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15年前のあの日

〜ホノルル発〜

12月4日は娘の15歳の誕生日だった。

15年…長いのか、短いのか。


15年前の12月3日の午後、私は「これこそ本番」という陣痛に襲われ、病院に向かった。

予定日より1週間遅れたため、担当医は台湾旅行に出かけてしまっていた。代理で現れたのは、私より少し年上の、とても気さくな韓国系の男性医師。今はこの先生が私の担当医となり、婦人科系のもろもろの相談にのっていただいている。

出産は無痛分娩を選んだ。エピドラルという陣痛を和らげる麻酔の注射を背中に打ってもらうのだが、私にとって、この注射が最大の恐怖だった。そして麻酔科の担当医の登場で、私の恐怖心と緊張はマックスに達したのだった。

佐野史郎さん演じた「冬彦さん」(って古いな)にそっくりのその先生は、病室に入ってくるなり大声で私の名前を呼び、ニコニコ顔で「アーユージャパニーズ?」

元気なく「イエース」と答えたら、「(ここから英語)私、日本語のKIKU放送のテレビ番組が大好き」って。

「いま、KIKUテレビの話をするかね」と怯える私をよそに、冬彦先生は注射の準備をしながら「私の好きな番組は“そこが知りたい”だけど、あなたは?」と、テレビの話が止まらない。

私が「渡る世間は鬼ばかり(ちなみに英語では“Making it through”)が好きですね」と答えると、先生は「ラーメン屋の姑がいじわるなのよ〜」って。詳しすぎるぞ。そして皮膚に局所麻酔の注射をするときも、本番のおっかない注射をする時も、先生のおしゃべりはずっと続いたが、腕は確かなようで、痛みはあまり感じなかった。

ちなみに冬彦さんは、帰り際に「はぐれ刑事純情派」も好きだと教えてくれた。


翌朝、無事に生まれてくれた娘、15歳になった。


冬彦先生とのテレビ談義、つい最近のことのようだが、大昔のような気もする。

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