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ニューカレドニアの大規模デモに潜むアゼルバイジャンの関与—6号.2024/05/19

 5月に入りフランスの海外領土であるニューカレドニアで大規模な暴動が発生している。発端は一定の制限を設けつつもフランス系住民の投票権拡大を認める憲法改正をフランス本国の議会が可決したことにある。

 これに対し、自分の達の意見が反映されないと人口の約4割を占める原住民族のコナックがデモという形で不満を露わにした。

 当初こそ平和的なデモであったが、一部の過激な分離独立派によって暴徒化し、「天国に一番近い島」と呼ばれたリゾート地は、今や街中に黒煙が立ち込め、焦げ付いた車、廃墟と化したスーパーマーケットが立ち並ぶ光景となってしまった。

 コナックの暴動を支えているのは誰であろうか。 

 南コーカサスに位置するアゼルバイジャンがこの暴動を支えてるとされている。フランスの内務大臣はテレビ番組で、「分離主義者の一部がアゼルバイジャンと取引をしたことを残念に思っている」と語っている。一方のアゼルバイジャン側はこの説を否定している。

しかしながら、X(旧Twitter)にはニューカレドニアの国旗と並んでアゼルバイジャンの国旗を掲げながらデモを行なっている様子が投稿されている。具体的にはアゼルバイジャンが分離独立主義者に資金供与を行なっているとされている。

アゼルバイジャン国旗と掲げならがデモを行う先住民

 アゼルバイジャンはニューカレドニアだけでなく、旧フランス植民地や海外領土に対しての関与を近年急速に高めてきた。2023年の7月にはフランスの海外領土である、マルティニーク、フランス領ギアナ、ニューカレドニア、フランス領ポリネシアから独立派の参加者を招き、「植民地主義の完全撤廃に向けて」と題して会議を開いている。

 この会合は後に、フランスからの脱コロニアニズムを目的とした「Baku Initiative Group」という枠組みに繋がっている。このグループは、今回のニューカレドニアでの事件について、先住民コナックの自己決定権を侵害していると、フランスを批判する声明を発表している。

 アゼルバイジャンとフランスの関係は犬猿の中と言えるだろう。2020年9月や2023年9月に発生したナゴルノ=カラバフを巡る武力衝突での両国の舌戦に代表されるように、お互い常に批判し合っている。

 また、フランスはアゼルバイジャンの同盟国であるトルコとも非常に関係が悪い。トルコのリビヤ介入や地中海での積極的な行動など、エルドアン政権の外交を批判している。地中海でトルコ軍がフランス軍に標的レーザーを照射したとする事件も起きている。また、フランスはトルコのEU加盟に極めて消極的でもある。

 トルコーアゼルバイジャン同盟はどうしてこうもフランスと馬が合わないのだろう。その原因の一つにはアルメニア人の存在がある。フランスには約70万人といわれるアルメニア人ディアスポラの存在がある。ディアスポラたちはフランス政治にロビー活動を行い、トルコによるアルメニアジェノサイドを認め、アゼルバイジャンによるナゴルノ=カラバフへの攻撃を批判する。

 いずれにせよ、アゼルバイジャンが実際にニューカレドニアのコナックに対し支援をしているのか筆者にはわからない。しかし、反植民地主義のレトリックを持ち出して「宿敵」フランスを批判していることは確かだろう。今後も反フランスの枠組みは発展していくものと考えている。

 フランスは今回の暴動を受け、ニューカレドニアでのTikTokの使用を制限した。デモ活動が拡散しないためであろうか。しなしながら、このような規制は先住民の意思を自決権を無視しているとするアゼルバイジャン側の批判の裏付けになるにほかならないのだろうか。

 もう一つ興味深いのは、アゼルバイジャンの外交政策が変化していることだろうか。旧ソ連からの独立以降、アゼルバイジャンの外交はナゴルノ=カラバフで揉めるアルメニアや関係のよろしくないイランへの対応、旧宗主国のロシアや同盟国トルコとの間での板挟み外交など、近隣諸国との関係が重視されてきた。しかし、5100kmも離れた太平洋の島国、あるいはアフリカ諸国に対して外交を展開しているのは、これまでには無いことだろう。

Reference


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