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【読書記録】『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』を読んだ話

『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』を読んだ話をします。

この本、『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』を読んだ時から、ちょっと気に合っていたんですね。

気になってはいても、ナチスを扱う書籍は連続では読めない。ほとぼりを冷ましてから出ないと、精神的にキツイ。
アニメとかのフィクションではない、現実の戦争を扱う書物、特に虐殺をやった国家・軍隊を扱う書物って、読み続けると、当事者たちの悪意にあてられて、メンタル病みます。取り扱い要注意!
でも、読まずに目をそらし続けることも悪意なので、休み休み読むことにしてます。研究者の方々には、本当に頭が下がります。もう感謝しかない。ありがとうございます!

ということで。

この本は、ネットにはびこる「ナチスは良いこともした」という意見に全面的に向き合い、本当にそう言えるのかを検証した本となっております。

ナチス研究の歴史は、戦後の年数分そのままあり、研究者も豊富で、一般向けの書籍もたくさん出ています。
なので、一次資料を部分的に拾い上げて「ナチスは良いこともした」と言う前に、先人の研究成果を読めよ、まあそこからなんですけどね。

ナチズムとはどういうものか。
どのようにしてヒトラーは政権獲得していったのか。
その宣伝活動は?
アウトバーン建設やナチスの経済政策は? 
労働者向け福利厚生は?
家族支援策は?
環境保護政策は?
などなど、各項目別に分かりやすく書かれています。数か月数年おきにしかナチス政権に関する本を読めない者にも、ついていける内容でした。

で。
ナチスの政策って、だいたいパターンがあるように読めたんですね。
① 一見、素晴らしい政策を打ち出している。
② しかし、それらはナチスオリジナルではなく、ヴァイマール共和国時代の延長線上だったり、ヨーロッパの他の国で既にやられていることだったり。
③ 失業者問題を徴兵でごまかし、戦時経済で景気を支える。
④ 各種の政策も、資金の枯渇や戦争による人手不足で立ち消えに。
⑤ 不足した資金や労働力を、より弱者(ユダヤ人や占領地の外国人)から搾取することで賄おうとする。

ナチスが政権を取るために、労働者層の支持が必要だったのはわかります。そのために、労働者向けの政策(失業対策や福利厚生、家族支援策)を打ち出したのも、まあ普通と言えば普通です。
ただ、ナチスが必要としていたのは、あくまで「ナチスが求めるドイツ民族の国民」であり、「ナチスを批判しない従順で協力的な国民」なんですね。ユダヤ人やロマ(旧ジプシー)の人々、障害者、ナチスに批判的な人、同性愛者らは、排除の対象。
ナチスは、優遇するドイツ民族と排除対象者との分断を図り、ユダヤ人を弾圧搾取することでドイツ民族に利を与え、反面、恐怖支配で避難を抑え込み、独裁体制を敷いていったわけです。

つまり「良いこと」とされるような政策も、アメとムチのアメでしかなく、しかも競走馬の鼻先に人参ぶら下げて走らせるようなもので、民衆の手にほとんど届かなかったし、しかもナチスに何されても我慢するしかなかった。
これで「良いこと」もしたと言えるのか? という話。

まあ、政府を批判するのは良くない、と言う人もいる世の中ですから、それでもピンと来ない方もいらっしゃるかもしれません。
パワハラモラハラな上司ばっかりいる会社で働いてても、それでもお給料もらえるだけマシ、という方もいますからね。
でも、ちょっと上司の機嫌を損ねただけで、家族全員強制収容所に連れていかれて、全財産没収の上、満足な食事も与えられず、自由もなく、すぐそばに仲間の死体が転がっている状況で、自分も死ぬまで野外で重労働させられる。そんな社会に幸せなんてない。

そんなナチ政権も、民主主義の手続きを踏んで生まれたわけですし、当時の有権者の半数以上がナチスの一党独裁を望んでいなかったというのですから、選挙って怖いですね。
それでもああなってしまうんですよ。

この本はナチス研究の入門書ではありますが、ネット右翼に対する検証に特化していますので、巻末にお勧めの一般向け研究書がたくさん明記されています。
ナチス研究は奥が深い。それでも、少しずつでも読み進めることによって、現代の「ナチっぽい言説」もわかるようになるので、この本はぜひ多くの方に読んでいただきたいと思います。

分断をあおったり、自分に批判的な人を恫喝したり、自分たちとは違う人々を排除しようとしたり、そういうことを口にする政治家は危険。
歴史から学ぶべきことって、それじゃないんですかね。



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