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無垢と偏見なく過ごせると思っていた

流暢に澄んだ声で話せたら、どれだけ良かったか
人前で話すことが苦手なわたしに
「そうなんですね」「かしこまりました」
「では、手配いたします」
手短にお客様を肯定して、静かに去る作業

葬祭業にいて、天職だと感じたのは
多弁じゃなくて良い部分

うるさいに近い状況より
手早く、でも静かに時が移りゆく場所は
比較的、心を刺すことなく

人の死に接していても、穏やかに過ごせたのは
死者はわたしを傷つけたりしない
奇妙な安心感があった

包帯でぐるぐる巻き、片目だけが露出したご遺体も
お骨が変色して粉々であっても
生きている人間より何百倍も優しく、おとなしい

担当エリアの墓園に行くのは、気持ちが安らぐ

彼岸や年末年始、お盆の華やぐ静寂
普段の変化がない佇まいを高台から眺めると
墓園に埋葬されているだけで、天国な
合祀された故人も、きっと寂しくない
ものを言わずとも、多数と交流している感じがした

この場に眠る方々がわたしを護ってくれる気がした

だから、きっと
わたしの天職は死者と向き合うことなのだろう
人は死ななきゃ穢れなき者にはなれない
無垢と偏見なく過ごせると思っていたので、天職

現職で働いていた頃から、ずっと思っていた