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実はパン屋激戦区 京都パンの世界【たま木亭】

京都といえば和食のイメージが強いかもしれませんが、実はパン屋激戦区の〝パンの都〟でもあります。ベーカリーを舞台にした小説『真夜中のパン屋さん』の著者で、自身もパン好きの作家・大沼紀子さんが京都の人を虜にするパンの名店を訪ねました。(ひととき2022年10月号特集「幸せをよぶパン ──パンで旅する京都と神戸」より)

幸せな1日を迎えるために、おいしいパンを用意しておくことがよくあります。起きるのが少し億劫な朝も、温めたおいしいパンを口に運べば、たいてい幸せな気分になって、その日をはじめられるからです。

そんな生活が習慣になっているのは、いつも近所においしいパン屋さんがあるおかげ。なぜだか私は、引っ越す先々でおいしいパン屋さんに巡り合えてしまうという幸運な星の下に生まれているのです。

けれどたまには足を延ばして、遠くのパン屋さんを訪ねてみることにしました。

向かったのは京都・神戸。実はともにレベルの高いパン屋さんが多い土地柄。パンの消費量も京都市と神戸市で、常に全国1位、2位を争っています。

京都・たま木亭のパン

まず目指したのは京都。和食のイメージが強い京都ですが、なぜパンの消費量が多いのか。諸説あります。千有余年の長きにわたり都が置かれていた京都は、新しいものが入ってくる文化の玄関口でもありました。そのため京都人は新しもの好きで、よいものを取り入れる素養があり、パン食も早くに受け入れていた。あるいは、伝統工芸の街ゆえ職人さんが多く、朝の忙しい時間に手軽に食べられるパンが好まれる、等々。

ただはっきりしているのは、古都・京都には豊かな食文化が根付いているということ。そんな地で作られているパンが、おいしくないはずがない。はじめにうかがった「たま木亭」で、そのことを強く実感しました。

奈良線黄檗おうばく駅から徒歩5分ほどの住宅街にある、たま木亭

記憶に深く刻まれる味 たま木亭

「たま木亭」は京都大学宇治キャンパス向かいにあるパン屋さん。遠方から足を運ぶ人も多く、店舗の近くには何カ所も駐車場が。そしてすごいお客さんの数。平日の午前中でも、お店のドアの前には並んでいる人の姿があります。店内にある大きなアーチ状の棚には、圧巻なほど多種類のパンがずらり。どれもどこか磊落らいらくとした、なんとも機嫌のよさそうなパンたちです。

たま木亭 オーナーの玉木潤さんはパンの世界大会「クープ・デュ・モンド」で4位入賞の経験を持つ凄腕パン職人。店の外まで香ばしいパンの匂いが漂う。

目移りするなか、私はパンシューと人気のクニャーネを選択。お客さんの多さゆえパンの回転も速く、並んでいるパンは焼きたてのものばかり。パンシューもまだ温かく、割ってみるとなかにはホクホクのジャガイモやベーコンがぎっしり詰まっていました。皮は香ばしさと噛みごたえがあって、噛むほどにもちもちとしていく。だからなのか、バターやにんにくの風味が強いのに小麦の味もちゃんと味わえる。大胆で力強い、噛むほどに活力の湧いてくるパン。

いっぽうクニャーネは、注文を受けてからクリームを詰めるというこだわりの逸品。一見するとパイのようなのに、かじってみて驚き。パイのようなサクサクではなく、ザクザクに近い食感。ただしザクザクよりも繊細で儚い。それが濃厚なクリームとともに、口のなかで混ざり合って溶けていく。初めての食感、初めての口どけ。なんておいしい――。

クニャーネ 筒状のパイ生地にカスタードクリームを絞った、たま木亭自慢の一品

オーナーの玉木潤さんにうかがうと、「クニャーネはクロワッサンをヒントに、今までにない食感を求めて開発したんです」との回答。なんでも玉木さんのパン作りは、新たなるものへのチャレンジの繰り返しなのだとか。

お店に一歩入ると、存在感のあるバゲットやクロワッサン(写真上・下)、多種類の総菜パンや菓子パンが並ぶ。

「基本をベースに、材料をひっくり返してみたり、他の人がやらないような工程を組み込んでみたり、新しいものを作るために常に色々と変えていってるんです。普通のことをやっているだけじゃ面白くないでしょ」

店内から見える厨房では、若いパン職人たちがそれぞれの仕事と懸命に向き合っていた

メニューの豊富さもそんな玉木さんの思いの表れ。同じパンでも改変を繰り返し、常に新しいものへと変化し続けているとのこと。

「こちらの思いが響かなかったら、リピーターにはなってもらえませんからね。味に賛同してくれる人が増えてくれるよう、新しいことに挑戦し続けてるんです。面白いですよ」

その結果がこの味と、絶えることのないお客さんの行列なのでしょう。

――この旅の続きは本誌でお読みになれます。京都のベーカリーに訪れたのち、外国人居留地としてパンの製法がいち早く伝わった神戸の名店を巡ります。おいしいパンを求めて全国から人が訪れる京都と神戸で、編集部が「このお店には電車に乗ってでも訪れてほしい」と思う選りすぐりのパン店についてご一読下さい。パンと向き合い続ける職人たち、そしておいしそうなパンの写真の数々をご覧になれば、きっと幸せな気持ちになれるはずです。

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目次
●覗いてみたい 京都パンの世界
●パンで旅するにっぽん ご当地パン10選!
●港町が育てた 神戸のパン文化

大沼紀子(おおぬま・のりこ)
作家。1975年、岐阜県生まれ。2005年に『ゆくとし くるとし』で第9回坊っちゃん文学賞を受賞しデビュー。真夜中にしか開かないパン屋を舞台にした小説で、ドラマ化もされた『真夜中のパン屋さん』シリーズは、累計150万部の大ベストセラーに。自身もパンが大好き。

*本特集では撮影のためにマスクを外しています

出典:ひととき2022年10月号

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