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『戦国大名・伊勢宗瑞』を読んだ話。

このところ伊勢宗瑞(伊勢新九郎盛時、いわゆる北条早雲)周りの本をぐるぐる読んでましたが、やっと伊勢宗瑞個人の人物伝を読みました。
黒田基樹さんの『戦国大名・伊勢宗瑞』です。

この本は、多分、この本が書かれた2019年時点で、伊勢宗瑞について最も詳しい本だと思います。
今現在も、多分、その地位はゆるぎないのではないかと思うんですが、なにしろ日本史に強い本屋さんに行ってないので、ちょっと自信はない……。
ただ、うちの地域の図書館で検索する限り、この本以上の本って見当たらないので、伊勢宗瑞について調べようとされる方には、ぜひこの本をおすすめします。
あと、『今川氏親と伊勢宗瑞』ですかね。

著者の黒田基樹先生について、今回15世紀~16世紀の関東に興味を持つまで存じ上げなかったんですが、中世日本史の一般向け書籍をたくさん出されている先生みたいですね。
一般向けの本ですけど、ちゃんと史料を提示されて書かれてますし、研究の進歩によって以前の学説が変わった云々も書かれていて、かつご自身の学説の訂正もなさってらっしゃるので、その点は安心して読みました。

反面、お願いしたいなあと思う点として、関東から東海・北陸に至る広大な地図と、登場人物の家系図・関係図(前後100年単位くらいで)を、巻頭か巻末にでかっと載せてほしかったです。
そりゃ、ググれば地図も家系図も出てきますけど、その検索する間に集中力が切れるのがもどかしくて。

あと、人物の読み仮名も覚えきれないので、もう少し読み仮名ふってほしい……。「朝」を「とも」と読むとわかっていても、「あさ」と一度読んでから「あさではなく、とも」と読み直すのを何度やったことか……。
一族で同じ漢字を使いまわす上、出家して名前が変わったりするし、だんだん誰が誰だか(どのエピソードの人物か)こんがらがってくるので。

こんがらがる要因の一つが、すべてが時系列的に書かれているわけではない、ということもあるんですけど、こればっかりは致し方ないというか。
つまり、伊勢宗瑞ひとりに絞って書かれているとしても、その宗瑞自体が、ずっと一つのことに向き合ってそれだけで生きているわけじゃないので。

今川家のこともやりつつ、上杉家・伊豆の勢力・甲斐武田家・伊豆諸島の勢力・三浦一族等々それぞれに対応していたというのを、時系列的に書くと、どうしたって細切れになってしまうから、経緯がわかりにくくなる。
経緯をわかりやすく書くと、関連事項ごとに章立てをまとめることになるから、章ごとに時系列が若干前後することにもなる。

でもこれって、現実は歴史小説や大河ドラマみたいにはいかない、ということでもありますよね。
戦国大名は、後世の歴史好きのために存在してるんじゃなくて、当たり前ですけど、我々と同じように普通にいきていたし、目の前の問題に懸命に対応して生き延びようとしていた。

歴史上の人物を後世の目から見ると、いろいろ至らない点が目につきます。
結果論として、あれこれ好き勝手なことを言えます。我々は。

伊勢宗瑞にしたって、伊豆一国で満足していたら、相模に侵出していなかったら、ひょっとしたらエンドレスで戦争をすることにはならなかったんじゃないか、とも思うんですけどね。

でも、あの場合、とにかく目の前の問題に対応していくしかなくて、まさかそれでずるずる戦争し続けることになるなんて思いもしなかっただろうし、戦う意思を示さなかったら滅ぼされてたかもしれないし。

人生に正解があったとしても、そんなものは当事者にはわからないし、否、当事者は常に「正解」だと思って行動してるし、それは今も昔も変わらない。
歴史を読んでいると、そういうことに思い至ります。
本人があがいたって、流されてしまう人生も、あるよね。

そういう個人としての選択や生き方を読み解きつつ、人の上に立つ者としての行動に対する検証は別問題としてすべきで。

伊勢宗瑞が狙ったのは、あくまで自分と一族と配下の者たちの生活基盤だったわけで、これは世界の中の日本史と考えれば、地方政権でしかないんですけど。
でも、とりあえず海の向こうの国々はおいといて、日本が世界のすべて的な感覚で見ると、下手に天下統一を狙うよりまだ平和的というか、地に足の着いた現実路線とも言えますね。

とはいえ、世界の紛争を横で見つつ、戦国大名がやってきたこともああいうことに近かったわけで、そう思うと、ヒーロー視するのは違うような気もします。
相手を殺すことでしか解決できない問題なんてのは、本当はないと思いたい。
泥沼の戦争に引きずり込まれた宗瑞の後半生を読むと、領土拡大が彼の幸せにつながったのか、という点は、考えるべき部分でもありますね。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。



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