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2024年最初に観た映画〜小津安二郎監督の“冗談と愛嬌“「お早よう」

2023年は小津安二郎生誕120年&誕生60年ということで、一昨年「淑女は何を忘れたか」、昨年「晩春」「麥秋」と観てきた。週刊文春の2024年1月4・11日号(12月27日発売)には、“Cinema Chart Special“として小津の特集記事が掲載されていた。

記事でメインに取り上げられた作品が、「東京物語」「お早よう」。前者は世界的にも有名な名作で、私も観ているが、「お早よう」はそのタイトルすら頭になかった。

記事を読むと、1959年の作品で<大人たちが子供に振り回される日常をコメディタッチで活写した>とある。評者の一人、映画評論家の森直人は<モダンな軽喜劇>と書いている。前述の「淑女は何を忘れたか」を観て、小津の喜劇的センスがとても好きだったので、この「お早よう」を観たくなった。

配信サービスU-NEXTは、かなりの数の小津作品が観られるので、こんな時は本当に便利である。

日本の戦後高度成長期時代、電化製品で“三種の神器“と言われるものがあった。冷蔵庫・洗濯機そして白黒テレビである。私が生まれたのは1961年、もの心ついた時には“三種の神器“が家にあったが、「お早よう」が公開された1959年頃というのは、これらが徐々に普及していた頃だろう。テレビが一気に普及したと言われるのが、現上皇・上皇后のご成婚で、生中継されたパレードが行われたのが、1959年の4月である。

「お早よう」の舞台は、そんな頃の日本。東京郊外に、似たような家が並ぶ新興住宅街である。映画は、そこに住まう人々を描く。

タイトルの「お早よう」は、もちろん朝の挨拶の言葉である。人はなぜ挨拶を交わすのか。

映画の中心となる、林啓太郎(笠智衆)と民子(三宅邦子)の二人の子供が魅力的なのだが、彼らが謎解きをしてくれる。

映画の中には、“無駄“の大事さ、近所付き合いの苦労と楽しみ、モノが溢れていない世界といった、現代が失いかけている生活が描かれている。一方で、シニア世代の悩み、“便利“に対する警鐘など、今に通じるテーマも感じられる。

上述の記事の中で、芝山幹郎は小津の見逃されがちな特質として、<冗談好きで愛嬌がある>と書いていいるが、まさしく<それが放流されている>愛すべき映画である。

小津作品としては2本目のカラー作品だが、家の中に架けられた絵など、小津のセンスが光るところも見どころである。

佐田啓二・久我美子が花を添え、佐田の母親役の沢村貞子、もちろん杉村春子の姿も見られる。大泉熀や殿山泰司といった怪優も楽しい。(U-NEXTのサイトで、2023年の視聴実績が出ていた。私は21作品見ていたようだが、登場出演者No.1は杉村春子だった!)

文春の記事の中には、五人の評者が「東京物語」「お早よう」以外のおすすめ小津作品を挙げている。中野翠が「淑女は〜」を、加えて「小早川家の秋」「一人息子」「東京暮色」「長屋紳士録」。

2024年はしばらく小津作品とも取り組むことになりそうだ



*「パリ、テキサス」「PERFECT DAYS」の監督、ヴィム・ヴェンダースのインタビューを発見した


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