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小津安二郎生誕120年(再び)〜「麥秋」は多視点からのドラマ

小津安二郎生誕120年ということで、「晩春」(1949年)の感想について書いた。同作に大層感動したので、録画してあった「麥秋(麦秋)」(1951年)を観た。“麦秋“とは、麦を取り入れる初夏のこと。英題は「Early Summer」である、念の為。

主演はやはり原節子で28歳未婚という設定。「晩春」同様、彼女の結婚がテーマになる。名前も同じ“紀子“、1953年の「東京物語」でも原節子は“紀子“を演じ、これらは「紀子三部作」と呼ばれる。

「晩春」では父親役だった笠智衆は、紀子の兄で医師の間宮康一。ちなみに、笠智衆は1904年生まれなのでこの頃40歳代。「晩春」では50代後半の父親役、「麥秋」では推定40代の兄役、そして「東京物語」では東山千栄子の夫役、長女役が杉村春子と、「紀子三部作」で様々な年代を演じている。凄い人だ。

「晩春」は父娘の二人暮らしだが、うって変わって、「麥秋」で描かれる家族は、康一とその妻(三宅邦子)、二人の男子に紀子の両親周吉夫婦(母親役は東山千栄子)、いわゆる小姑の紀子が同居する大家族。さらに、周吉の兄が奈良から遊びに来ている。なお、康一には弟・省二がいるが、戦争で南方に行き消息不明である。

このように、「晩春」とは違い、多くの視点が映画の中に描かれるところが特徴である。加えて、杉村春子は近くに住む矢部家の寡婦で、息子謙吉は省二の友人で周吉と同じく医師。彼の妻は娘を残して亡くなっている。

映画の前半、紀子と謙吉が北鎌倉の駅のホームで出会う場面があるが、謙吉が読んでいたのは「チボー家の人々」。子供の頃、親戚の家に遊びに行くと、本棚にこの小説が並んでいて、いたく知的な空気を感じた覚えがある。そんな記憶もあって、頭に残るシーンである。

「晩春」同様、「麥秋」も紀子=原節子の結婚問題なのだが、それに家族全員がなにかしらの関わりを持ち、それぞれ様々な思いを抱く。観客は、きっと誰かしらに感情移入するのではないだろうか。

家族に加えて、紀子の友人で独身のアヤ(この名も再度登場)の淡島千景がところどころでアクセントを効かせる。紀子/アヤ vs 既婚の友人二人のやり取りは見ものである。

とにかくこの映画も面白い。「晩春」同様、時代背景は戦後からさほど年数が経っていない時期だが、表現される世界は普遍的なものである。

例によって、小林信彦さんの感想を見てみよう。昨年文藝春秋本誌に出した「わが洋画・邦画ベスト100」に本作は入らなかったが、「2001年映画の旅」に収録したベスト200には入っている。その寸評は、<「晩春」につづく北鎌倉中流家庭映画。原節子はもちろんだが、淡島千景がいい>とある。淡島千景、元宝塚の娘役で、可愛いんです。

生誕120年、没後60年の記念の年、小津安二郎作品を観よう!



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