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クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書【第4回】

『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』


社会不適応者達の労働と生活


パンクは労働者階級から生まれた音楽であり、生活の中から生まれた音楽だ。社会の中で働いて、飯食って、ヨッコラショと暮らしていく中で生まれる感情や思考が、音や叫びになってパンクという表現になる。

パンクスたるもの労働すべし。

とは言うもののパンクスにとって社会に出て働くというのはどうしても困難が伴う。なぜなら、パンクを志向する者はみな、多かれ少なかれ社会不適応の気質があるからだ。

どのような仕事を通じて自分を社会に適応させ、自分らしく暮らしていくのか、悩み苦労している人も多いと思う。

そんな迷えるパンクスには、ぜひ『エリック・ホッファー自伝』(作品社刊)を贈りたい。

エリック・ホッファー(1902-1983)は、アメリカの社会哲学者であるが、その生い立ちは筋金入りのはみ出し者だ。

5歳の時に母親と階段から落ち、それがもとで母親は体を壊して2年後に死亡し、自分は失明する。15歳でなぜか視力が回復するが、18歳で父親も死亡し、天涯孤独の身となる。失明していたが故に、正規の学校教育も受けていない。財産も僅かしかない。職を転々としながら日銭を稼いで暮らしつつも、未来に絶望して28歳で自殺未遂。
その後、放浪しながら職を転々とし、40歳になってから港湾労働者としての定職に就き、65歳まで働き通す。

この経歴だけを見るとただの不運な労働者であるが、エリック・ホッファーは労働者でありながら社会哲学者としての地位を確立し、亡くなるまで何冊もの著書を発表した。

労働者として暮らしながら、仕事後の時間を読書と思索に費やし、正規教育を受けていないのにも関わらず、大学で講義をするまでに社会哲学を極めた彼は、労働とやりたい事を両立させた。

その極意として、エリック・ホッファーは仕事に対する考え方についてこう言う。

「われわれは、仕事が意義のあるものであるという考えを捨てなければなりません。
この世の中に、万人に対して、充実感のある職業は存在していないのです。
私は一日六時間、週五日以上働くべきでなきと考えています。
本当の生活が始まるのは、その後なのです」


やりがいだとか、自己実現を仕事に求めない。

働いた後に、自分が本当にやりたい事をやる。

ワークライフバランスなんて単語がもてはやされる何十年も前からエリック・ホッファーはそう考え、実践した。

そして、労働は彼にとって生活を営むための手段であると同時に、そこで出会った人々や経験を通じて、自身の思索を深くするための糧にもなった。

彼が三十代のころに季節労働者キャンプに滞在した際、一緒に働く仲間は無傷で五体満足な人の方が少なく、飲んだくれ、女たらし、ギャンブラーなど、エリック・ホッファーの言葉を借りれば、社会的不適応者、人間のゴミの集まり、だったという。

そんな仲間達のしっかりとした働きぶり、彼等の愛すべき人間性を観察する中で、彼は社会不適応の弱者にこそ特異な役割があることに気がつく。

「弱者に固有の自己嫌悪は、通常の生存競争よりもはるかに強いエネルギーを放出する。
明らかに、弱者の中に生じる激しさは、彼らに、いわば特別の適応を見出させる。
弱者が演じる特異な役割こそが、人類に独自性を与えているのだ」


人類の歴史の中で、新しい世界を開拓し新たな価値を創造してきたのは、既存の価値観や社会に適応できなかったはみ出し者達じゃないか。

そのことに気がついたエリック・ホッファーは「人生が輝かしいものに思えた」という。

自身もはみ出し者として真面目に働き、労働と読書と思索によって独自の社会哲学を築き上げたエリック・ホッファーの生き方には、パンクスが学ぶところも多い。


今日の1冊
『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』
著:エリック・ホッファー
訳:中本義彦
出版社:作品社
発行年月:2002年6月


※本コラムは2018年10月発売予定の『クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』(地下BOOKS刊)の掲載内容からの抜粋です。

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