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【展覧会ルポ】「運慶 鎌倉幕府と三浦一族」の見どころをご紹介!(横須賀美術館)

仏像イラストレーターの田中ひろみさんが、横須賀美術館で開催中の展覧会「運慶 鎌倉幕府と三浦一族」の見どころを現地からご紹介します!

開館15周年記念 800年遠忌記念特別展
「運慶 鎌倉幕府と三浦一族」
2022年7月6日(水)~2022年9月4日(日)
※休館日:8月1日(月)

運慶は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した有名な「仏師」で、鎌倉幕府と密接に結びつくことで活躍したことが知られています。運慶が彫ったとされるものは31体現存すると言われており(※他説あり)、奈良興福寺や、東大寺、高野山金剛峯寺こんごうぶじなどの仏像が有名ですが、関東にも運慶作とされる仏像があります。

三浦半島は鎌倉時代、有力武士・三浦一族の領地でした。三浦氏は、為通ためみちが源頼義から相模国三浦郷を与えられたのが始まりとされ、三浦半島には三浦氏ゆかりの寺院が数多くあります。近年は、鎌倉幕府において重要な地位を占めていた三浦一族の造仏に、運慶が深く関わっていたことも明らかにされつつあります。

本展では、運慶作といわれる仏像が5体も祀られている横須賀の「浄楽寺」から、不動明王像と毘沙門天像の2体が出展されています。『マンガでわかる 天才仏師! 運慶』(JTBパブリッシング)という本を描くほど運慶好きな私にとって、まさに心躍るような展覧会です。ほかにも、横須賀市内の寺院に点在する仏像22体が一堂に会する貴重な機会です。(7/31までしか展示されない仏像もあります)。

それでは、本展の見どころをご紹介していきましょう。

89歳で討死した三浦義明

1180年、源頼朝は伊豆で挙兵、石橋山(現小田原市)で平家と戦いました。駆けつけるはずだった三浦一族が暴風雨で足止めを食らっている間に頼朝は敗退、船で千葉に脱出します。頼朝の敗走を知った三浦一族は三浦半島へと引き返しますが、その後、居城である衣笠城を攻撃されます。一族を率いる三浦義明は、次男の義澄らを逃し、自身は衣笠城に残り討死しました(享年89歳)。

頼朝は義明の17回忌に法要を営み、「義明はまだ心の中で生きている」と遺族に語ったとされます。そのため17回忌まで生きたことにしようと、89歳+17=106歳で、「百六つ義明」と呼ばれるようになりました。

三浦義明坐像
一軀 国指定重要文化財
木造 古色仕上げ 鎌倉時代
神奈川県横須賀市・満昌寺所蔵
(展示は7月31日まで)

満昌寺は、三浦義明を弔うために創建されたお寺です。この像は等身大で、小さな冠をつけ、ゆったりとした衣をつけた衣冠束帯の姿です。89歳と高齢なので、シワもあり横から見ると首をつきだした猫背ですが、左右に大きく広げた袖や、とがった顎鬚あごひげに威厳が感じられます。

運慶作の不動明王立像と毘沙門天立像

浄楽寺は、運慶作の仏像が5体も安置されているお寺です。本展ではそのうちの2体、不動明王立像と毘沙門天立像が出展されています。

不動明王立像
運慶作 一軀 国指定重要文化財
木造 彩色 玉眼 文治5年(1189)
神奈川県横須賀市・浄楽寺所蔵
毘沙門天立像
運慶作 一軀 国指定重要文化財
木造 彩色 玉眼 文治5年(1189)
神奈川県横須賀市・浄楽寺所蔵

浄楽寺は、寺伝によると文治5年(1189)に源頼朝が父・源義朝の菩提を弔うために創建した「勝長寿院しょうちょうじゅいん」(鎌倉市雪ノ下)が、建永元年(1206)の台風により破損。それを機に和田義盛と北条政子が、現在の地(横須賀市芦名)に移したとされます。

運慶作の不動明王立像、毘沙門天立像の胎内から発見された仏像の魂である月輪型がちりんがた銘札めいさつも、展示されています。

月輪形銘札
二枚 国指定重要文化財附
檜薄板製 墨書 文治5年(1189)
神奈川県横須賀市・浄楽寺所蔵

月輪型銘札には「文治五年己酉三月廿日庚申 大願主平義盛芳縁小野氏 大佛師興福寺内相應院勾當運慶小佛師十人 執筆金剛佛子尋西淨花房」と記載されており、この仏像の、1189年(文治5年)に運慶と10名の小仏師*が造り、発願者は平〈和田〉義盛と芳縁〈妻〉小野氏であることがわかります。

*小仏師:主管である大仏師のもと、その手足として働く仏師のこと

矢請けの毘沙門天

横須賀市大矢部にある清雲寺せいうんじは、三浦義明の父である義継が、その父である為継のために建立したお寺です。その清雲寺の元本尊であった毘沙門天立像。

毘沙門天立像
一軀 神奈川県指定重要文化財
木造 彩色 玉眼 鎌倉時代
神奈川県横須賀市・清雲寺所蔵

頬が張り、子供のような幼いお顔。頭の兜は、取り外すことができます。腰を捻り、手には宝塔と三叉戟さんさげきを持ち、裸足で邪鬼を踏みつけています。和田合戦*の際、和田義盛を守るため敵の矢を受けとめたという伝説があり、「矢請けの毘沙門天」とも呼ばれています。

*和田合戦:1213年に和田義盛が起こした反乱。勝負は2日間で決し、和田氏は滅亡した。 

自らの姿を観音菩薩に

満願寺は、佐原さわら義連よしつらの創建とされるお寺です。義連は三浦義明の息子で、源義経に従い一ノ谷の戦いに参加、「鵯越ひよどりごえの逆落とし」で真っ先に駆け下りたとされる武将です。

満願寺には2mを超える観音菩薩立像と地蔵菩薩立像、約1.6mの横須賀市指定文化財の不動明王立像と毘沙門天立像が祀られています。今回はその4体すべてが出展されています。

右:観音菩薩立像
一軀 国指定重要文化財
木造 玉眼 鎌倉時代
神奈川県横須賀市・満願寺所蔵

左:地蔵菩薩立像
一軀 国指定重要文化財
木造 玉眼 鎌倉時代
神奈川県横須賀市・満願寺所蔵

満願寺の観音菩薩立像は像高224.2cm。地蔵菩薩立像は203.7cm。観音菩薩立像は、佐原義連が19歳で平家追討に参戦する際、自身の姿を彫らせた像と伝わっています。高いまげや、張りのある若々しい頬は、運慶作のほかのお像と似ていますが、衣がややシンプルで運慶の作風とは異なるように見えます。運慶に近い人の作で、運慶工房で作られた像だと考えられています。

また、満願寺で行われた発掘調査では、源頼朝が建立した永福寺ようふくじの跡地(鎌倉市二階堂)で出土したものと同じ瓦が出土したそうです。永福寺は、鶴岡八幡宮、勝長寿院とならんで当時の鎌倉の三大寺社の一つです。

満願寺の造営には、鎌倉幕府が深く関係したことが考えられ、頼朝が三浦義明を供養するために発願した阿弥陀堂を前身とする可能性が高いと指摘されています。また、この観音菩薩立像と地蔵菩薩立像を脇侍きょうじとして、中央には大きな阿弥陀如来坐像が祀られていたのではという説もあります。たしかに、観音菩薩立像はやや右を向き、地蔵菩薩立像はやや左を向いていることからも、信憑性が感じられます。

側面から見た観音菩薩立像。腕のアクセサリー(臂釧ひせん)は永福寺の出土品の仏像装身具と雰囲気が似ている

ほかにも、普段は金沢文庫に委託されている曹源寺の十二神将立像や、大善寺の天王立像、常福寺の不動明王立像及び両脇侍立像、無量寺の聖観音菩薩坐像(7/31まで展示)など盛りだくさんの展示です。

なお、この展覧会は、神奈川県立金沢文庫(2022年10月7日~11月27日)に巡回されます。横須賀美術館では「三浦一族」に重点が置かれた展示内容になっていますが、金沢文庫では「鎌倉幕府」に重点を置いた展示内容になるそうです。

文=田中ひろみ

田中ひろみ
イラストレーター&文筆家。大阪府堺市出身。幼い頃から絵の仕事がしたいと願うが、両親の希望に添いナースになる。お金をためてから退職し、「セツモードセミナー」で絵を学ぶ。仏像本をたくさん出し、講演や仏像ツアーも行なう。女子の仏教レジャーサークル「丸の内はんにゃ会」代表や、奈良市観光大使も務める。

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開館15周年記念 800年遠忌記念特別展
「運慶 鎌倉幕府と三浦一族」
開館日 2022年7月6日(水)〜 2022年9月4日(日)
休館日 8月1日(月)
開館時間 10:00~18:00
※会期中、展示替えがあります。
観覧料(税込)
一般 1,000(800)円
高校生・大学生・65歳以上 800(640)円
中学生以下 無料
*所蔵品展、谷内六郎館も観覧できます。
*( )内は20名以上の団体料金
*高校生(市内在住または在学に限る)は無料
*身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方と付添1名様は無料
■公式サイト
https://www.yokosuka-moa.jp/archive/exhibition/2022/20220706-696.html

▼田中ひろみさんのご著書

◉『東京・鎌倉仏像めぐり
日本各地を歩いた仏像イラストレーター・田中ひろみさんが絶賛する東京・神奈川の仏像とは? 田中さんが常日頃、ふらっと見に行く素敵な仏像を、すべて書き下ろしていただきました。その数50以上。イラストにすることで細部までよくわかること、また仏像のお顔や体型、衣の着方、指の形など、見て楽しいポイントも丁寧に解説しています。 お守りなども載せてあるので、お土産の参考にも。また、仏像の基礎知識もわかりやすく丁寧にまとめました。仏像初心者の方も、本書をおともに、ぜひ気楽に仏像めぐりへ。

◉『東海仏像めぐり
仏像というと、京都や奈良、鎌倉といったイメージがありますが、
じつは東海エリアも仏像大国。仏像初心者の方も、仏像がお好きな方にも楽しんでいただけるよう、イラストとエッセイでわかりやすく解説。これからの時期、本書を片手にぜひ東海地方へ。

◉『仏像イラストレーターが作った 仏像ハンドブック
仏像拝観が好きでたまらない人、拝観してみたいビギナーに向けて、仏像イラストの先駆者である田中ひろみさんが、“仏像旅"のコツや、仏像を前にしたときの必要な知識(仏像の種類や手にする道具、装飾など)のキホンを、漫画とイラストで紹介。仏教の世界観や仏像そのもの、お寺の配置など、ちょっとした知識が増えるだけで、仏像拝観は10倍、20倍の深さと面白さに変化します。

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