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善人たちの人間模様~エド・マクベイン『キングの身代金』(1959)

 黒澤明『天国と地獄』(1963)を見たので、ベースになった小説をついでに読んでみた。恥ずかしながら、エド・マクベインは初めて。ハヤカワ・ミステリ文庫。

 単純に面白かったが、細部は今の時代となっては驚くほどのものではない。ただ、いくつか「いいな」と思ったところが。
 
 まず、会話に躍動感があった。ネタバレになるからあまり書かないが、犯罪被害者であるキング夫婦の会話や犯人一味の男女のやりとりには、熱情があふれる。特に、一味の内輪もめは映画にない部分で、ギラギラ感や動物的欲望が。また、犯人グループの男女をキング夫婦に対象的に配置した構成にはマクベインの意図が見える。これを黒澤明が改変したのがよかったかどうか。もちろん、映画の孤独な犯人像も悪くないのだが。
 
 あと、小説でも映画でも、主人公キングは成り上がりで、当初は決して善人に描かれていないが、子供の誘拐に心は揺れ動く。他の登場人物も本質的には善人。小説では、特に犯人側の女がよい。ここがこの小説の持ち味かな。

 全体的には、古いアメリカ社会を垣間見るような小説。また、映画を見ているような感覚も。黒澤明が拾ったことにも納得。

 デジタルとディスタンスの今日に、人間くさいストーリーを求む。

 

 
 
 
 

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