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ショート: ゆっくりほぐしてゆく

凍った星をグラスに、
アップルシードルを注いでしまえば、
ちょっとした宇宙空間が楽しめる。
「宇宙は黄金色でもいいんだよ」

固定観念が付きまとうものへ、
粋なセリフが耳に心地よい。
嬉しいゴールデンウィークの始まりを予感させる。

いくら飲んでも、もう寝るだけ。
明日から九連休は、三月末から多忙を極めた自分へ
神さまからの贈り物に思えた。

私が完璧主義なのは自覚しており、
圭一から
「それは結衣の特徴で、自分が愛すべき長所と
考えることができれば、見ている世界は変わるよ」

異動する前の私は、
完璧主義を推し進めて痛い目に遭っている最中で、
完璧を目指し、繰り返す経験から
完璧主義の稚拙さが、なんとなく見えていた。

会社で働き、現実の世界を経験すると
理想と事実が決して同じではなく、
事実を積み重ねても、完璧から脱却できない私は
真綿で首を絞めているのではないかと不安だった。

何かしらの不備や気に入らない個所が
些細ながらも後から必ず出てきて、
完璧なものなんてないと肩を落とし、
同時に、周囲へも苛立ちが消えていった。

「周りに大した迷惑をかけず、
結衣が様々な人へ少し優しくなれたのも
完璧主義な性格だったからこそ、間違いに気づき
自分のものにしたんじゃないか」

圭一は私を包むように言い、気が楽になった。

凍った星はグラスで溶けてゆき、同化する。
圭一は、グラスに入った凍った星。
私が硬くなる前に、ゆっくりほぐしてゆく。

#シロクマ文芸部 #小牧幸助さん