武士道とは異なる美意識
中秋の名月は雨が降った
明け方、外に出て西の方角に立ってみたが
雲は月の周りを寝そべって
足元の水たまりに
小説『アジアンタムブルー』を思い出した
大崎善生さんが描いた小説のヒロインは
水たまりの写真を撮っていた
ヒロインは余命一ヶ月で
最期は主人公であり、恋人とニースへ旅立ち
息を引き取る (多分、そうだった気がする)
アジアンタムの葉みたいな、繊細な作りのヒロイン
男性が求める理想像なんだろうなって
うちの窓には、アジアンタムを飾っている
丁寧に扱わないと枯れてしまいそうで
毎日、手を入れるのだけど
光を通す葉は、華奢で壊れそう
水たまりにしろ、アジアンタムにしろ
細い生命線で、目を離すと消えてなくなりそうな
ある意味、死って歓迎されているように思う
美しさって、育むのではなく消えゆくもの
散々苦しんだ先にある、希望
武士道とは異なる美意識が生きる事を放棄させる
わたしの生命線は、親指の根元までしかない
自分の死をイベントにされないよう
猫のように、そっと居なくなろうと思った