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万代シテイバスセンターのカレー(新潟県新潟市)|柳家喬太郎の旅メシ道中記

当代一の落語家・柳家喬太郎師匠。お声がかかれば全国あちこち、笑いを届けに出かけます。旅の合間の楽しみは、こころに沁みる土地の味。大好きなあのメシ、もう一度食べたいあのメシ、今日もどこかで旅のメシ──。この連載「旅メシ道中記」では、喬太郎師匠の旅メシをご紹介します。

 フードコート……その響きを聞くだけで心が弾んじゃいます。ことのほか好きなんです、フードコートという場所が。昔、池袋駅の地下に「すなっくらんど」っちゅうフードコートがあってね。そばやラーメンはもちろん、チーズドッグから寿司までいろんな食べ物屋がひしめき合う立ち食いパラダイス。安くて早いから若い頃よく通ったもんです。なくなって久しいけど、古典落語の「二階ぞめき*」を改作して「すなっくらんどぞめき」って噺を創ったくらい大好きな場所でした。

 だから今回、新潟市の万代ばんだいシテイバスセンターに来て、うれしくなっちゃった。いわゆる高速バスのターミナルビルなんだけど、発着所にちょっとしたフードコートがあるのですよ! ラーメンと炒飯チャーハンの店、おにぎりと大判焼きの店、どこも気になるけど目当ては「万代そば」。市民のソウルフードといわれる通称「バスセンターのカレー」を食べに来たわけです。

 “ライスカレー”と呼びたくなるような昔懐かしい黄色いカレー。僕は楽屋弁当として持ち帰り用を食べて以来、とりこになっちまいました。白飯を覆い尽くすようにカレーが豪快に盛られているのはお弁当でも店でも同じ。ずっしりしてます!

 とろみが強くてやさしい味わいかと思いきや、しっかりスパイシーなのがこのカレーの魔力。じわじわ辛さが追いかけてきて、クセになる。店長のたま正和さんが「玉ねぎと人参を豚骨スープで煮込んで、その煮汁とカレールーを合わせています」と教えてくれましたが、どうりで骨太な旨味があるわけだ。どこか和食っぽさを感じるのは、やっぱり“そば屋のカレー”だからなのかなぁ。邪道かもしれないけど、そばかうどんか、でた麺につゆなしでじかにカレーかけて食べたいねぇ!

 平日も大行列の万代そば。子供からお年寄りまで、みんな思い思いにカレーやそばを食べています。

「30年来の常連さんもいるので味が“変わった”なんて思わせたくない。カレーの福神漬けもずっと同じメーカーです」と玉津さん。変わらぬ味を守るって言葉にするのは簡単だけど大変なこと。その覚悟と努力でもって市民のソウルフードになったんだろうなぁ。

 僕が新潟生まれで故郷を離れていたら、帰省のたびにバスセンターのカレーを食べると思う。だって、元気が出るんだもん!(談)

談=柳家喬太郎 絵=大崎𠮷之

*吉原通いをやめられない大家〈たいけ〉の若旦那。心配をした大旦那と番頭が自宅二階に「吉原」をつくって夜遊びをやめさせようとする古典落語。「ぞめき」とは登楼せずに冷やかしながら歩くこと。「すなっくらんどぞめき」では、二階に吉原ではなく「池袋すなっくらんど」をつくる

【バスセンターのカレー】
1973(昭和48)年、万代シテイバスセンタービルの完成とともに創業した「万代そば」。立ち食いそば店ではあるが、メディアで紹介されたことでカレーライスが一躍有名になり、今では3対7の割合でカレーライスを頼む人が多いという。レトルト製品も大人気!

万代そば
☎025-246-6432 
[所]新潟市中央区万代1-6-1万代シテイバスセンタービル 1階
[時]8時~19時
[休]無休
[料]普通カレーライス530円(取材時の料金)

柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう)
落語家。1963年、東京都世田谷区生まれ。大学卒業後、書店勤務を経て89年に柳家さん喬に入門。2000年真打昇進。カレーの肉は豚肉派。豚コマだとなおうれしい。肉じゃがの肉も豚肉が好き。とにかく豚肉が好き。

出典:ひととき2023年12月号

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