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短編: 仕事は生活です ⑥

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最終話 年末年始は傾向と対策 

日向は私の話を聞きながら時々唸る。
「そもそも、内野さんって人はどんな人物?」

どんな人物か訊かれても、内野さんの長所が思いつかない。

当たり前だ、年明け5日から一緒に働くのが嫌で、
その前は内野さんのミスでお詫び行脚をしていたから、良い面が出てこない。

愛嬌があり、明るいぐらいかもしれない。

「ごめん、欠点しか浮かばない。
こんなの悪口になっちゃうよね」
私は俯いてしまう。
それに内野さんと親しい仲ではない。

「別に、だからって萌絵を軽蔑したりしない。
言わないなら言わなくていいし、言ってスッキリするならそれもヨシ」

日向は優しいな。



山下さんが内野さんへ尖った言い方をしたとき。

内野さんは言われた業務を行うが、業務目的を理解してなかったように思う。
作業へ優先順位がなく言い訳して、
業務時間内に仕事を終わらせる意識が低いと思う。

「山下さんに指示されたから、ワタシは書類を打ち込むだけ」

作業過程と結果に何らかの不都合があっても、それは指示を出した山下さんの責任であって、「ワタシは言われただけ」の姿勢に見えた。

内野さんは方法をまるで考えてない。

書類を手早く正確に済ませる手段を自分で考えず、自分の思いつきに固執し、社内規定にあるマニュアルややり方を教えてもらうものでは、内野さんの考えでは非効率と捉えているような。

ここだけを見ても、責任感が欠如した人に感じる。

山下さんとトラブルがあっても、他力本願な部分があり、山下さんやかっちゃんとも揉めた状況になっても、他人事として緊迫した言動がなく、のんびりとした態度に感じた。

朝から同じ書類をぼちぼちやって、言われていた書類を結局はパートさんにやってもらい、業務分担を放棄していた。

私には内野さんの自己中心的な性格に見える。

それは山下さんから聞いたエピソードにもあり、
夜に電話をして暴言や罵倒してしまう点。
山下さんの話を聞かないし、受け入れにくいから内野さんは記憶の改竄があったのではないか。

自分の存在に固執し、山下さんの立場になり考える気がないのだと思う。

見方や考え方の違いを理解する気がなく、
内野さんは自分の考え方を絶対視したので、
髙橋様の墓石へ掘る旧字体も周りへ確認せず、勝手に二重線を引いたのではないか。

職人さんへ内野さんが話した
「会社から追い出される」などの被害妄想も、
内野さんが持つ理想とした待遇と違ったので、山下さんに対して批難や挑発、そして馬鹿にするような態度を取っていたのかしら。

パートさんの送別会で有るまじき発言をしたのは、他人への無関心で、自分が言われるのではないから知ったことじゃない、パートさんの気持ちを慮らない態度もなぁ。

結局のところ、山下さんとトラブルになってもパートさんや私を頼ったのは、内野さんは人は下僕である思考というか、パワハラやモラハラを受けたのなら、自らが役職たちへ起こすはずの行動を起こさない。

そして、周りはみんな内野さんへ嫉妬しているという過剰な根拠のない自信に満ちた、
自分の身は自分で守らないお姫様気質。

教えてもらうことへメモを取らず、または自力で勉強もせず、先人の背中を見ようともしない。

必要不可欠な知識が皆無で、自分の思い込みに固執して重要な職務を果たさないいい加減さと、
人として周囲への感謝や謝罪もない、上手くいかないと環境や他人へ責任転嫁する、のうのうとした態度に受け取れた。

段々と内野さんへ真剣に考える私へム・カ・ツ・ク

内野さんの事情や背景は何なんだろう?
内野さんが入社する前に本社から送られてきた履歴書は31歳にしては転職回数が多く、どこも務まらなかったか、飽き性なのか。

私が理解できない人は、他の惑星から来たことにしよう。美容によくない。



「日向、ごめん。内野さんがどんな人か私には分からない」

内野さんの背景や価値観、性格などが掴めない。

ただいつも文句ばかり言って、会社へはお弁当とお菓子を食べに来ている人にしか見えなかった。
こうした人物が存在しているのが、改めて不思議に思えた。

新年が明けたら、内野さんを知る努力をすべきか悩むところ。

私は日向の額と額をくっつけ
「ねぇ、日向。内野さんを理解しようとする努力が必要なのかな?」

仕事だから友達は要らないとしても、摩擦は起こしたくない。あれだけ体調不良になったので無難にやり過ごしていきたいのが希望だ。

「別に仲良くする必要やその人を知ろうとか思わなくていいんじゃないかな。
『〜そうなんですね』『〜そうですか』
否定も肯定もせず、のらりくらりとかわしていればいいと思うよ、萌絵ちゃん」

時計を見るとそろそろ除夜の鐘が響く時間。
「萌絵。初詣に行こう?たこ焼き食べたいな」

日向をギュッとハグして
「聞いてくれてサンキュー!
今日は私がたこ焼き奢るね」

悩むより、なんとかするしかない。

人間関係は距離を置きながら、
業務は私ひとりで解決しようなど考えず、役職がある人たちと連携を取り、指導と監督を強化していくのが私と内野さんが向上する術かもしれない。

なんて思う反面
「こうまでしてする仕事ってなに」

誤りに対して正当な注意をされて被害者意識を持つ、仕事が覚えられないのではなく『覚えようとしない』なら、ひとり親方の個人事業主にでもなって、ハラスメントがない会社を起業すればいいのよ。

内野さんも私も。

日向が掴んだ手を私は引っ込める、
他人と繋がりたくない本心が反射的に出た。

         完