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これは面白い!戦前の小津映画〜お洒落なコメディ映画「淑女は何を忘れたか」

戦前の一家の主人と言うと、どのようなイメージでしょうか? やはり、床柱を背にして、縦のものを横にもしない、そんな明治を引き摺った男性ではないでしょうか。

ところが、小津安二郎が戦前に作ったコメディ「淑女は何を忘れたか」(1937 松竹)のご主人、大学教授の小宮(斎藤達雄)は、奥様(栗島すみ子)から追い立てられ、気の乗らないゴルフへと向かいます。奥様は芝居見物に、小宮はゴルフへ行くと思いきや。。。。ドラマをかき混ぜるのは、大阪から上京し泊まっている姪っ子(桑野通子)、これが関西弁の迫力でかき回すのです。女性陣がドラマを支配し、タバコもスパスパ吸ってます。

小宮さんの基本的なスタンスは恐妻で、なんとか自分の本当の行動が見つからないようにするのですが、そうは行かないのが世の常なのです。象徴的な場面の一つ。

バーでの会話、項垂れる小宮に;
姪っ子「ねぇ叔父さま、そないに叔母さま恐い?」
旦那「別に恐くはないさ」
姪「それやったらもっと元気出したらええやろ。飲も」
姪っ子は、旦那だったもっと奥さんに積極的にいくべき、「ボヘン」とやったらなと諭すも、
小宮「そうも、いかんよ」と。。。。
そうもいかないんですよ。

日本、しかも戦前に、こんな洒落たコメディ映画が作られていたのですね。しかも、巨匠小津安二郎の手によって。古くさい感じはまったくなく、このシチュエーションは、そのまま現代でも通用するような感じです。ちなみに公開された1937年は、先日記事にした「大いなる幻影」のフランス公開と同年です。(日本では検閲により公開禁止となり、この反戦映画の公開は戦後でした)

加えて、素晴らしい場面が散りばめられています。例えて言うと、フェルメールなどのオランダ絵画のような構図が多出します。例えば、屋敷内のショットでは、画面奥につながるそれぞれの部屋の襖が開け放たれ、奥行きと屋敷の上品さが感じられる絵になっています。

撮影には、茂原英雄、厚田雄春の二人がクレジットされていますが、松竹のHPには、<小津安二郎と終生のコンビとなるキャメラマン厚田雄春との最初の映画である>と書かれています。この後、「東京物語」「晩春」など、世界映画史に残る名作を生み出すコンビです。

助演に佐野周二、劇場の見物客として上原謙がカメオ出演しています。彼を見かけた奥様方の一人が、「大船の上原よ」と指摘します。大船とは松竹の撮影所、こんな屋号みたいな呼び方したんですね。また、脚本のジェームス槙は、小津自身の別名義です。


こういう映画を見せられると、「小林信彦の日本映画ベスト50」の未見作品消し込み作業に価値があることが分かるのです



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