モーニング
清々しい朝を迎えたいならば、喫茶店でモーニングを食べるに限る。
通い慣れた店に行くもよし、新規開拓するもよし。夜、「明日の朝はモーニングから始めよう」と決めて寝床に入るだけで、いつもよりぐっすり眠れる。
*
喫茶店では、本を読む。持っていくのは、短篇集や詩集が多い。
トーストで程よくお腹を満たしたあと、コーヒーを啜りながらする読書は、格別だ。情報の定着力が高まる感覚もある。「この本、喫茶店の〇〇で読んだな」と、空間とセットで覚えていることが多い。
ここ数回の喫茶店通いで、印象に残っている本の話をしよう。
リチャード・ブローティガンの『芝生の復讐』(新潮文庫)。自宅の文庫棚にささったまま、おそらく三年ぐらい放置されていた本をようやく手に取った。
本書に収録されている「習作・カリフォルニアの花」は、コーヒーの店が舞台となっている。次に、冒頭の部分を引用してみよう。
注目したのは、文末の「盗み聞き」。
声高に公言することではないが、私もしばしば「盗み聞き」をする。正確に言えば、あとで振り返れば、結果的に「盗み聞き」と見做せる行為をしていることがある。
コーヒーを啜っていると、ふと隣の席の会話が耳に入り込んでくる。断片的にキャッチしたワードが、興味をそそられるものであったりすると、どうしても詳細が気になって、会話に意識を向けざるをえなくなる。
*
作品中で描かれる店内の客の様子は、何とも殺伐としている。
私は喫茶店で、こういう客を見かけたことはない。店にもよるのだろうが、私がよく行く喫茶店の客層は、50代後半から60代前半の夫婦が多い。派手さはないがお洒落な服に身を包み、コーヒーやケーキを口にする姿が様になっている。適度な言葉のキャッチボールがあり、時折笑みがこぼれる。
自分がいくら背伸びをしても、手に入らなそうな人間関係が、そこにはある。時折憧れの眼差しを向けつつ、私は本の世界に戻っていく。
※※サポートのお願い※※
noteでは「クリエイターサポート機能」といって、100円・500円・自由金額の中から一つを選択して、投稿者を支援できるサービスがあります。「本ノ猪」をもし応援してくださる方がいれば、100円からでもご支援頂けると大変ありがたいです。
ご協力のほど、よろしくお願いいたします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?