杏ワイルダー

昭和のころからホノルル在住。元編集者。フリーの書き人、訳し人。

杏ワイルダー

昭和のころからホノルル在住。元編集者。フリーの書き人、訳し人。

マガジン

  • 娘との日々のもろもろ

    身長も、精神年齢も母より高い娘との日々のもろもろの話。

  • オアフ島フォトスケッチ

    つい見過ごしてしまいそうな、なんでもないハワイの日常を綴ったフォトエッセイ

記事一覧

推し短歌 〜JKの娘へ〜

「行ってきます」 振り向きもせず 手も振らず 遠ざかる背に ハヴ・ア・ナイス・デー (ホノルル発)高校生になっても、反抗期とは無縁で、変顔アプリで遊んでくれたり、イ…

杏ワイルダー
7か月前
9

あの夜の選択

あの日はなぜか、これでもか、これでもかというほど選択を迫られた一夜だった。 30年以上も前、ハワイで極貧生活を送っていた学生時代のことだ。ハワイライフは寮生活でス…

杏ワイルダー
8か月前
9

初めて買ったレコード

〜ホノルル発〜 itunesカードをいただいた娘、さっそくお気に入りの曲を購入するようだ。 1番最初に購入した曲って、あとあとまで“思い出の曲”として心に残るはずだか…

13

15年前のあの日

〜ホノルル発〜 12月4日は娘の15歳の誕生日だった。 15年…長いのか、短いのか。 15年前の12月3日の午後、私は「これこそ本番」という陣痛に襲われ、病院に向かった。…

17

引退勧告

〜ホノルル発〜 先々週のことだ。娘を学校に送り届けてから家に戻る途中、信号待ちで2度「ブッスン」と車のエンジンが止まりかけた。 そのあとアクセルを踏むたびにガク…

11

出会ってしまったシェパード犬

〜ホノルル発〜 小学生のころからの夢が3年前に叶った。 シェパード犬がわが家にやってきたのだ。 2017年の夏、コンドミニアムから築60年余りの一軒家に引越したのだが…

17

化粧なんてどうでもいいと思っていたけれど…

〜ホノルル発〜 自宅待機命令が出されてからというもの、Webミーティングで誰かに会うとき以外は、眉毛をペンシルで描く程度のほぼすっぴんで毎日過ごしていた。 ある夜…

9

タイムマシーンで乗り物酔いした夜

〜ホノルル発〜 昨夜、翻訳の仕事をしていると、高校生の娘がアイフォンを手に近づいてきた。 「この歌知ってる?」 若者の間で流行っている歌など知ってるわけないだろ…

16

87歳の母がiPadを買った2020年夏

『最悪な春』の中で森山直太郎さんは、2020年の春を忘れることはないだろうと歌っていた。 コロナ禍で当たり前の日常が奪われ、我慢と不安の日々…。 私も決して忘れない…

12

焦り歴

私は自分の誕生日をとても気に入っている。自慢でもある。 8月8日。 末広がりの縁起のイイ、明るい未来が待ち受けている… この世に生を授かったことに感謝し、「よし…

15

1串の親孝行

私の記憶の糸は、たどっていくと大抵、食べ物に繋がる… 今年は土用の丑の日が2回あったと聞く。 うなぎの蒲焼きは大好物だが、しばらく食べていない。 最後に食べたの…

9

姉さん女房

〜ホノルル発〜 昨日は夫の誕生日だった。 9日後に訪れる私の誕生日までの間、私と夫は“タメ”になる。 夫は毎年決まって「同い年なんだから威張るなよ」と言い(威張…

13

オアフ島フォトスケッチ9

〜この島がくれたもの〜 「心身のバロメーター」 「ここなら人を殺さないだろう」という理由で、夫が私の運転練習の場に選んだのがケエヒラグーンだった。 すぐ近くから…

8

オアフ島フォトスケッチ8

〜この島がくれたもの〜 「カニとり名人」 夫の家族は彼の祖父が子どものころから、レイバーデーの週末は、「カハナベイでキャンプ」というのが恒例行事となっている。 …

9

オアフ島フォトスケッチ7

〜この島がくれたもの〜 「虹」 日本から遊びに来た家族や友だちは、ハワイ滞在中に虹が出ると決まって感嘆の声を上げる。 「わ~虹だ!」 ハワイでは雨上がりには大抵…

9

オアフ島フォトスケッチ6

〜この島がくれたもの〜 「サンディビーチ」 ドライブの途中でここに立ち寄ると、運転席の夫が決まって言う。 「オレも年取ったなあ」 ティーンエージャーの頃、週末に…

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推し短歌 〜JKの娘へ〜

推し短歌 〜JKの娘へ〜

「行ってきます」
振り向きもせず
手も振らず
遠ざかる背に
ハヴ・ア・ナイス・デー

(ホノルル発)高校生になっても、反抗期とは無縁で、変顔アプリで遊んでくれたり、インスタのストーリーのあげ方を教えてくれたり、学校での出来事をおもしろおかしく話してくれていた娘が、最近ちょっと元気がない。

夕方、近所のスーパーで彼女の大好きなポケ丼を買ってきたけど、少し残した。「学校どう?」って訊いたら、「だいじ

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あの夜の選択

あの夜の選択

あの日はなぜか、これでもか、これでもかというほど選択を迫られた一夜だった。

30年以上も前、ハワイで極貧生活を送っていた学生時代のことだ。ハワイライフは寮生活でスタートし、ホームステイ、シェアハウスを経て、ワイキキで憧れの一人暮らしがようやく実現した。

エレベーターのないボロアパートだったが、ワイキキという便利な場所にあったため、週末の夜は女友だちが集まり、ディスコに繰り出す前の“パウダールー

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初めて買ったレコード

初めて買ったレコード

〜ホノルル発〜

itunesカードをいただいた娘、さっそくお気に入りの曲を購入するようだ。

1番最初に購入した曲って、あとあとまで“思い出の曲”として心に残るはずだから、「慎重に選ばなきゃ」って。

ああ、そういう大切なことをなぜ誰も教えてくれなかったのか。

娘から「自分で初めて買った曲はなに?」と聞かれる前に、そそくさとその場を離れた。

私が初めて自分のお金で買ったレコード…(昭和の子ど

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15年前のあの日

15年前のあの日

〜ホノルル発〜

12月4日は娘の15歳の誕生日だった。

15年…長いのか、短いのか。

15年前の12月3日の午後、私は「これこそ本番」という陣痛に襲われ、病院に向かった。

予定日より1週間遅れたため、担当医は台湾旅行に出かけてしまっていた。代理で現れたのは、私より少し年上の、とても気さくな韓国系の男性医師。今はこの先生が私の担当医となり、婦人科系のもろもろの相談にのっていただいている。

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引退勧告

引退勧告

〜ホノルル発〜

先々週のことだ。娘を学校に送り届けてから家に戻る途中、信号待ちで2度「ブッスン」と車のエンジンが止まりかけた。

そのあとアクセルを踏むたびにガクンガクンとなり、家に到着するまで冷や汗タラタラだった。

いつもお世話になっている車の整備士さんに連絡したら、その日の夕方にチェックしに来てくれた。

エンジンをかけては止め、あちこちチェックしていた整備士のおじさん、いつもの穏やかな顔

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出会ってしまったシェパード犬

出会ってしまったシェパード犬

〜ホノルル発〜

小学生のころからの夢が3年前に叶った。

シェパード犬がわが家にやってきたのだ。

2017年の夏、コンドミニアムから築60年余りの一軒家に引越したのだが、その2カ月前に、ハワイ島のヒロで生まれたシェパード犬の赤ちゃんに出会ってしまった。

ハワイ島の夫婦がシェパード犬の飼い主を探していると、地域の情報サイトに掲載されていた。さっそく連絡を入れると、7月初めに8匹の赤ちゃんを連れ

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化粧なんてどうでもいいと思っていたけれど…

〜ホノルル発〜

自宅待機命令が出されてからというもの、Webミーティングで誰かに会うとき以外は、眉毛をペンシルで描く程度のほぼすっぴんで毎日過ごしていた。

ある夜のこと。友人が投稿しているインスタの写真を眺めていたら、突如画面に二重顎のふてぶてしいオバチャンが現れた。

複数投稿された写真を右にスクロールするつもりが、間違って左にやってしまい、カメラの画面になってしまったらしい。

これが私の

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タイムマシーンで乗り物酔いした夜

タイムマシーンで乗り物酔いした夜

〜ホノルル発〜

昨夜、翻訳の仕事をしていると、高校生の娘がアイフォンを手に近づいてきた。

「この歌知ってる?」

若者の間で流行っている歌など知ってるわけないだろ…と小さな画面に目を向けると、見覚えのある女性が歌っていた。あれ〜懐かしい。

「竹内まりやじゃん。なんで知ってるの?」と娘に訊ねた。

彼女の話では、ある日本人男性が竹内まりやの『プラスチックラブ』を、思い出のエピソード(英語)とと

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87歳の母がiPadを買った2020年夏

87歳の母がiPadを買った2020年夏

『最悪な春』の中で森山直太郎さんは、2020年の春を忘れることはないだろうと歌っていた。

コロナ禍で当たり前の日常が奪われ、我慢と不安の日々…。

私も決して忘れないし、この苦境を必ずや乗り越えて、孫やひ孫に「あの時はさあ、もう大変だったんだから」と頑張った自分を自慢してやるのだ。

さて、自粛生活も5カ月目に突入した8月のこと、昭和8年生まれの、アナログ人間の母が、なんとiPadを買った。

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焦り歴

私は自分の誕生日をとても気に入っている。自慢でもある。

8月8日。

末広がりの縁起のイイ、明るい未来が待ち受けている…

この世に生を授かったことに感謝し、「よし、また1年がんばるぞ」と決意新たに歩みはじめる…

そんな日のはずなのだが、ここ数年、いやもっと前からか、そんな気分にはなれない。

焦っている。

新聞社を辞めてフリーのライターになったのに、

書きたいことが、

伝えたいことが、

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1串の親孝行

1串の親孝行

私の記憶の糸は、たどっていくと大抵、食べ物に繋がる…

今年は土用の丑の日が2回あったと聞く。

うなぎの蒲焼きは大好物だが、しばらく食べていない。

最後に食べたのは2011年の4月1日、午後1時少し前だった。昨今物忘れのひどい私だが、しっかり覚えている。

その前の日に病床の父から「どうしても食べたい蒲焼きがあるんだけど」と告げられた。

かなり前にふらりと立ち寄った、カウンター5席ほどの小さ

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姉さん女房

姉さん女房

〜ホノルル発〜

昨日は夫の誕生日だった。

9日後に訪れる私の誕生日までの間、私と夫は“タメ”になる。

夫は毎年決まって「同い年なんだから威張るなよ」と言い(威張ってるつもりはない)、出会った日に私が犯した年齢詐称の罪を咎めるのだ。

22歳のある夏の夜、ワイキキのディスコで私と夫は出会った。(*一部の人には学校で会ったことになっている)

当時、今より15キロ近く痩せていたヤツはかなりのイケ

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オアフ島フォトスケッチ9

オアフ島フォトスケッチ9

〜この島がくれたもの〜

「心身のバロメーター」

「ここなら人を殺さないだろう」という理由で、夫が私の運転練習の場に選んだのがケエヒラグーンだった。

すぐ近くから飛び立つ飛行機の大きさに圧倒された。

免許取得後も、日暮れ時にたびたびここを訪れ、飛行機を見ながらプレートランチを頬張る。

疲れているとき、悩み事があるときなどは、決まって小さくなっていく飛行機を見送りながら、「帰省したいな」と思

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オアフ島フォトスケッチ8

オアフ島フォトスケッチ8

〜この島がくれたもの〜

「カニとり名人」

夫の家族は彼の祖父が子どものころから、レイバーデーの週末は、「カハナベイでキャンプ」というのが恒例行事となっている。

「行くか?」などと訊ねられることはなく、私も強制的に連れ出された。

つまらなそうにしている私に、義父が釣り針に網をぐるぐる巻きにしたものを手渡した。

「これでカニでもとってきなさい」。

美しく穏やかなカハナベイに、カニの大群がう

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オアフ島フォトスケッチ7

オアフ島フォトスケッチ7

〜この島がくれたもの〜

「虹」

日本から遊びに来た家族や友だちは、ハワイ滞在中に虹が出ると決まって感嘆の声を上げる。

「わ~虹だ!」

ハワイでは雨上がりには大抵見られるので、さほど感動することもなくなったが、それでもたまに大きなアーチ型のものや、くっきりとしたダブルレインボウが出ると、写真に納めてしまう。

そして決まって日本の家族に写メールする。

「どうだ、すごいだろう」

べつに私が

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オアフ島フォトスケッチ6

オアフ島フォトスケッチ6

〜この島がくれたもの〜

「サンディビーチ」

ドライブの途中でここに立ち寄ると、運転席の夫が決まって言う。

「オレも年取ったなあ」

ティーンエージャーの頃、週末になるとバスを乗り継ぎ、時にはヒッチハイクまでして、サンディビーチに向かったという。

「ここは、怖いものなしだった10代の頃の自分を思い出させてくれる」と夫。

よく見ると確かに若者が多い。ほかのビーチのように家族連れの姿はあまり見

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