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故郷で出家して比叡山の麓で学んだ最澄 |大遠忌1200年で迫る伝教大師の実像(2)
山折哲雄・編
文・ウェッジ書籍編集室
今年は最澄が世を去ってから1200年という節目の年にあたります。最澄と言えば、804年に中国(唐)に渡り、天台教義を学んだことで知られ、帰国後は、日本の天台宗を開くとともに、比叡山に延暦寺をつくり弟子の育成にあたりました。
大遠忌を迎えることから、今年から来年にかけて、東京国立博物館を皮切りに、九州国立博物館、京都国立博物館で特別展「最澄と天台宗のすべて」が開催され、最澄への注目が集まっています。
この連載では、宗教研究者の山折哲雄氏が編者を務める『最澄の足跡に秘められた古寺の謎』(ウェッジ)から、内容を抜粋・再編集するかたちで最澄の実像に迫ります。
今回のテーマは仏門に入ったころの最澄です。
大国師行表の弟子となる
最澄(幼名は広野)は、『叡山大師伝』によれば、少年時代から聡明で、7歳のときには学力は周囲をはるかに抜きん出ていたようです。また、仏道を志し、「村邑の小学」が彼を師範にしたがったほどだったようです。「村邑の小学」は小学校のような在地の教育機関とされますが、「村里の学力の劣る人たち」と解すべきだとする説(佐伯有清)もあります。
宝亀9年(778)、13歳のとき、最澄は出家し、近江国の大国師伝灯法師であった行表という僧侶のもとに入門します。この時点では、出家したとはいえ、最澄はまだ正式な僧侶ではなく、最澄という僧名も名乗っていません。
行表の職名である「国師」とは、諸国に置かれていた国分寺・国分尼寺を監督した僧侶のことで、当時の仏教は国家によって統制されるものだったので、彼らは国家から任じられる役人でもありました。近江国は律令制下では「大国」に区分されたので、行表はとくに「大国師」と呼ばれていたと考えらえます。「伝灯法師」とは朝廷が授ける僧位の1つで、僧位九階の第二位にあたります。
近江国庁跡。律令時代の近江国国府は、現在の滋賀県大津市の瀬田唐橋東1kmの丘陵上にあった(滋賀県)
行表は神亀元年(724)、大和国葛上郡高宮郷(奈良県御所市)に生まれ、最澄と同じく渡来系氏族の出身でした。17歳のとき、奈良大安寺の僧道璿を師として得度しています。道璿は中国唐の人で、入唐していた興福寺の普照・栄叡の請いを受けて、戒律を伝える師として日本に招かれ、天平8年(736)に来日。大安寺に住み、天平勝宝3年(751)の東大寺大仏開眼供養では呪願師を務めています。日本における華厳宗の始祖ともされます。
ちなみに、普照・栄叡は道璿招請後も唐に留まり、揚州大明寺の鑑真に渡航を懇願します。よく知られているように、難破や失明といった幾多の試練を乗り越えた末、鑑真がついに渡航を果たして平城京に入ったのは、天平勝宝6年のことでした。
最澄が最初に入った寺院は比叡山麓の崇福寺か
行表に話を戻すと、彼はのちに近江国の崇福寺(大津市滋賀里町甲)に住み、やがて大国師に任命されます。近江国の大国師であったというのなら、行表は当然、近江国分寺の住僧であったはずであり、したがって最澄は国分寺に入って行表に師事したことになります。当時の近江の国分寺は国府が置かれた栗太郡勢多郷にあり、大津市野郷原の瀬田廃寺跡がその跡とみられます。
瀬田廃寺。近江国分寺跡に比定される(滋賀県)
ところが、最澄が出家した宝亀9年(778)当時は、行表はまだ大国師になっていない可能性があり、したがってそのころの彼は崇福寺を居所としていたはずで、最澄が最初に入ったのはこの崇福寺だとする見方もあります(佐伯有清)。
崇福寺は比叡山南東側の丘陵地に所在し、志賀寺・志賀山寺とも呼ばれていました。7世紀後半に大津宮を都とした天智天皇の発願によって創建されたと伝えられ、弥勒像を本尊として諸堂舎が建ち並び、平安時代はじめには十大寺の1つに数えられるほどに隆盛しましたが、やがて衰え、中世には廃寺となっています。
崇福寺は日本初の山岳寺院ともいわれますが、注目すべきは、比叡山の山すそともいえるそのロケーションです。最澄はのちに比叡山に籠って山林修行にはげむことになりますが、そのきっかけの1つは、彼が最初に入った寺院が崇福寺という比叡山麓の山岳寺院だったことにあるのかもしれません。
崇福寺跡。天智天皇が大津京の鎮護のために建立したとされる(滋賀県)
最澄は比叡山に至近の場所で生まれ育ち、いつもこの山を仰ぎ見ながら仏教を学んでいたのです。
――大遠忌1200年で注目集まる最澄については、『最澄の足跡に秘められた古寺の謎』(山折哲雄監修、ウェッジ)の中で、写真や地図を交えながらわかりやすく解説しています。
◎本書の目次
第1章 最澄の生涯Ⅰ――生誕から入唐まで
第2章 最澄の生涯Ⅱ――開宗から遷化まで
第3章 延暦寺をめぐる
第4章 最澄ゆかりの古寺
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