杏ワイルダー

昭和のころからホノルル在住。元編集者。フリーの書き人、訳し人。

杏ワイルダー

昭和のころからホノルル在住。元編集者。フリーの書き人、訳し人。

マガジン

  • 娘との日々のもろもろ

    身長も、精神年齢も母より高い娘との日々のもろもろの話。

  • オアフ島フォトスケッチ

    つい見過ごしてしまいそうな、なんでもないハワイの日常を綴ったフォトエッセイ

最近の記事

推し短歌 〜JKの娘へ〜

「行ってきます」 振り向きもせず 手も振らず 遠ざかる背に ハヴ・ア・ナイス・デー (ホノルル発)高校生になっても、反抗期とは無縁で、変顔アプリで遊んでくれたり、インスタのストーリーのあげ方を教えてくれたり、学校での出来事をおもしろおかしく話してくれていた娘が、最近ちょっと元気がない。 夕方、近所のスーパーで彼女の大好きなポケ丼を買ってきたけど、少し残した。「学校どう?」って訊いたら、「だいじょうぶよ。なんで?」って逆に尋ねられた。 翌朝、学校に送っていく車中で、娘はず

    • あの夜の選択

      あの日はなぜか、これでもか、これでもかというほど選択を迫られた一夜だった。 30年以上も前、ハワイで極貧生活を送っていた学生時代のことだ。ハワイライフは寮生活でスタートし、ホームステイ、シェアハウスを経て、ワイキキで憧れの一人暮らしがようやく実現した。 エレベーターのないボロアパートだったが、ワイキキという便利な場所にあったため、週末の夜は女友だちが集まり、ディスコに繰り出す前の“パウダールーム”として重宝された。 「あの日」も友だち数人がわが家に集い、夜遊び前の入念な

      • 初めて買ったレコード

        〜ホノルル発〜 itunesカードをいただいた娘、さっそくお気に入りの曲を購入するようだ。 1番最初に購入した曲って、あとあとまで“思い出の曲”として心に残るはずだから、「慎重に選ばなきゃ」って。 ああ、そういう大切なことをなぜ誰も教えてくれなかったのか。 娘から「自分で初めて買った曲はなに?」と聞かれる前に、そそくさとその場を離れた。 私が初めて自分のお金で買ったレコード…(昭和の子どもはレコードなのだよ) 確か小学校3年生か、4年生だったか。あの日、家族みんな

        • 15年前のあの日

          〜ホノルル発〜 12月4日は娘の15歳の誕生日だった。 15年…長いのか、短いのか。 15年前の12月3日の午後、私は「これこそ本番」という陣痛に襲われ、病院に向かった。 予定日より1週間遅れたため、担当医は台湾旅行に出かけてしまっていた。代理で現れたのは、私より少し年上の、とても気さくな韓国系の男性医師。今はこの先生が私の担当医となり、婦人科系のもろもろの相談にのっていただいている。 出産は無痛分娩を選んだ。エピドラルという陣痛を和らげる麻酔の注射を背中に打っても

        推し短歌 〜JKの娘へ〜

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        • 娘との日々のもろもろ
          5本
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          9本

        記事

          引退勧告

          〜ホノルル発〜 先々週のことだ。娘を学校に送り届けてから家に戻る途中、信号待ちで2度「ブッスン」と車のエンジンが止まりかけた。 そのあとアクセルを踏むたびにガクンガクンとなり、家に到着するまで冷や汗タラタラだった。 いつもお世話になっている車の整備士さんに連絡したら、その日の夕方にチェックしに来てくれた。 エンジンをかけては止め、あちこちチェックしていた整備士のおじさん、いつもの穏やかな顔が、今日はどことなく険しい。 「もう何年乗ってるんだっけ?」 「ちょうど22

          出会ってしまったシェパード犬

          〜ホノルル発〜 小学生のころからの夢が3年前に叶った。 シェパード犬がわが家にやってきたのだ。 2017年の夏、コンドミニアムから築60年余りの一軒家に引越したのだが、その2カ月前に、ハワイ島のヒロで生まれたシェパード犬の赤ちゃんに出会ってしまった。 ハワイ島の夫婦がシェパード犬の飼い主を探していると、地域の情報サイトに掲載されていた。さっそく連絡を入れると、7月初めに8匹の赤ちゃんを連れてオアフ島にやってくるという。 そして、ああ、出会ってしまったのである。 運

          出会ってしまったシェパード犬

          化粧なんてどうでもいいと思っていたけれど…

          〜ホノルル発〜 自宅待機命令が出されてからというもの、Webミーティングで誰かに会うとき以外は、眉毛をペンシルで描く程度のほぼすっぴんで毎日過ごしていた。 ある夜のこと。友人が投稿しているインスタの写真を眺めていたら、突如画面に二重顎のふてぶてしいオバチャンが現れた。 複数投稿された写真を右にスクロールするつもりが、間違って左にやってしまい、カメラの画面になってしまったらしい。 これが私の普段の顔なのか! いつも鏡で見ている自分の顔とは、こんなにも違い、こんなにも老

          化粧なんてどうでもいいと思っていたけれど…

          タイムマシーンで乗り物酔いした夜

          〜ホノルル発〜 昨夜、翻訳の仕事をしていると、高校生の娘がアイフォンを手に近づいてきた。 「この歌知ってる?」 若者の間で流行っている歌など知ってるわけないだろ…と小さな画面に目を向けると、見覚えのある女性が歌っていた。あれ〜懐かしい。 「竹内まりやじゃん。なんで知ってるの?」と娘に訊ねた。 彼女の話では、ある日本人男性が竹内まりやの『プラスチックラブ』を、思い出のエピソード(英語)とともにツイッターで紹介したそうだ。 どんな内容かというと… 男性が10歳のとき

          タイムマシーンで乗り物酔いした夜

          87歳の母がiPadを買った2020年夏

          『最悪な春』の中で森山直太郎さんは、2020年の春を忘れることはないだろうと歌っていた。 コロナ禍で当たり前の日常が奪われ、我慢と不安の日々…。 私も決して忘れないし、この苦境を必ずや乗り越えて、孫やひ孫に「あの時はさあ、もう大変だったんだから」と頑張った自分を自慢してやるのだ。 さて、自粛生活も5カ月目に突入した8月のこと、昭和8年生まれの、アナログ人間の母が、なんとiPadを買った。 これまでも母はスカイプで「元気にしてる?」と極たま〜に連絡してきた。ただ私の姪の

          87歳の母がiPadを買った2020年夏

          焦り歴

          私は自分の誕生日をとても気に入っている。自慢でもある。 8月8日。 末広がりの縁起のイイ、明るい未来が待ち受けている… この世に生を授かったことに感謝し、「よし、また1年がんばるぞ」と決意新たに歩みはじめる… そんな日のはずなのだが、ここ数年、いやもっと前からか、そんな気分にはなれない。 焦っている。 新聞社を辞めてフリーのライターになったのに、 書きたいことが、 伝えたいことが、 うまくまとまらない、 そして 年ばっか食っていく自分に 非常に焦ってい

          1串の親孝行

          私の記憶の糸は、たどっていくと大抵、食べ物に繋がる… 今年は土用の丑の日が2回あったと聞く。 うなぎの蒲焼きは大好物だが、しばらく食べていない。 最後に食べたのは2011年の4月1日、午後1時少し前だった。昨今物忘れのひどい私だが、しっかり覚えている。 その前の日に病床の父から「どうしても食べたい蒲焼きがあるんだけど」と告げられた。 かなり前にふらりと立ち寄った、カウンター5席ほどの小さなお店で、「いままでで最高の味だった」と。もうかれこれ3週間ほど、病院食を半分も

          1串の親孝行

          姉さん女房

          〜ホノルル発〜 昨日は夫の誕生日だった。 9日後に訪れる私の誕生日までの間、私と夫は“タメ”になる。 夫は毎年決まって「同い年なんだから威張るなよ」と言い(威張ってるつもりはない)、出会った日に私が犯した年齢詐称の罪を咎めるのだ。 22歳のある夏の夜、ワイキキのディスコで私と夫は出会った。(*一部の人には学校で会ったことになっている) 当時、今より15キロ近く痩せていたヤツはかなりのイケメンだったので、「踊らない?」と誘われたとき、私は心の中で思わずガッツポーズをし

          姉さん女房

          オアフ島フォトスケッチ9

          〜この島がくれたもの〜 「心身のバロメーター」 「ここなら人を殺さないだろう」という理由で、夫が私の運転練習の場に選んだのがケエヒラグーンだった。 すぐ近くから飛び立つ飛行機の大きさに圧倒された。 免許取得後も、日暮れ時にたびたびここを訪れ、飛行機を見ながらプレートランチを頬張る。 疲れているとき、悩み事があるときなどは、決まって小さくなっていく飛行機を見送りながら、「帰省したいな」と思う。 特に飛び立ったのが日本の旅客機だったりすると、「連れてって~」「置いて行

          オアフ島フォトスケッチ9

          オアフ島フォトスケッチ8

          〜この島がくれたもの〜 「カニとり名人」 夫の家族は彼の祖父が子どものころから、レイバーデーの週末は、「カハナベイでキャンプ」というのが恒例行事となっている。 「行くか?」などと訊ねられることはなく、私も強制的に連れ出された。 つまらなそうにしている私に、義父が釣り針に網をぐるぐる巻きにしたものを手渡した。 「これでカニでもとってきなさい」。 美しく穏やかなカハナベイに、カニの大群がうじゃうじゃいることを、イカを付けた針を水中に落とした直後に知った。 日が沈み、

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          オアフ島フォトスケッチ7

          〜この島がくれたもの〜 「虹」 日本から遊びに来た家族や友だちは、ハワイ滞在中に虹が出ると決まって感嘆の声を上げる。 「わ~虹だ!」 ハワイでは雨上がりには大抵見られるので、さほど感動することもなくなったが、それでもたまに大きなアーチ型のものや、くっきりとしたダブルレインボウが出ると、写真に納めてしまう。 そして決まって日本の家族に写メールする。 「どうだ、すごいだろう」 べつに私が架けたのではないが…。 「虹の向こうに夢がある」とか「虹を見ると幸せになる」と

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          オアフ島フォトスケッチ6

          〜この島がくれたもの〜 「サンディビーチ」 ドライブの途中でここに立ち寄ると、運転席の夫が決まって言う。 「オレも年取ったなあ」 ティーンエージャーの頃、週末になるとバスを乗り継ぎ、時にはヒッチハイクまでして、サンディビーチに向かったという。 「ここは、怖いものなしだった10代の頃の自分を思い出させてくれる」と夫。 よく見ると確かに若者が多い。ほかのビーチのように家族連れの姿はあまり見られず、女の子たちの水着の面積の小ささに、思わずため息が出た。 車をゆっくり走

          オアフ島フォトスケッチ6