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ショート: セル結合と焼き芋の

どのキーに触れたのか、セルが結合し戻らず、
苛々だけが募ってゆく。

「乙です〜、食べな」
先輩の薫が半分に割った焼き芋を手渡し、私の隣に座った。
「この焼き芋、高かったんだよ」
ほら、と私に促し、薫は芋に息を吹きかける。
焦げて甘い香りが辺りを包んでゆく。

「ごちになります」焼き芋を手に涙が溢れてきた。
「私も結合したい」
薫は「どしちゃった?」あらあらと笑い出す。

「薫さん、私ね、旦那の元に戻りたくなった」
焼き芋は、旦那のいる集落を思い出す。
秋になると、乾いた落ち葉と陽がサラサラと降り、
あぜ道から、草が燃える匂いがする。

田舎にいた時の音が、焼き芋の匂いで蘇る。
あんなに慈悲深い旦那を置いて都会に住んだ私は
正しい選択をしたのか。

「アンタの話を聞いていると擬態語が豊富ね。
焼き芋と掛けて、音声燻製かな?
焼き芋は燻製じゃないか」

スマホの画面が明るくなり、旦那の満面の笑みが壁紙として浮かぶ。
「旦那しか愛せない」本音まで浮かんできた。

#毎週ショートショートnote
#たらはかにさん