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#25 写真家・仁科勝介「かつおがゆく」(2020.10.23&30)

アラフィフのおじさん2人が会議する「文化系クリエイター会議」、実は若者のことがめちゃくちゃ気になってて、いろんな話をしたいと思ってます。ということで今回は大学出たての24歳、仁科勝介さん、通称かつおくんの登場。ブンクリ的にはこれまでで一番の若手じゃないですかね?

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めちゃいい子そうでしょ? かつおくーん、って感じでしょ? で、そのかつおくんとは一体何者なのか?

簡単に説明しますと、広島大学在学中に「日本全国1741の市町村すべてを巡って、写真を撮りたい!」という夢を抱き、スーパーカブで旅をし、クラウドファンディングで資金を集めながら2年弱かけて完遂。旅の模様は自らが立ち上げたホームページ「ふるさとの手帖」に随時アップしつつ、終了後は自費出版で写真集『日本よはじめまして』を上梓します。それが大手出版社の目に留まり、2020年『ふるさとの手帖』(KADOKAWA)として出版。さらに糸井重里さんからも注目され、渋谷パルコで個展を開催するなど、いま脚光を浴びている写真家さんなのであります!


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では、はりきっていってみましょうか、いわゆる「親子くらい歳が離れた者同士」のクリエイティブ会議! まずはどこから写真の道へ?

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写真は高校時代からずっと撮ってて、高校・大学と写真部に所属してたんです。将来は……「就活どうしよう?」って感じですよね。僕は4年生のとき、まわりはどんどん内定が決まっていく中、学校を休学して旅に出て。僕としては旅してるうちに何か見えてくるかなぁ……と思っていたけど、旅で見えてくるわけではなかったですね

「全国の1741市町村を回る旅」は大学1年時からやりたいと思っていたそう。そのため大学2~3年はお金を貯めて、単位を稼いでおく時期に充てたとか。若者、しっかりしてる~!

ただ、学生のうちに旅を終えられる確証はなかったです。日本全国の市町村って1741あるんですけど、1年365日かけて回ったとしても1日5ヶ所近く回らなければいけない計算になって。だから最初は「30歳くらいで終わってたらいいなぁ」くらいに考えてました

そもそもなぜ旅だったのか? なぜ日本全国だったのでしょう?

大学1年のとき、ヒッチハイクで九州を一周したことがあって。それは若気の至りで急に飛び出したんですけど、そのとき知らない場所で知らない人に知らないところに連れて行ってもらう感覚を味わったんです。これまで勉強で日本のことを知ったつもりになってたけど、そこで「自分は何も知らなかったんだなぁ」と思って。それで大学生のうちにもう一回自分らしいことをしたいと思ったとき、「市町村!」って言葉が雷が落ちるみたいに降ってきたんです。それで調べたら日本に市町村は1741あるってわかり、これは無理だと思ったけど……自分のやりたいこととは合致してると思ったんです。「もしそれができたら夢があるな」と。いきなり全部は無理だとしても、少しずつ回ってみよう、と。そこから計画がはじまったんです

そして2018年3月26日、あとさき考えないままバイクにまたがり、いざ出発。しかし初日からかつおくんを悲劇が襲います!

旅の初日にバイクで転んでしまったんです。ヒザからは骨が見えてて、傷口をタオルで縛って我慢して。事故現場から200キロ、6時間ほどバイクで走って病院に行きました。で、全治3ヶ月……。初日の夜、車いすに座って病院の天井を眺めて「俺の旅、1741のうちの2ヵ所目で終わったな……」。お先真っ暗、どん底からのスタートでしたね……

1741市町村の旅の2ヵ所目で、いきなり全治3ヶ月。さあ、どうなるかつおくん? かつおくんの運命やいかに!

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しかし若者はめげません。3週間後にはもう再開。全治3ヶ月って言われてたのにコレですよ。しかし旅は予想以上に過酷なものでありました。その大変さを加速したのが、その日のうちに旅の模様をホームページにアップするというマイルール。旅するだけでも大変なのに、そりゃキツいよ!

夜はネットカフェで文章を書いて、写真をセレクトして、記事更新っていう編集作業をするんですけど、ネットカフェって通常7~8時間の時間制なので、その間に作業を終えないといけないプレッシャーがすごくて。だから寝ても仮眠みたいな感じ。その日撮ったものをその日のうちにセレクトしておかないと、毎日旅が続くんでどんどん溜まっていくんです。だからひたすら自分と戦ってる感じでした

誰にも頼まれていないのに、この苦行。さらにかつおくんを追い詰めたのが、1741市町村全制覇のため「つぎつぎ先に行かなければならない!」というノルマ感&プレッシャー。ゆっくり旅を味わうなんてできないワケです。

景色がいいところとか、美術館や博物館に入るときは「これでしばらく先に進まなくていい……」という安堵感があって(笑)。たまにゲストハウスや友達の家に泊まったときの会話が元気の元になりました

もはや何のために旅しているのか不明な状況。一見、気ままな放浪旅のように見えて、楽しさは2割くらいだったとか。ちなみに、そんな修行旅行の裏に彼女の支えとかあったのですか?

旅がはじまる前にいろいろあって、別れてしまいまして……「そういうフラフラする人はちょっと」って……ただ、逆にそれで旅に集中するしかない気分になりましたね!

くぅーーーーーー(涙)。つらいよな、若者! しかし若者にはやらねばならぬときがあるんだよな! ということで「女なんか知らねー(妄想)」とばかり家を空け、全国地図をガンガン塗りつぶしていきます。旅が進む過程では、自分の撮る写真も変わっていったようで。

旅にどのレンズを持っていくかも考えて。結局50ミリの単焦点レンズ1本で行ったんです。そうするとウソがつけないというか、目の前にあるものをできるだけそのまま切り取れるかな、と。旅をしながら写真もずっと模索してました。色味も最初と最後の方では変わってると思います

彼女にフラれた悔しさをバネに(←しつこい)、休学した1年間でなんと予定の8割、1400市町村を制覇。残すはあと2割。2割だったら学生のうちにいけるかも……ということで、かつおくんは旅の資金を集めるクラウドファンディングに乗り出します。

「旅したいからお金ください」って言ってるようなものなので最初は炎上するかもって不安で。だから募集金額も7万円にしたんです。でもそれが10時間くらいで集まって、結果的に50万円までいって。それにはすごく助けてもらいました。外に発信したせいで、絶対最後までやるしかないという気にもなったし

ホームページやSNSで発信していく過程で、かつおくんを応援していた人は実はたくさんいたのです。そして2年に及んだ旅も終了……しかし旅のゴールを迎えた瞬間に、思わぬ展開が待ち受けていたりして!

そのとき僕は旅のゴール地点の屋久島にいて、めちゃくちゃエンジョイしてて。「旅が終わった~」って普通に遊んでたら、友達から「ツイッターに糸井重里さんから連絡来てるぞ! 早く返せ!」って連絡が来て――

そこからかつおくんの人生は大きな転換を遂げます。今は広島から東京へ出て、フリーのカメラマンとして活躍中。旅の帰結として「好きな写真が仕事になる」という未来が待ち受けていたのです。最後に、かつおくん、どうして旅に出るという「一歩」を踏み出せたのでしょう?



「この先にどんな世界が見えるんだろう?」っていう好奇心ですかね。やってみてどうなるかはわからないけど、やったら何か得られるんじゃないかという自分に対する挑戦というか。僕は旅をはじめた時点で広大生として道を踏み外したと思ったんです。だからもう当たって砕けろの感覚というか。それがこういうことになっていくのは面白いなって思いますね

「はたしてこれに何の意味があるのか?」と思いつつ、それでも遮二無二突き進むのが若者の特権なのでしょう。常識を超えていく好奇心。そのエネルギー、おじさんたちも分けてもらいましたよ。サンキュー、ヤングパーソンズ。っていうか、旅出たいね!

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2020.10.2@HFM

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