくないラベルというか、新しさを感じるデザインにしたいという話を、デザイナーの黒田さんとさせていただきました。味だけじゃなくて、デザインや世界観もあってのビールだと思うので。カッコいいだけじゃない、かなり攻めたラベルにしていただいて、ものすごく気に入っています」(石井さん)
商業ラインにはのらないかもしれないけれど、一人のビールへのアツい思いがカタチになってみんなで楽しめるのが、HOPPIN’ GARAGEの真骨頂! 石井さんの苦いビールへの偏愛は、サッポロビールブリュワーの蛸井潔さんに引き継がれました。
企画者のアツい思いと、ビールづくりの現場のアツさがコラボしたら……?
「普段の仕事では、ものごとを突き詰めて考えていくことが多いのですが、HOPPIN’ GARAGEでは逆に、深いことを考えずに感覚を大切にしました。自分の感じたこと、考えたこと、気づいたこと。頭や心のなかで好き勝手に遊んでいるイメージをなんとか言葉にして、蛸井さんに精一杯お伝えして、これをどう料理してくれるのだろう……?と。 未知への期待感を楽しみました」(石井さん)
サッポロビールブリュワーの蛸井さんは、30年間ビールづくりに関わってきた“ビール人生”を歩んでいる人。数々のビールを手がけてきた蛸井さんが、石井さんのアツい思いを受けて作ったビールとは……?
「今回のビール『それが人生』は、とにかくよく煮込みました。ビールには、発酵させる前の麦汁をホップを入れて煮る工程、もろみを仕込釜で煮る工程など、煮込む作業が多いんです。この煮込む時間と回数を増やして、いつものビールよりもコトコトと長く煮込みました。ビールづくりの現場はとても暑いのですが、この現場の暑さに、私たちブリュワーのアツさと、石井さんの思いのアツさも混ぜ合わせて、アツい・アツいビールが出来上がりました」(ブリュワー・蛸井さん)
ブリュワー蛸井さんのビデオメッセージを見た後は、さっそくみんなで乾杯。真夏の長い太陽の陽が落ち着いて、テラスから吹く気持ちいい風にあたりながら、今回のビール『それが人生』をじっくり味わいます。
ビールを口にした直後にはっきりとした苦みを感じますが、とても爽やかな苦みで、もう一口・もう一口と飲みたくなる。ゆっくり味わっていくと、苦味の中にほんのりと甘みを感じられてクセになる。途中でワインやハイボールに変えず、ずっとビールを飲みたい気分の日にぴったりのビールかも! 複雑な味わいを感じられる『それが人生』は、飲み飽きずにずっと飲んでいたくなる、美味しいビールでした。
石井さんも、完成品を飲むのはこの日が初めて。
「本当に美味しい! 気もちのいい苦味あって、嫌な酸味はなく、しっかりとした厚みがある。自分のおぼろげなイメージを、蛸井さんというすてきなブリュワーさんの手で、すばらしいビールとして形にしていただきました。デザインも、イベントも。HOPPIN’ GARAGEは、つくっていく過程も本当に楽しかったです」(石井さん)
0歳から60歳までを、料理で表現したらどうなるか?
この日の料理は、自然栽培のお米やオーガニック野菜を使ったケータリングを行なっている、がじゅまーるさんが担当。今回のビール『それが人生』のPop-Upらしく、事前に石井さんから提案されたのは、0歳から60歳までの人生を6品の料理で表現するというもの。石井さんが、それぞれの年代をイメージして書いたコピーをもとに、かじゅまーるさんにお料理を発想していただきました。
「人生という壮大なテーマで、最初は驚きました(笑)。年代ごとに共通で思い浮かべるイメージを考えて、皆さんに共感してもらえるような料理に落とし込んでいきました。料理をしているときは、正解がないので不安だったのですが、そもそも人生がテーマなら正解はないよね……って開き直りました(笑)」(がじゅまーる・YUIさん)
そんな料理のメニューがこちら。
・『お子ラン期(0〜10歳)』タコさんウインナーとミートボール&目玉焼きピンチョス
お子さまランチの旗が懐かしい! 見た目から元気になれる、一口朝ごはんのような料理。
・『ガツ揚げ期(10〜20歳)』ハム&チーズのチキンカツ
ボリューム満点の揚げもの。ハムとチーズを使って、ビールに合うように工夫されています。
・『イケメシ期(20〜30歳)』平飼い有精卵のデビルエッグ
カラフルで“インスタ映え”する料理は、ビールのつまみにぴったり。
・『食べビト期(30〜40歳)』バジルトマト&長なす 豚肉のインボルティーニ
いろんな国の料理を試したい年代に、イタリア料理のインボルティーニ。インボルティーニとは、イタリア語で、肉で巻くという意味。
・『肉より魚期(40〜50歳)』炙りヒラメの煎り酒浸し
魚の美味しさに改めて気がつく年代に、ヒラメを炙った一品。こちらもビールによく合います。
・『取り寄せ期(50〜60歳)』鹿児島県産うなぎの蒲焼といぶりがっこクリームチーズロール
全国の特産品を少しずつ食べたくなる年代に、貴重な鹿児島県産うなぎと、いぶりがっこのマリアージュ。
『それが人生』ビールよりも苦い人生なんて、たぶん無い。
「乾杯するときは、たいてい嬉しかったり楽しかったりするけれど、人生には悲しいときも苦しいときもありますよね。そういうときに使える乾杯のセリフがあったらいいなと思って、『それが人生』と名付けました。“それが人生!”って音頭してビールを飲むって良いと思いませんか? 人はどうしてビールっていう苦い飲み物を好んで飲むのか考えたときに、人生よりも苦いものを飲んで、“人生は、ビールよりは苦くない”って思えたらすてきだと思ったんです」(石井さん)
ビールを飲むと心が開放的になるぶん、深く自分の内面を見て、「まだまだダメだなあ」「あの時こうすれば良かったかも」……なんて、気持ちがマイナスの方向に動くことはあるもの。そこで心を奮い立たせて明るい方向を見るのも良いですが、周りにいる仲間たちに自分の素直な気持ちを語るのも、ビールを飲む時間が許してくれる豊かさかもしれません。
人生の苦味と甘みを感じた『それが人生』のPop-Upは、その場に居合わせた人たちの心を、ふぅと軽くしてくれる時間になりました。
ここまで10回続いたオリジナルビールPop-Up。次回はなんと、金沢開催!
麦茶のようにぐびぐび飲める、おかわり必至のビターエール。開催が金沢ということで、金沢の食材をふんだんに用いた、地域の味わいとのマリアージュもご準備されているとのこと。いったいどんなビールなのでしょう。お楽しみに!
*2019年9月に実施済み