見出し画像

【第1回】アフガンのカブール空港近郊で自爆テロが発生!政治学者・高橋和夫氏の解説を文字起こし

 8月27日までに、世界のメディアが同時に、アフガニスタンの首都・カブールの国際空港近郊で、爆発があり、多数の死者と負傷者がでていると報じた。

 この爆発は自爆テロであり、アフガニスタンで活動するIS系の組織「ホラサン州」の犯行であることがわかってきた。

 アメリカのバイデン大統領は、このアフガンでの自爆テロをうけて、26日に国民に向けて演説を行っている。

 8月27日、筆者が、日々聞いているTBSラジオの「荻上チキSession」に出演した政治学者の高橋和夫氏は、この空港近郊での自爆テロから、今後のタリバン政権の見通しについて解説した。

 高橋和夫氏の解説は、きわめて明瞭でわかりやすかった。そのため、パーソナリティの荻上氏と、高橋氏のやり取りを文字起こしした。

荻上チキ氏「各国がアフガニスタンからの退避を進める最中での事件、ということですけども、この一報について、高橋さんどうお考えですか?」

高橋和夫氏「心配されてたんで、やっぱりきたか、という感じですね」

荻上チキ氏「今回の、ISの地域組織を名乗るホラサン州とは、一体どういったものなのでしょうか?」

高橋和夫氏「イラク・シリアでISがカッコつきの活躍をしてた頃に、アフガニスタンのタリバンの一部の人達が、自分達もあれくらい過激にやりたい、ということで、タリバンから離れて、『ISに忠誠を誓います』という運動を始めたんですね。

 タリバンとは、ずっと対立を続けてきたんですけど、攻撃を受けても受けても、何回もいろんなテロをやってきたんですね。ですから、今回、空港周辺に外国人が集まりますから、テロの絶好の標的となるだろうと、危ないな、と思ってたら、きましたね」

荻上チキ氏「もともと、シリアなどでIS掃討作戦など行われてきましたけども、アフガニスタンのホラサン州というのは、そのターゲットではなかったんでしょうか」

高橋和夫氏「アフガニスタンのISというのは、アフガニスタンの人たちが立ち上げて、それに対する旗としてISを掲げたんですね。アメリカ軍は、掃討作戦をやってました。それからタリバンとも戦ってたんですね。かなり多くのメンバーがアフガニスタン政府軍に拘束されてたんですけど、アメリカとタリバンの交渉の中で、タリバン側が政治犯の釈放、自分達の仲間の釈放を要求して、アフガニスタン政府軍が捕まえてた刑務所を開けたんですけど、その時についでに捕まってたISの連中もでてきたと。それから、アフガニスタン政府の崩壊の過程で、急激にいくつもの都市が陥落しました。その時に、やはり刑務所からISのメンバーが逃げ出したということで、人的に復活してたんだろうなと思いますね」

荻上チキ氏「その上で、このタイミングでの攻撃ということですけども、これは、対外的なものも含めた『混乱』というものを狙ってのものなのでしょうか」

高橋和夫氏「そうですね。ISの主張はアメリカは敵ですから、(ISは)イラク・シリアでさんざん爆撃されましたから、アメリカに打撃を与えるというのは、報復という意味で大きいです。それから、(ISは)アフガニスタンでタリバンに反対してますから、タリバンの治安能力はこんなもんだと、タリバンは、政権をとったと言っているけれど、治安を維持できない。我々は、いつでも攻撃できるんだというのを、内外に示したということだと思いますね」

荻上チキ氏「タリバンは、海外の様々な国と交渉できる政府なんだと、アピールしたいタイミングであるからこそ、そのガバナンス能力がないぞ、ということを、これでアピールしたわけですか?」

高橋和夫氏「一つの狙いはそうだと思いますね。これまで、なんとなくタリバンという人達は、過激な人だといように思われたんですけど、ISがでてくると、何となく穏健な人に見え始めていましたね」

荻上チキ氏「一方で、アフガニスタンからの退避の活動が進んでいるなかで、アメリカ軍撤退が今月末と、おしりをもう決めています。こちらの方に、与える影響はいかがでしょうか」

高橋和夫氏「これを受けて、(撤退を)延期をするんではないかと、噂、あるいは期待もあったんですけど、バイデン大統領は『急いで撤退するのは、早く撤退しないと、こういうことが起こるからだということで、前から言ってたじゃないか、ますます撤退の時期を守る理由であって、撤退の時期を延ばすべきでない』というのが、今日の今朝方の記者会見でのバイデン大統領の理論でしたね。

 ですから、アメリカ軍は今月末に出ていくと、ただ、だからと言って、残っている外国人、アメリカ人が、(アフガニスタンから)これからでれない、ということではなくて、それは、それで、別の手を考えますよと言うのは、仰ってましたね」

荻上チキ氏「一方で、アフガニスタンにいる邦人の国外退避も進んでいないという現状もあります。先に、アメリカの撤退期限を迎えた場合、どういった懸念が残るのでしょうか」

高橋和夫氏「一つは、空港の機能がマヒするという懸念ですよね。アメリカ軍が管制ですよね。『今着陸してください』とか『離陸してください』とか、やってますから。アメリカ軍が撤退するとなれば、タリバンはそんな技術ないんですよね。タリバンは、トルコ政府に『お前たちやってくれないか』と、依頼してるという報道はありますけども、それがスムーズにいかないと、飛行機の発着が上手くできなくなるということで、ですから自衛隊を置いとくべきなのか、とりあえず、自衛隊機を避難させるべきなのか、という決断にせまられていますね」

荻上チキ氏「その後の、例えば、民間機での避難の可能性は残ってる一方で、それを管理するシステムは、脆弱になりそうですか」

高橋和夫氏「そうですね。トルコは『やる』と、言ってますけどね。実際に動かしてみないとわからないですけど、空港の離着陸の運営だけをトルコに任せるのか、警備はどうするのか、タリバンがやるのか、とか。今回の例からは、タリバンの対テロ警備能力というのは、そんなに素晴らしいものではないというのは分かりますからね。これまでタリバンは、さんざんテロはやってきたんですけど、テロを防ぐ側にまわると、結構脆弱だということがよくわかりますね」

荻上チキ氏「また、今回多くの、日本人も含めて、脱出できていない、空港にたどり着けていない、という状況がありますよね。その背景には、移動に対する様々な検問があちこちで行われており、それは意思統一されてないという見方もありますけど、そこはどうでしょうか」

高橋和夫氏「仰る通りで、タリバンの指導層の話を聞いてますと、非常に穏健で、邪魔しない、ということを言ってるんですけど、現場ではどうも、それが行き届いていないと。

 ですから、指導層が言ってることと、現場の兵士がやってることは、リズムがあっていないという感じなんですね。ですから、タリバン政権が落ち着いてくれば、ちゃんと意思統一ができればいいんですけど、もしそうだとしても、しばらくは時間がかかると思いますね」

荻上チキ氏「女性の教育の権利などは、奪わないと広報はいった一方で、地方などでは学校が閉鎖されるなど、その矛盾というのがますます大きくなるのか、それとも広報の言う通り統一されるのか、ここはどうでしょうか?」

高橋和夫氏「そこは、一つのポイントでして、おそらくタリバンの指導層のなかでも意見の相違があると思うんですね。

 タリバンというのは考えてみると、超大国アメリカの軍隊を追い出した、大勝利を収めたわけですよね。アフガニスタンのイスラム急進派は、20世紀の末には、もう一つの超大国ソ連の軍隊を追い出したわけですよね。ですから、『我々は、イスラムを信じて、戦ってきてここまできたんだ、だから次は、中国だ、カシミールだ、中央アジアだと、我々の旗を掲げて、自分達の活動を続けよう』と、思うのか、『アフガニスタンは50年も内戦をやってきて、もうこれでいいだろう』と(思うのか)、ですから、戦争は止めて、海外に出ていくのはやめて、国の再建に努めようとするのか、その決断がまだ、見えてないですよね。

 もし、戦争は疲れたから、国内の再建に集中しようという情勢が見えてくれば、女性の権利の保護だとか、すると思うんですけど、もし海外でも戦い続けるぞという姿勢が見えてきたら、国内の人権問題とかは、あまり気にしないと思いますよね。」

荻上チキ氏「人権問題に加えて、世界食糧危機計画なんかは、1400万人近くがアフガニスタンでは、飢餓状態であると指摘していて、食料配布の準備はあることも出しているんですけど、国際的な支援を受けれる余力というのは、どうですか」

高橋和夫氏「そうなんですね。アフガニスタン4000万人の人たちをどうやって食べさせていくかという問題で、タリバン政権が生き残るために、国民の支持をつなぎとめるために、やはり、国際社会の承認が欲しいということであれば、国際社会が求めるように、少数民族の権利、女性の権利の擁護というようことに動かないと、国際社会の方は、付き合いきれないということですよね。ですから、タリバンの上層部でかなり激しい議論があるのではないかと想像させますね」

 高橋和夫氏は、アフガンの内情を踏まえた上で、今後のアフガン情勢や、世界各国の動きなどを予想した。

 一方で、現在空港の管制など、すぐに、入れ替わることが難しい業務の運営も行っていることも明らかとなり、8月31日という期限を決めた米軍の撤退は、現実的に可能なのかどうか、という疑問も浮かんでくる。

 今後のアフガン情勢を見守りたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?