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短編: 闇の中に浮かび上がる③

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僕は日々、チクりんのブログを閲覧しながら、
彼女の影響力と周囲の反応に翻弄されていた。

彼女の投稿は常に注目を集め、フォロワーたちの反応は賛否が分かれる。

僕は冷静に状況を分析しようとしても、心の中には苛立ちが渦巻いていた。

「どうして彼女はこんなに人気があるのか?」
自問自答することが多くなった。

チクりんの文章力は確かに優れているが、
同時に傲慢さが鼻につく。 

彼女のファンたちが無条件に彼女を持ち上げる様子を見ると、僕は心の中で
「本当に理解しているのか?」
……疑問を抱く。

クレーム対応をしていると、チクりんに対する批判的な意見も多く寄せられる。
僕はその都度、彼女を擁護しようと努力する。

しかし彼女の言動が逆に火に油を注いでしまうことがあり、特にチクりんの言葉が攻撃的であるため、周囲との摩擦が生まれているのだ。

そんな僕の悩みや他のユーザーとのコミュニケーションに苦慮しているときだった。

彼女が「私の文章を理解できないヤツはゴキブリ」
公言した瞬間、僕の心は底冷えした。

当然フォロワーたちの反応は二分され、
彼女を支持する人々と彼女を嫌う人々の間で激しい言い争いが始まった。

僕はその様子を見て、無力感に苛まれた。

「どうして彼女はもう少し配慮できないのか?」と考えながら、僕は彼女に注意を促すべきか悩んだ。だが、彼女のプライドを傷つけることを恐れ、結局何も言えずにいた。

彼女の成功を支えたいと思いつつも、彼女の行動が僕に対する信頼を揺るがしているように感じた。
「僕も彼女に嫌われたくない一人かもしれない」

それでも、僕はサイト全体を管理する責任を果たさなければならない。
彼女の影響力が大きいだけに、僕の行動がユーザー全体にも影響を与えることを理解していた。

だからこそ彼女の言動に目を光らせ、時にはフォロワーたちの意見を取り入れながら、より良い運営を目指すことが求められていた。

心の中で葛藤しながらも、僕は今日も彼女を想い、記事をチェックし、コメントに目を通し、必要な対応をしていく。彼女の成功を願う気持ちと、彼女の投稿に対する不快が交錯する日々は続く。



「『なぜなぜブログ』管理人の武内と申します。
チクりん様、少しお話させてください」
管理運営者がユーザー個人へコメントするのは異例で、社内規定に反していた。

僕は心を決めて、彼女のコメント欄に文字を打つ。周囲の反応が気になっていたからだ。

彼女はいつも自信満々で自分の意見を貫くタイプだが、良心や情があれば少しは耳を傾けてくれるかもしれないと思った。

「なんですか」
彼女は不機嫌そうに返事をした。返信に棘があり、僕の言葉を待ち構えているかのようだった。

「最近、あなたの投稿に対する批判が増えています。他の利用者様の気持ちを考えたことありますか?」
僕は慎重に言葉を選んだ。

「管理人は常識がないんですか。常識がある人は挨拶をしてコメントします。挨拶できないキチガイと私がまともに会話ができると思うのですか」
チクりんは前置きして続けた。

「害虫どもの批判なんてどうでもいいわ。
私は私のスタイルを貫くだけよ」
チクりんは冷たく言い放った。
彼女の言葉は自分が絶対に正しいと信じて疑わない強い意志に見えた。

「ですが、そのスタイルが周囲を傷つけています。あなたの言葉には影響力があるから、もう少し慎んでほしいんです」
僕は管理人としてではなく、人として必死に訴えた。

「配慮せよと?そんなもの、私に必要ないわ。
バカにバカ、キチガイにキチガイは本当のことよ。
あなたが私へ配慮したらどうなの?
私のフォロワーは私を支持してくれているし、フォロワーのために書いているのよ。間違っている?」

彼女の返信は冷酷で、僕の呼びかけを完全に否定していた。

「それでも、あなたの言葉が他の人にどんな影響を与えているか考えてみてください。あなたを大切にしている人たちが、あなたの言葉によって傷ついているんですよ」
僕の指先に力が入り、必死に訴えた。

「私の問題じゃないわ。
バカの愚痴を聞くのがブログ管理運営する武内さんの仕事でしょう?
それに私が正しいと思うことをするのが一番大事なの。5000人のフォロワーに望まれているの」
チクりんは頑なに反論する。

その瞬間、僕は彼女の言葉に絶望を感じた。
チクりんは自分の信念を守るのに夢中で、周囲の気持ちを全く考えていない。

僕はどうすれば彼女に理解してもらえるのか、モニターの前で途方に暮れてしまった。

                …つづく


この小説は、山根あきらさんとの共作になります
連載物ですが
単独の短編小説として読むこともできます

フィクションです