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短編: 手を繋ぐ片想い

花火と手が繋がった瞬間、瑠美の心は高鳴った。
夜空に打ち上がる色とりどりの花火が、まるで瑠美の気持ちを映し出すかのように輝いている。

「一緒に見られて嬉しい」 
瑠美は言いたかったが、言葉を口の中で留める。
代わりに瑠美は歩夢の手を強く握りしめた。

歩夢はこちらを向き、優しく握り返してくれる。
言わなくても通じ合うものがあると感じた。

歩夢の温もりが、瑠美の心にじんわりと広がる。
しかし温もりが心地よい一方で、瑠美の胸には言葉にできないもどかしさが澱んでいた。

「好き」と言いたい。

思うのに、口から出てくるのは
「きれいだね」「来てよかった」
ありきたりな言葉、今じゃなくていい言葉。

「花火と手が繋げてよかった」
言いたいのはそれじゃない。

瑠美は気持ちを言葉にする勇気が持てずにいて、
隣にいる歩夢が、自分と同じように思っているのか分からない。
そんな不安が、瑠美の心を締め付ける。

夜が深まるにつれ、花火の音が遠ざかる。

帰路に着く人々の群、夜半の静けさが戻ってくる。

二人は何も言わずに帰路についたが、歩夢の手の温もりは、これからの二人の関係を静かに変えていく予感を抱かせた。

#シロクマ文芸部
#小牧幸助さん