幸せの記憶を紡ぐ100年の歴史 横浜のショートケーキ(神奈川県横浜市)
ふわふわのスポンジ生地、真っ白なクリーム、甘酸っぱいイチゴの最強トリオ。見るだけで楽しい思い出がよみがえる。
ケーキといえばまず思い浮かぶこのショートケーキ、実は日本で生まれたものだ。
元祖については諸説あるものの、横浜発祥の老舗洋菓子店「不二家」で考案されたという説が有力だ。1922(大正11)年に元町店*と伊勢佐木町店(現横浜センター店)で売り出されてから、今年でちょうど100年になる。
それからずっと、家族の団らんやお祝いの席などで、日々の生活を明るくしてくれる特別なものとして私たちのそばにあった。不二家では発売100年を記念して、月替わりで限定のショートケーキを販売する企画が進行中だ。
横浜らしい明治期の西洋館を再現しているのは「馬車道十番館*」。1階喫茶室でのいちばん人気ももちろん、ショートケーキである。
「この丸い形もレシピも、1970(昭和45)年の創業時から変わっていません。古いものを大切にしていきたいですから」
代表の本多初穂さんが話すとおり、店内には横浜の歴史を今に伝える、数々の貴重なコレクションが飾られている。港町の賑わいを描いた浮世絵やアンティークのガラス器など、文明開化の香りに包まれて優雅な時間を過ごしたい。
パティシエールRieさんのお店の名前は「ShortcakeShortcake」とストレートだ。
「ショートケーキが大好き。自分で食べたいから作り始めたんです」。クマのぬいぐるみでいっぱいの店内は、10歳の時から毎週ケーキを作り続けてきた少女の夢がそのまま形になったよう。週に何度も通う熱心なファンも多い。
幼い頃、Rieさんがケーキを食べて喜ぶと、家族もみんな喜んでくれた。ケーキは自分も、周りも幸せにしてくれる。そう信じた子どもの思いは間違っていない。
100年の歴史がそれを物語る。
文=瀬戸内みなみ 写真=佐々木実佳
出典:ひととき2022年4月号
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